治療・手術
加藤 泰朗 2020.8.15

ARやVRが医療の可能性を広げる時代が到来!

■身近になるAR/VR技術


ARやVRという言葉を一度は聞いたことがあるだろう。

AR(augmented reality)は、現実の風景にバーチャルな情報を重ねて表示し、現実に見ている世界を「拡張する」技術で、「拡張現実」と呼ばれる。2016年に一大ブームを巻き起こした「Pokémon GO」や、自分が書いたイラストが動き出す「らくがきAR」などは、ARを活用したゲームアプリだ。

VR(virtual reality)は、ゴーグルやヘッドセットなどの専用デバイスを装着することで、CGで描かれた仮想空間をリアルに体感できる技術で、「仮想現実」と呼ばれる。「PlayStation VR」や 「PC VR」「OculusQuest」などのデバイスを使用するVRゲーム市場は、2016年のVR元年以降、拡大の一途をたどっている。

なお、近年よく目にするMR(mixed reality)は、仮想世界を現実世界に重ね合わせて体験できる技術で、日本語では「複合現実」と呼ばれる。ARは現実世界に軸を置くが、MRは仮想空間に現実世界の情報を反映させるもので、同じMR空間にいる人は情報や体験を同時に共有することが可能になる。マイクロソフト社の「HoloLens」はMRの代表的なデバイスだ。

■医療に活用されるAR/VR


これまでゲームなどエンターテインメント分野で積極的に活用されてきたAR/VRだが、近年は建設・製造・不動産・旅行など、さまざまな分野での企業利用が広がっている。医療も、AR/VRの導入が進む分野のひとつで、教育、治療・手術支援リハビリテーション、遠隔医療などで次々と新しい実践が行われている。

医療教育での活用


VISIBLE BODY社の「ヒューマン・アナトミー・アトラス」は、男性・女性の解剖モデルを3Dで見ることができるARアプリだ。指を使って解剖モデルを回転、拡大・縮小し、さまざまな角度から見たい縮尺で人体解剖を観察することができる。筋肉や骨の動きなどを再現したアニメーションも実装されており、人体構造へのより深い理解へと導いてくれるものとなっている。

ジョリーグッド社と日本医科大学付属病院、京都科学が共同で開発した「救急救命VR」は、救急医療の実際をVRで体験できるコンテンツである。時間との勝負といわれる救急救命の現場は、ヒトやモノの動きが通常の手術室とは大きく異なる。リアルなVRで緊張感を持ってシミュレーションを繰り返すことで、現場に立っても戸惑わない確かな技術を身につけることができる。

アメリカ・スタンフォード大学が開発したVRコンテンツ「The Stanford Virtual Heart」では、先天性心疾患のある心臓についてVRを使って学び、理解することができる。医学生は、VRヘッドセットを装着し、VR空間上に描き出された心臓をコントローラを使って回転させたり、心臓の中を観察することで、心臓の構造や血流、異常部位(心室中隔欠損や弁膜疾患など)を正確に確認することができる。また、手術前の患者家族への説明に使用することで、家族の疾患や手術内容への理解が深まる効果も期待される。


治療・手術支援への活用


Holoeyes社の「HoloEyesXR」や、スイス・バーゼル大学が開発した「SpectoVive」は、VRヘッドセットを使用し2次元断面であるCT画像から3Dモデルを生成するシステムだ。CT画像を使って患者のリアルな骨、血管、筋肉組織の3Dモデルを生成。そのモデルを使ってさまざまな角度から患部を検証することで、実際の手術に近いシミュレーションが可能となる。シミュレーションで得られた知見は、現実的な手術計画の立案や、患者説明の場面に役立てることができる。

リハビリテーションでの活用


mediVR社の「mediVRカグラ」は、VRを活用したリハビリテーション用医療機器である。椅子に座った状態で、VR技術でつくった3D空間上に示された座標に対して手を伸ばすリーチング動作を行いながら、おもに歩行障害のある患者の姿勢バランス調整力や認知能力を定量的に把握する。得られた定量的なデータは、これまで個々のセラピストの能力に左右されがちだった訓練内容の均質化や、適切なタイミングでの介入に役立てることが期待される。

遠隔医療への応用


「STAR(the system for telementoring with augmented reality)」は、米国で軍事目的で開発された、AR技術を活用した遠隔医療システムである。遠隔地にいる専門医が現地の執刀医と視界を共有し、ARを使って患者の切開箇所などを指示し、現地にいる執刀医はそれをもとに手術を行うことができる。

同様のシステムは、英国のスタートアップ企業が開発した「Proximie」も提供しており、近年注目が集まっている。当初は、医学的リソースが乏しい地域や紛争地の外科医に対して、音声や動画、ARを用いて遠隔で外科医を教育指導・支援するために開発された技術だったが、現在はリアルタイムの手術にも対応可能で、英国だけでなく、欧州の他国や米国の病院でも広く導入されている。

日本でも遠隔医療へのAR/VRを活用する動きは始まっている。

2019年8月にKDDI、防衛医科大学校、Synamon社は、360度カメラとVR、5G回線を使って、遠隔地から「トリアージ(患者の重症度に基づき、治療の優先度を決定・選別すること)」が可能か、実証実験を行った。

2020年1月には、VR Japan、コニカミノルタジャパン、ドコモの3社が遠隔医療教育を視野に入れた 「5G×低遅延VRリアルタイム配信×ネットワークカメラ」の実証実験で、360°映像の大容量データを1秒以下という低遅延で配信することに成功したと発表した。日本でも遠隔医療へのAR/VRの導入はすぐそこまで来ている。

■広がる協調の可能性


技術の進歩とデバイスの低価格化が進み、AR/VR技術はますます身近になった。来る5G時代では、大容量での情報を遅延なくやりとりすることが可能となる。

日本では、医師の大都市集中、診療科偏在などで、地方の医師不足が深刻な課題となっている。遠隔地にいる専門家とリアルタイムで協調して治療・手術を行ったり、共同で医療教育をして意見交換することなどは、今後ますます必要となるだろう。AR/VRの活用が期待される。


ヒューマン・アナトミー・アトラス
https://www.visiblebody.com/ja/anatomy-and-physiology-apps/human-anatomy-atlas
救急救命VR
https://guruvr.jp/er
The Stanford Virtual Heart
https://www.stanfordchildrens.org/en/innovation/virtual-reality/stanford-virtual-heart
Holoeyes
https://holoeyes.jp
SpectoVive
https://www.unibas.ch/en/News-Events/News/Uni-Research/Virtual-Reality-in-Medicine.html
mediVRカグラ
https://www.medivr.jp
STAR
https://engineering.purdue.edu/starproj
Proximie
https://www.proximie.com
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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