治療・手術
Medical DX編集部 2020.8.31

訪問歯科の医療法人が1年間でRPAを導入できた理由〜高輪会にみる医療機関のDX化

歯科医師、歯科衛生士、ケアアシスタントが訪問車両で高齢者施設へ行き、歯科治療を行う──そんな訪問歯科のパイオニアとして知られる、医療法人社団高輪会(以下、高輪会)では、昨年からロボティックプロセスオートメーション(RPA)をゼロの状態からスタートし、スタッフの作業を年間2260時間削減させることができたという。訪問歯科と、RPA導入の現状を、高輪会理事・内部統制室長の星谷淳一さん、コーポレートシステム部長・坂下秀雄さんにうかがった。

高輪会が注力する「訪問歯科治療」とは?


──まず理事の星谷さんに、高輪会さんが注力されておられる「訪問歯科」についてうかがえればと思います。

星谷:弊法人は、約30年前に財務省・厚労省・総務省の3大臣合意で発表されたゴールドプラン(のちに新ゴールドプラン→ゴールドプラン21)を見て、これから日本の高齢化が急激に進むことを知りました。実際、複数の高齢者施設を見学した際に、施設の方々が入居者の方々を歯科医院に連れて行けずに困っていることがわかったんです。そこで1993年、27年前に日本で初めて組織的な歯科訪問診療を開始しました。現在、日本の高齢化率が約28%に達成し、近年、学会でも、食べ物を経口摂取する重要性が高まっております。当法人では、全国に20診療所を拠点として約90台の歯科訪問車両を所有し、約600軒以上の高齢者施設に歯科医師、歯科衛生士、ケアアシスタントの3名で訪問して、「訪問歯科として最高レベルの治療」を目指しております。

──訪問歯科は、通院が困難な患者さんにおける歯科診療という認識があったのですが、外来の治療とは違うのでしょうか。

星谷:診療室での「歯科外来治療」と「訪問歯科診療」とでは、診る部位も違うし、治療計画もまったく異なります。歯科外来診療は、ほとんどの病名が虫歯(カリエス)や歯槽膿漏(ペリオ)なので、歯牙や歯肉以外を診る必要がありません。ですが、訪問歯科診療はそれだけではありません。訪問歯科は「口から食べる」「噛む」だけでなく、「飲み込む」「話をする」機能の維持、改善と回復を支援する診療です。口腔機能全体(舌、軟口蓋、喉頭蓋、咀嚼)や飲み込みに必要な筋肉も診る必要があります。学会では近年、サルコペニア(筋力低下)、オーラルフレイル(お口の衰え)に注力しています。高齢者になると誰でも筋力が低下するものですが、口腔機能はすべて筋肉でできていますので、リハビリテーションすることで、口腔機能全体の維持向上、さらには誤嚥性肺炎の予防にも寄与できるように務めています。

──昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行において、訪問歯科診療に関する影響はどれくらいあったのでしょうか。

星谷:そうですね、先ほど申し上げましたとおり、当法人が訪問歯科にうかがわせていただいているのは、ほとんど高齢者施設(約600施設)ですので、このコロナ禍において、4月、5月は約3割の高齢者施設(180施設)から「診療を控えてほしい」と連絡をいただいております。

──新型コロナは、前例がない状況を生んでいると思いますが…。

星谷:ええ。まさに「新型」なので、文献がありませんでした。ですが、この6ヵ月でさまざまな研究や文献が出てきております。たとえば、新型コロナウィルスは、「歯周病」の患者さまとそうでない患者さまでは、重症化または死亡化の確率が違うので、「歯周病」の治療が重要であると、ある歯科大学の教授の方が指摘されています。今後の研究によって、歯科における役割も明らかになってくるかもしれません。

RPA導入で作業フローを見直すことができた


──ここからは、コーポレートシステム部部長の坂下さまにお話をうかがいます。高輪会さんでは、このコロナ禍に先だって、Blue Prism社のロボティックプロセスオートメーション(RPA)を導入して、DX化を進めておられます。この導入に至った経緯をお教えいただけますか?

坂下:カルテ情報をレセコン(レセプトコンピュータ)に入力する業務を、自動化できないかと考えたことがきっかけです。レセコンとは、医療業界で使用されている、診療報酬明細書を作成するシステムのことで、弊法人では全医院で毎月6万件ほどのカルテをレセコンに入力しています。これを1人の患者さんあたり10分から15分の作業と言うことで計算してみたら、約15000時間もかかっていたんです。この膨大な業務を効率化するために、RPA導入を検討するにいたった、というわけです。
カルテデータ入力の流れ

──導入するまでに、法人内で議論されたことはありますか?

