治療・手術
Medical DX編集部 2020.9.11

DX化は働き方改革と対になるもの〜院内でICTを活用するHITO病院の取り組み

四国の中央に位置し、香川県・徳島県・高知県と県境を接している愛媛県・四国中央市。製紙業が盛んなこの地区の中核病院である社会医療法人石川記念会HITO病院(以下、HITO病院)と、同院を中心として四国中央市で医療・介護・福祉を提供している石川ヘルスケアグループでは、従来よりICT(情報通信技術)の利活用を推進する「未来創出HITOプロジェクト」を推進してきた。ICT機器導入の理由と、DX化について、同グループ総院長で、HITO病院理事長の石川賀代先生にうかがった。

コロナ禍でのオンライン診療


──まず、この新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響はありましたか?

石川:緊急事態宣言の結果、6月ぐらいまで影響を受けましたけれども、7月中旬から少しずつ患者さんの数も戻ってきているというところでしょうか。

──HITO病院さんでは、さまざまなコロナの感染対策をとられておられますが、その中でも独自の試みとして、四国中央市の大きな産業のひとつ、製紙業の会社と協力して、アイシールドを作られましたよね。

石川:はい。まず、新型コロナの流行が明らかになっていく際、感染がどれくらいの速さで拡大するかわからなかったんですね。そして、物も入りにくくなっていたので、感染対策のための物資を確保しなくてはいけないと思ったんです。そこでアイシールドの制作を地元の企業さんに働きかけ、当院のスタッフと一緒にアイデアを出し合って…ありがたいことに、約1か月という短い期間で実用化に至りました。地域の皆さんに支えられていることを強く感じました。

──コロナ禍以前から、HITO病院さんでは「curon」によるオンライン診療を導入されていました。コロナウィルスの流行を受けて、厚生労働省がオンライン診療の時限的緩和措置を取りましたが、HITO病院さんでのオンライン診療の件数は増加しましたか?

石川:緊急事態宣言中は何件かありましたが、そんなに数が増えているわけではありません。初診は総合診療科で対応しています。再診の場合はそれぞれの診療科ですけれども、検証するほど数は多くなかったのが実情です。電話での診療に関しても、劇的に増えたわけではありません。

──今後もオンライン診療の体制はお続けになりますか?

石川:はい。今後愛媛県が感染拡大地域になる可能性もありますし、診療方法の選択肢として体制を整えておくことで、いざというときに備えられると思いますので。

iPhone音声認識アプリを使ったカルテ入力

HITO病院では、iPhoneの活用だけではなく、統合型歩行機能回復センターやスマホで健康管理をする「HITO|Bar(ヒト バー)」など、さまざまな挑戦を続けている

──HITO病院さんではオンライン診療だけではなく、このコロナ禍の以前からICT化を推進していらっしゃいますね。その経緯をお教えいただけますか?

石川:当院は、ケアミックス病院(編註:急性期病棟のほか、回復期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟などの複数機能を持った病院)ですから、構造上かなり縦動線が長いんですよ。なので、イントラネットのメールなど、情報を見るのに自分のデスクまで戻るという動作が大変なんです。ですので、まず2016年に、全医師にiPadを貸与したというのが始まりです。

──そこから次々に導入していこう、と?

石川:いえ、そこまで一気に、大がかりに、ということではなく、あくまで段階的に進めていったまでです。iPad導入後に、院内で使用していたPHSの保守が切れるタイミングがありまして、それに代わる機器について、いろいろ試行錯誤を重ねました。その結果、もともとCiscoのネットワークを導入していたこともあり、ハードルはそこまで高くないだろうということで、2018年からiPhoneを段階的に導入し、2019年4月には日勤帯に勤務するほぼ全てのスタッフに行き渡る300台を整備した、という流れです。

──このiPhoneで活用されているのが、音声認識のAmiVoice iNoteというアプリと、AmiVoiceで音声入力ができるモバイル電子カルテNewtons Mobileだそうですね。

石川:ええ。日本初のiPhoneカルテ、Newtons Mobileを導入することになったのですが、スマートフォン版のAmiVoice iNoteは当初、Newtons Mobileに対応していなかったんです。そこで我々がAmiVoiceを開発されたアドバンスト・メディアさんに提案して、対応していただいたんです。

──どのように院内へ浸透させていったのですか?

石川:まずはリハビリテーション科のセラピストに使ってもらいました。先ほど申し上げたように、縦動線が長い病院ですので、病棟間を移動している間にiPhoneに話して入力してもらう。そうすれば、PCのある自分のデスクまで帰る時間が省けますから、効率的に仕事ができます。

──ということは、皆さん音声入力を使って…?

