治療・手術
加藤 泰朗 2020.11.27
世界の医療DX事情

PHR普及で福祉政策の転換を目指すオランダ【世界の医療DX事情】

社会経済分野でのデジタル技術の利活用が進むオランダ


オランダは、デジタル技術の利活用に関して、EU加盟国で最も進んでいる国のひとつである。ヨーロッパのデジタル競争力を示す「デジタル経済・社会指標(DESI: The Digital Economy and Society Index)」の2020年版では、EUで最も先進的なデジタル経済国として、フィンランド、スウェーデン、デンマークと並んで、オランダが挙げられている。

医療分野のデジタル化も進んでいる。Philips社が実施した、将来の医療課題に対する患者、医療従事者の意識調査「future health index 2019」によると、ヨーロッパで調査対象となった7カ国のうち、デジタルヘルス技術あるいはモバイルヘルスアプリを使用している医療従事者の割合の高さで、オランダはイタリアに次ぐ2位だった。

PHRデータの標準仕様を提供する「MedMij」


https://www.medmij.nl/

医療機関内の医療情報のデジタル化(EHR: electronic health record)や、医療機関間の医療データ交換(HIE: health information exchange)のシステム構築がほぼ完了したオランダが、いま推し進めるデジタル医療関係の施策は、PHR(personal health record)の普及である。

背景にあるのは国の財政悪化だ。2013年9月にウィレム・アレクサンダー国王は、「20世紀型の社会福祉国家の持続は不可能。参加型社会への転換を目指す」旨の声明を発表した。「国家に頼らず、できるだけ国民自らの努力で健康増進を果たす」という、自助努力を中心に据えた政策への転換を示したかたちだ。PHRの普及は、その実現に欠かせない事業である。

2016年、PHR推進プロジェクト「MedMij(メッドマイ)」がスタートした。保健・福祉・スポーツ省、国立医療ICT研究所、患者連盟、民間保険会社など、官民共同のプロジェクトで、PHRの技術仕様やセキュリティ、相互運用性などの認証と、基準をクリアしたシステムへの認証ラベル付与などの業務を担っている。

MedMijフレームワークでデータを連携


MedMijの中心的なタスクは、住民・患者と、医療従事者との間での健康データ交換の促進することである。そのためMedMijは、安全にデータ交換を行うための環境(フレームワーク)の整備をしている。

フレームワークには、個人にPHRアプリなどのサービスを提供する事業者と、医療施設にEHRなどのサービスを提供する事業者が参加。それぞれが取り扱うデータをフレームワーク内で連携することで、安全なデータ交換を実現する。

フレームワーク内でのデータ連携により住民・患者は、自らが収集した健康情報と、複数の病院にある医療情報を、1つのPHRシステムで一元管理できるようになる。自分の総合的な健康情報が身近になることは、自らの健康状態へ意識を向けるきっかけになる。

一方、医療従事者は、住民・患者自身がウェアラブルデバイスなどで収集したデータにアクセスできるようになり、病気になる前(あるいは疾患が悪化する前)の段階で、患者自身で行う健康管理に積極的に関わることが可能になる。

MedMij準拠の主なPHRサービス


MedMijが提供するのは、あくまでも共通のフレームワーク。アプリやシステムなどPHRプラットフォームは、フレームワークに参加する事業者がMedMij基準に準拠しながら独自に構築する。住民・患者は、任意のサービスを選択し、MedMijのフレームワークを利用することができる。

MedMijのHPによれば、2020年11月10日現在、MedMij準拠のPHRサービスを提供している事業者は32社。代表的なPHRサービスには、次のようなものがある。

https://www.drimpy.com/

Drimpy」は、診療・服薬・画像などの医療データの閲覧と、医療従事者との共有などが可能なサービスである。

https://healpt.nl/healpt-pgo/

healpt-PGO」は、自らの治療に関する情報や検査数値、投薬履歴などのデータにアクセスしたり、収集したり共有することができる。

https://ivido.nl/

また、Ivido社の提供するPGOは、複数のアプリを使って自分の健康データを管理し、そのデータを医療従事者などと共有できるシステムだ。

※PGO=PHR。オランダ語で個人の健康情報を表すpersoonlijke gezondheidsomgevingの略記

環境整備だけでなく、利用を促す情報発信を


日本でもApple WatchやFitbit、Garminなどのウェアラブルデバイスが普及し、個人による健康情報の収集が当たり前になりつつある。今後は、ICTを活用しながら収集されたデータを、いかに効率的で効果的な医療に結びつけるかに力点が置かれていくことになるだろう。

2020年7月30日、厚生労働省が開催したデータヘルス改革推進本部では、「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」のひとつとして、PHRの利活用のための環境整備を挙げている。官民が共同で実施するオランダのPHR推進プロジェクトは、日本版のPHR普及施策のヒントとなるはずだ。

一方で、オランダでは、国民のデジタル医療技術の活用が思ったほど進んでいないという報道もある。利用の必要性を感じないというのがその理由だという。日本でのPHR普及では、より安全で使いやすいシステムの開発と同時に、PHRの重要性への理解を深める情報発信が鍵となるかもしれない。


「The Digital Economy and Society Index(DESI)」
https://ec.europa.eu/digital-single-market/en/digital-economy-and-society-index-desi
「future health index 2019」
https://www.philips.com/a-w/about/news/future-health-index/reports/2019/transforming-healthcare-experiences.html

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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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