坂下:大きくは2点あります。1点目はレセコンの入力を効率化するにあたって、RPAが最適なのかどうか、ということです。別のやり方も模索しましたが、医療情報を扱うネットワークは制限が厳しく、実現の難易度が非常に高かったため、RPAで自動化する方向に定まりました。もう1点はそのRPAツールの中で、どのツールを導入するか、ということです。弊法人では「ハイレベルなセキュリティ機能」「サーバー型」「大規模導入を想定したときのコストパフォーマンス」の3項目を重視して、「Blue Prism」を選びました。欧米発の老舗RPAツールで、銀行で使用されているケースが多く、詳細なログを残すことができたり、使用するユーザーごとに細かいアクセス制限をかけることが可能であることが理由です。

──導入してみて、どういったメリットが感じられましたか?

坂下:単純な本部や院内スタッフの業務工数削減はもちろん、今まで数が多すぎてできていなかった、全90台ある訪問車の、毎日の施設滞在時間データを取得することができるようになりました。これを分析することで、効率的な人員配置が可能となって、以前より1回の訪問で多くの患者様の診察ができ、さらにスタッフの残業時間も減らすこともできました。これは院内と患者様、双方にとってのメリットだと思います。

──作業スピードの向上と、効率化がはかれた、と。

坂下:そうですね。RPAでは、ソフトウェアロボットを作成する前に、業務フローの可視化を行う作業があります。ですから、今まで属人化していた業務の標準化や、無駄な工程の削除など、おのずと一連の流れの最適化を図ることができたんです。業務効率化できる方法はRPA以外にもたくさんあると思います。ですが、RPAを選んでの最も大きなメリットは、コーディングなども専門的知識を必要としないというところでしょう。素人でも短時間で複雑な業務を自動化できて、効果を実感しやすい点が素晴らしいと思います。

IT未経験者を募ってRPA専任担当者にした理由



高輪会でのRPA導入の流れ

──こういったシステムをテストからほぼ1年の間で導入された(図参照)というスピードにも驚きました。

坂下:まず、「業務選定シート」を作って、単純に削減する時間を優先的に考えるのではなく、RPA化のしやすさ、RPAによる効率化、業務改善ニーズの高低などを一覧化して優先順位を設定していくという方法をとりました。また、新たにRPA専任担当者を募り、スムーズな導入を目指しました。昨年の5〜6月にテストを始めて、7月に採用、9月から本格的に担当者の研修などを行って、冬にはトライアルを始めています。

──RPA専任の担当者を、ITの未経験者から募った、ということも意外でしたが……。

坂下:専任の担当者については、「誰でもRPAを設計・実行できる」ということを目指していましたので、未経験者の募集をしたんです。最初に研修を行えば、ある程度のものが作れるようになるだろうと思っていました。その人の素養次第という部分もあるでしょうが、今回はピッタリの方に来ていただいた、と思います。

──坂下さんはこのお仕事に関わる以前、さまざまな企業のDX化に携わられていますが、そういった経験則といったものもあったのでしょうか。

坂下:そういった部分もありますね。高輪会での参画当初から「ビジネス上の課題をITを活用して解決する」という視点を持ってDX化に携わってきました。ですから、「RPAをどんな業務に適応すればいいか?」という気づきは、実際の業務担当者のほうが多いと思いますので、今後は業務担当者側にも開発者を増やすことで、より使用規模を拡大し、ROI(費用対効果)を上げていきたいと考えています。また、RPAだけでなく、紙での集計を行っていた請求業務のシステム化、在宅ワークを可能にするVPNの構築やBI導入による経営情報の可視化、GoogleSpreadSheetの利活用、紙文書回覧のワークフロー化、定期的に講師を招き本部で行っているセミナーのウェビナー対応……まだまだ多岐にわたって改善を続けている途中です。喫緊では、約90台ある歯科訪問車両とこれらに携わるスタッフのシフト管理システムの導入を進めています。

──RPAの導入もそうですが、DX化になかなか踏み切れない医療機関も多いと思いますが、いかがお考えでしょうか。

星谷:弊法人には坂下の「コーポレートシステム部」という部があります。これは他の法人さんにはない部署だと思います。これは大きな力になりました。

坂下:医療業界は、どうしても安全性の担保などを理由に「既存の仕組みを変えたがらない」文化があるんですね。それは裏返すと「未解決のニーズが多い」ということでもあります。ですので、なによりも実績を積み重ね、一歩ずつ着実に進めていくことが大事だと考えています。

 星谷淳一
 ほしや・じゅんいち/医療法人社団高輪会 理事・内部 統制室長。1983年に入社し、5年間、歯科技工士として勤務後、本部に転属し、歯科訪問診療の立ち上げから関わる。

 坂下秀雄
 さかした・ひでお/医療法人社団高輪会コーポレートシステム部部長。SIer、INTLOOP株式会社、大手アパレル企業にて、数億円規模の基幹システム導入や最先端のDX、RPA導入の実績を持つ。


医療法人社団高輪会
https://www.takanawakai.or.jp/
画像提供:医療法人社団高輪会
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Medical DX編集部

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