石川:いえ、全員ではありません。入力する内容や書式によっては、PCを使ったほうがやりやすいものもあります。使うシーンがそれぞれ違いますので、リハビリのセラピストができたから、すべての職種で一律に音声入力を…というのは難しいんですよ。

──iPhoneの導入について、スタッフさんへの説明会とかはされたんですか?

石川:いいえ。当院では、まず小さい集団ではじめて、そこから浸透させていく方法をとりました。使いこなせているスタッフを見て「何それ?便利そう」と思ったスタッフに波及させていくわけです(笑)。個人的な意見ですが、こういった機器は、トップダウン的な方法で導入するのではなく、「便利だから使ってみたい」とスタッフが実感することで定着しやすくなると思うんですよ。

──自分の仕事を効率化できそうだ、という発想がないと、ということですね。とはいえ、最初に使われる方々に戸惑いはなかったんですか?

石川:スマートフォンは普段の生活でもほとんどの方が使われていますから、操作自体にそこまでの混乱はありませんでした。10数年前に電子カルテを入れたときのほうが、現場の戸惑いは大きかった記憶があります。

DX化と働き方改革はセットで考えるべき


──先ほど、効率的な仕事、というお話がありましたが、このコロナ禍でHITO病院さんは、一部業務についてテレワークに移行されたそうですね。

石川:ええ。まずコロナ以前から、医師やスタッフの働き方改革について対策を考えていたところがありました。医師の救急対応の体制であるとか、そういうものは随時、実証実験しながらやってきました。

それに、ICT機器で外部から電子カルテを見られる状況がありますので、医事課や、診療情報管理課など、自身で時間を管理し、仕事を完結できる部署のスタッフは、テレワークができるのではないかと考え、そういったスタッフからテレワークをはじめていきました。ですので、もともと働き方改革を試みていたものが、今回のコロナ禍で加速した、ということになりますでしょうか。

──働き方改革の一環としての、DX化ということですか。

石川:DX化とひとくちに言いますが、DX化すること自体がメインではなくて、働く環境についてフレキシブルな考え方を持ち、環境を変えていくことの一環として進めていかなければいけないと思うんです。

これからは人口減少が加速し、医療業界に限らず、生産年齢人口はどんどん減りますので、慢性的な働き手不足の問題が起きてくるでしょう。だとしたら、少ない人数でも業務の効率化を計り、質を落とすことなく働くこと、個人のライフスタイルに合わせて働くことが必要になってきます。となると、ICT機器を活用するのが一番だと考えたんです。スマートフォンがこれだけ普及している中で、これから入職してくる世代は我々よりももっとICT機器を使いこなせるでしょう。

それならば、使わない手はないと思うんです。設備投資もそんなにしていませんしね。皆さん費用がかかると思い込まれているだけで。

──たしかに、ICT化には費用がかかる、という認識で、手を出さないという施設もあるかとは思いますね。

石川:講演などで説明させていただくと、費用対効果ということをおっしゃる方が多いんですね。私たちも最初は、費用対効果を見るため業務量調査をしようとしましたが、スタッフの時間ばかり取るので、途中でやめたんです。ですが、便利で仕事が早く終わって、多職種間の情報共有が一度にできてと、業務上すごく利点が大きいのは明らかなんですよ。

たとえば、高齢の患者さんの運動機能や嚥下機能の問題点等を、専門職が難しい用語で説明しても、介護施設のスタッフの方には正しく伝わらない場合もあります。ですが、写真や動画で説明すれば、はっきりわかるわけです。私たちのグループの中で、非常に再入院率が高い患者さんについての情報提供を、写真や動画でしてみたところ、施設でも継続してより適切なケアや支援を行うことができ、結果的に患者さんの再入院率を減らすことができたんです。効率的に、医療の質が上がる。これはスタッフにとっても、患者さんにとっても幸せですよね。結局、DX化の目指すところは、そこだと思うんです。

ICTの導入、DX化の先端を行く医療現場。HITO病院の挑戦に今後も注目していきたい。

石川賀代
いしかわ・かよ/2002年、医療法人綮愛会石川病院(現:社会医療法人石川記念会HITO病院)入職、10年に理事長・病院長となり、19年より現職。地域包括ケア病棟協会幹事、全日本病院協会広報委員会委員、日本医療マネジメント学会評議員、医療マネジメント学会愛媛県支部幹事、日本リハビリテーション病院・施設協会理事

石川ヘルスケアグループ
HITO病院を運営する「社会医療法人石川記念会」、クリニックと介護老人保健施設ほか幅広い事業を展開する「医療法人健康会」、特別養護老人ホームをはじめ高齢者ケアを提供する「社会福祉法人愛美会」によって構成されている。
http://hitomedical.co-site.jp/about/group/

 
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