治療・手術
加藤 泰朗 2021.9.27
日本の医療AI最前線

ロボット手術分野へも広がるAIの医活用

■ロボット手術の課題解決のカギはAI!?


人がメスなどを使って実施する手術を、ロボットが支援するロボット手術。その歴史は、1999年に米インテュイティヴ・サージカルの手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ(da Vinci surgical system)」の販売に始まるといっても過言ではないだろ。

ロボット手術は、手術創が小さく出血量が少ない、術後の痛みが軽減される、機能を温存できるなど、さまざまなメリットがあることから、いまでは世界中で広く行われている。世界でダ・ヴィンチを導入した施設数の累計は5,989施設、累積症例数は850万件を超える(2020年実績)。日本でも2000年3月に慶應義塾大学病院がアジアで初めてダ・ヴィンチを導入しており、いまでは年間13万件数以上の手術がダ・ヴィンチで行われている。

ダ・ヴィンチの操作は、腹腔鏡手術と同様、患者の身体にいくつかの小さな切開部をつくって内視鏡カメラとアームを挿入し、内視鏡・メス・鉗子を遠隔操作で動かして手術を実施するというもの。術者は、サージョンコンソールと呼ばれる操縦席に座り、内視鏡カメラで撮影された3D画像を見ながら、手元のコントローラを操作して器具を動かす。患者にとってメリットの多い術式だが、通常の開腹手術や内視鏡手術と比べて手技が特殊で、術者の操作のむずかしさや手技習熟が課題だった。

こうした課題にAIを活用しようとする動きが、日本で始まっている。注目の事例を2つ紹介する。

■手術用支援ロボットからの情報をAIが解析



ひとつめは、手術用支援ロボット「hinotori」のためのネットワークサポートシステム「Medicaroid Intelligent Network System」(MINS)だ。hinotoriは、川崎重工業とシスメックスが共同出資して設立したメディカロイドが開発した国産の手術用支援ロボットで、当メディアでも取り上げたことがある。

関連記事:「hinotori サージカルロボットシステム」は遠隔での管理や手術データを蓄積も可能に

MINSは、IoTプラットフォームサービスなどを手がけるベンチャー企業オプティムが、メディカロイド、シスメックスと共同開発したオープンプラットフォーム。ベースシステムは、オプティムが提供するAI・IoTプラットフォームサービス「OPTiM Cloud IoT OS」だ。hinotoriに搭載された各種センサー情報や内視鏡映像、手術室全体の映像などの情報をリアルタイムでデータベース化。自社またはサードパーティによるAI解析やシミュレーションなど、新たな機能を拡張することで、hinotoriの運用支援や安全・効率的な手術室の活用支援、手技の伝承・継承支援などをサポートする。

MINSはhinotoriに標準装備される。後発のhinotoriが先行するダ・ヴィンチ市場にどのくらい食い込めるかが、ロボット手術へのAI活用のカギとなる。

■画像解析AIを手術ナビゲーションに


AIを手術ナビゲーションに利用する研究も始まっている。

AIと最新テクノロジーで健康社会の実現をめざすベンチャー企業ヒューマノーム研究所は2021年3月、東京医科歯科大学とAIを用いた手術ナビゲーションシステムの研究に関する共同研究契約を締結したと発表した。AIを活用した「外科医の手技習得育成システム整備」と「術中の医療ミスを避けるサポートシステム」の開発に向けた共同研究を開始している。

共同研究の開始に先立ち、ヒューマノーム研究所は、同社の物体検知モデル開発システム「Humanome Eyes」をカスタマイズして、東京医科歯科大学に提供。Humanome Eyesは、物体検知に必要な機能をトータルで提供するノーコードツール(プログラミングなしで、アプリなどを開発できるツール)だ。

同システムを使って、腹腔鏡下手術を専門にする医師が術中写真にアノテーションを施したデータから胃がん手術のナビゲーション用AIモデルを開発。胃がんに対して行う低侵襲手術(腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術)における膵周囲切離ライン(膵臓領域)を予測させ、AIが術者の補助となりうることを示す結果を得られた。

現在、より多様な環境下における臓器認識や手術ナビゲーションの実現に向けて、AIモデルの改善と、現場の手術システムへの応用に向けた研究が進められている。

■世界的にも手術ロボットへのAI活用が今後のトレンドに!


医療行為のなかでも、とくに命に直結する手術。手術支援ロボットが普及する一方で、画像診断補助や業務負担軽減といった領域と比べると、AI利用は進んでいない。なかなか機械任せにとはいえないのが実情だ。

ただし、ロボット手術にAIを応用しようという動きは海外でも見られる。アメリカでは、早くも2015年に、アルファベット(米グーグルの親会社)とジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)が共同で立ち上げたヴァーブ・サージカルが、グーグルのAI技術とJ&Jの外科ユニットのノウハウを活かした手術支援ロボット開発を始めている。

2020年には米カリフォルニア大学バークレー校、グーグルブレイン、インテルAIラボなどからなる研究チームが、手術後の縫合をAIに学習させるアルゴリズム「Motion2Vec」を発表した。縫合の画像を繰り返し学習させることで精度が向上し、ダ・ヴィンチを使った実験では、精度は85.5%以上、誤差は平均0.94cmだったという。

社会のさまざまな分野でのAIの利用が進み、AIに関する知見は急速に深まっている。ロボット手術へのAI活用も一気に進む可能性がある。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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