治療・手術
Medical DX編集部 2020.7.13

オペを支援! ロボットと5Gで手術はどう変わっていく?

厚生労働省が「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で挙げた6つの重点領域のなかに「手術支援」という領域がある。

ここでいう「手術支援」とは、手術支援ロボットとの連携や、医師が手術をする際に必要となる情報の提供をスムーズに行えるようにすることで、ここ数年で急速に広まっていく環境が整いつつある。


まず、これまで世界市場を席巻してきたアメリカのインテュイティブ・サージカル社の「ダヴィンチ=da Vinci Surgical System」の特許の多くが2019年に満了となったことで、さまざまな手術支援ロボットの開発が世界中で進んでいる。

そして、データを大量かつ高速に送る通信テクノロジーの新規格である5Gの登場である。これによって遠隔操作などの遅延が解消され、遠隔地の患者を手術支援ロボットを使用しながらオンライン手術できる環境が整いつつある。

また、ロボット支援手術の保険適用拡大も進んでおり、前立腺がんや腎臓がんから、肺がん、直腸がん、胃がん、膵臓がん、胆管がん、十二指腸がんなどまでが対象になってきている。遠隔手術に関しても、2019年7月に改定された厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で数年以内に解禁・実用化する方針が打ち出されている。

■手術支援ロボットの雄「ダヴィンチ」とその対抗馬


さて、ここからは手術支援ロボットにはどのようなものがあるか、そして現在の動向を見ていこう。

先にふれたように、ここまで世界でトップシェアを誇ってきたのが、アメリカのインテュイティブ・サージカル社の「ダヴィンチ=da Vinci Surgical System」だ。日本国内の導入台数も約350台といわれている。

この「ダヴィンチ」は1999年に、米軍の医療技術が民間に移転されたのを受けて誕生した。3本の手術器具用アームと1本のカメラ用アームがあり、手術室内にあるコンソールモニターの前に座った医師が内視鏡画像を見ながら手術器具用アームを操作して、患部を切除したり縫合したりするというものだ。

「ダヴィンチ」に限らないが、ロボット支援による手術はカメラによる拡大視野での精密な動きが可能になり、また人の手首よりも広い可動域を保てることから、開腹手術などに比べて傷口が小さく、術中の出血も少なくて済み、正確な患部の切除、身体の機能温存の向上につながるというメリットがある。

一方でデメリットとしては、手による手術のように触覚がないため術者には慣れが必要であり、アームが大きく太いためアーム同士の干渉が起こりえることが挙げられている。

この「ダヴィンチ」の対抗馬としては、たとえばアメリカのトランスエンテリックス社の「センハンス=Senhance」が挙げられる。「ダヴィンチ」とのもっとも大きな違いは、術者が術中に触感を得られることだ。また、メガネ型デバイスを使用することで術者の姿勢の固定負担がないことも特徴だ。

ほかにも有力な対抗馬として考えられているのが、アメリカのヴァーブ・サージカル社だ。ITの巨人として知られるグーグル社が、ジョンソン・エンド・ジョンソン社と共同で設立したのがこのヴァーブ・サージカル社で、クラウドベースのデジタル手術を標榜し、2020年をめどに製品化されるといわれている。

「ダヴィンチ」は日本国内での導入数も多く、ロボット支援手術件数が多い病院では1年で約500件にもなる


■打倒ダヴィンチ! 国産の手術支援ロボット


手術支援ロボットの開発は、日本でも進んでいる。

東京工業大学と東京医科歯科大学が研究開発の主体となる大学発のベンチャー、リバーフィールド社が開発している内視鏡手術支援ロボットは、「ダヴィンチ」のデメリットに挙げられていた触感を得るために、独自の空気圧制御技術を採用して手術ロボットの器具先端に加わる力を推定し、術者のコントローラーにフィードバックさせる仕組みを取り入れたものだ。こうすることで、たとえば組織を縫うときに糸をどれくらいの力で引っ張っているのかがわかるようになるという。空気圧でロボットを動かすことで、人と接触しても安全かつしなやかな動きをするロボットを実現し、また手術時の手元の操作も安定することが期待されている。

国立がん研究センター発のベンチャーであるA-Traction(エー・トラクション)社は、術者のそばで助手の役割を担うパートナーとして、術者の求めるとおりに動くというコンセプトのもとに開発が進んでいる。術者はロボットアームを操作するのではなく自分の手で手術を行い、利用したいときだけロボットアームに支えられた器具を操作するというもので、「ダヴィンチ」などよりも低価格かつコンパクトなロボットを目指しているという。

そして、もっとも早く内視鏡手術支援ロボットを実用化すると目されているのが、国産初の産業用ロボットを生産した川崎重工業と、世界190カ国以上で事業を展開している医療機器メーカーのシスメックス社が共同出資したメディカロイド社である。産業用ロボットのノウハウを生かして、アーム同士の干渉を防ぐためにロボットアームの関節を増やし、アームの太さも人の腕くらいに細くすることで設置スペースも小さくできるという。

メディカロイドは、2018年にドイツのカールストルツ社と業務提携し、手術に必要な画像システムや外科用デバイスの供給体制も整えており、2019年にはAI・IoT・ビッグデータのプラットフォームなどを手がけるオプティム社と次世代医療用ロボットのAI化に向けた業務提携を結び、手術前に作成した治療計画データと手術中に獲得したデータを統合してロボットの姿勢をガイドし、より安全・安心に手術が行えるように支援する「手術ナビゲーションシステム」の開発などにも取り組んでいくという。

なおメディカロイドでは現在、新型コロナウイルス感染症対策として、自動PCR検査ロボットシステムなどの開発も進めている。

■5Gが普及すれば遠隔手術も実現できる!?


このように手術支援ロボットの開発が進むなか、そのロボットの本当の力が発揮されるのは、5Gを活用した遠隔手術が実現するときかもしれない。

医師が大都市圏に集中する「医療の偏在」、地方との「医療格差」が深刻化している現在、医師不足から手術を受けたくても地方ではそれがなかなか叶わないというケースが生じている。

5Gによって遠隔地から医師が手術支援用ロボットを操作することが可能になれば、今後の日本の大きな社会課題といえる「医療の偏在」「医療格差」の解消の大きな一助となるだろう。

もちろん、遠隔手術の実用化に向けては乗り越えなければならない障壁がある。手術中に通信回線が途切れたといったリスク要因の解消から、公的保険の適用範囲の拡大など、制度設計をしっかり構築することで、手術支援ロボットの潜在力を引き出せるようにすることが求められている。


リバーフィールド株式会社
https://www.riverfieldinc.com/technology
株式会社A-Traction
https://www.a-traction.co.jp/products
株式会社メディカロイド
http://www.medicaroid.com/top.html

画像:shutterstock
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Medical DX編集部

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