治療・手術
加藤 泰朗 2020.10.29
世界の医療DX事情

AI医療で世界トップレベルを目指す韓国【世界の医療DX事情】

デジタル技術の医活用で医療費削減


韓国は、日本と同様、社会の急速な高齢化と、急性期疾患から慢性疾患への疾病構造の変化によって、医療費が急増するという課題に直面している。その対策の一つとして推し進められているのが、医療分野でのデジタル技術の活用だ。

たとえば、電子カルテ(EMR:electronic medical record)や電子健康記録(EHR:electronic health record)を積極的に導入し、業務の効率化につなげている。

厚生労働省が行った諸外国の健康・医療・介護分野のデータベースの現状調査によると、韓国の医療機関におけるEMR導入率は、2017年で病院[*1] 91.4%、医院(クリニック)[*2] 77.0%だという。同じ年の日本の一般病院[*3] での電子カルテ導入率が46.7%、一般診療所[*4] 41.6%であることを考えると、導入がかなり進んでいることがわかる。
 
主に利用されているのは、韓国最大のEHRベンダーのezCaretechの「BESTcare2.0」や、SamsungグループのSamsung SDSの「EHR」など、大手企業の製品である。

また2018年には、医療従事者間のEHRデータの共有を進めるために、「FEEDER-NET」プロジェクトを立ち上げ、共通データモジュールの開発を進めている。

LegoCamera / Shutterstock.com


国を挙げて推進するのはAIの医活用


AIの医活用も積極的に行われている。

2017年11月に発表した「革新的成長に向けた人中心の第4次産業革命対応計画」には、医療分野でのAIを活用した診断、創薬技術の開発・研究が計画として掲げられている。2019年12月17日には、「2030年までにAI領域における競争力を世界トップレベルまで高める」とした「AI国家戦略」を発表した。

韓国政府、医療機関、IT企業が共同で開発したAIソフトウエア「Dr. Answer」は、体液や組織の異常を特定することで、癌や脳血管障害、アルツハイマー病を含む8つの病気を診断する。2020年7月、サウジアラビアの病院で臨床試験が発表された。2021年前半には韓国の26の病院での臨床利用と11の病院でのテストを開始する予定だ。

JLK Inspectionの「AIHub」は、AIを活用してMRIやCT、X線、マンモグラフィなどの画像を診断するシステムだ。身体の14領域で30を超える病状(虚血性脳卒中、出血性脳卒中、脳動脈瘤、アルツハイマー病、肺癌、前立腺癌、乳癌、冠状動脈疾患など)の診断が可能だという。

ソフトバンクも出資する韓国のAI医療スタートアップ、Lunitの「Lunit INSIGHT」は、胸部X線画像やマンモグラフィ画像の鑑別診断にAIを活用する。同社のHPによれば、胸部X線画像で97~99%、マンモグラフィ画像では97%の診断精度だという。

AIによる創薬分野では、SKグループの製薬会社SK Biopharmamecaeuticalsが2018年10月に新薬開発のプラットフォーム開発を発表し、この分野を牽引している。新薬開発力を高めるため、2019年11月には、国内の新薬開発スタートアップ「Standigm」に約100億ウォンを出資した。


新型コロナウイルス感染症対策にもAI活用


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が拡大すると、韓国で次々と対策アプリが開発されたことは記憶に新しいだろう。韓国政府が提供するアプリ「自主隔離安全性保護」や、感染者が100m以内に近づくとアラームが出るTINA3Dの「Corona 100M」などである。そしてCOVID-19対策にもAIがいち早く活用されてきた。

AI医療ソリューション開発のスタートアップのVunoは、同社の画像診断ソフト「VUNO Med」のうち、肺CT画像用と胸部X線画像用のCOVID-19版を無料で公開した。これらを使用することで、COVID-19に関連する病変を自動的に検出し、スクリーニングに役立てられる。

バイオテック企業Seegeneは、AIを活用した新型コロナウイルス検査キットを開発した。迅速な検査が可能で、韓国だけでなく、海外でも広く使用されている。

実は脆弱なAI生態系。遅れる遠隔医療


韓国のエレクトロニクス産業の動向について報じるメディア「コリア・エレクトロニクス」によると、英国のデータ分析メディアTortoise Intelligenceが2020年2月に発表した世界54カ国のAI指数で、韓国は総合順位で世界8位だった(アジアでは中国、シンガポールに次ぐ順位)。

一方でその内訳を見ると、人材、インフラ、運用環境、研究レベル、開発、政府戦略、ベンチャーの全7部門のうちインフラと開発以外は、中下位圏に位置し、脆弱であることがわかった。原因は、政府支援や人材の不足、そしてデータ活用などにおける厳しい規制が挙げられるという。

遠隔医療でも、世界に後れをとっている。COVID-19対策のため、2020年2月より、一時的に電話相談・処方が認められているが、韓国では法律で医師と患者間の遠隔医療行為が禁止されており、医師からも強い反発があるからである。

ただ、こうした事態がCOVID-19によって大きく変わるかもしれない。比較的うまくいっている韓国のCOVID-19対策には、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)の経験が大きいという。MERS同様、COVID-19の経験が、韓国のデジタルヘルス業界が抱える課題を突破する糸口になる可能性は大いにある。


「諸外国における健康・医療・介護分野のデータベースの現状調査」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000548451.pdf
「 電子カルテシステム等の普及状況の推移」(日本)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000482158.pdf

*1 一般病院、歯科医院、漢方病院、精神科病院、総合病院
*2 クリニック、歯科医院、漢方医院
*3 精神科病床のみを有する病院と結核病床のみを有する病院を除く
*4 歯科医業のみを行う診療所を除く

トップ画像:Rapture700 / Shutterstock.com
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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