治療・手術
加藤 泰朗 2021.3.25

デジタルの力で変わる救急医療、業務負担軽減とスムーズな情報共有を実現

■増加する救急搬送、課題山積の救急医療体制


日本の救急出動件数は増加傾向にある。総務省の発表によれば、2019年の救急自動車による救急出動件数は663万9751件(対前年比0.5%増)、搬送人員は597万7912人(対前年比0.3%増)で、ともに過去最多となった。

一方で、受け入れ先病院がなく、いわゆる「たらい回し」にあったという報道は後を絶たない。背景には救急医療体制の抱える課題がある。

厚生労働省「第17回救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」(2019年11月6日開催)では、救急医療の現状の課題として、医師・看護師の過重労働、救急医療需要に対する専門医・看護師不足、救急医療に関する専門性をもつ医師とそうでない医師との協力関係の構築などを挙げ、「質が高く効率的な救急医療体制の構築のために必要な救急医療機関の機能分化・連携」を実現する必要があるとしている。

さらに昨年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延で、状況は悪化している。朝日新聞によると、COVID-19の感染拡大前の前年同時期(1月11日から17日までの1週間)と比べて、2.17倍になった。救急医療体制の改革は待ったなしの状況にある。

■業務負担軽減と情報共有、データ利活用の課題をデジタルで解決


救急医療体制が抱えるさまざまな課題のうち、現場の業務負担や情報共有のあり方をデジタルの力で改善しようとする企業がある。TXP Medicalだ。

TXP Medicalは、救急医療・急性期医療の現場で起こっている医療データの分断を解消するシステムの開発を手がける医療AIスタートアップ企業である。代表取締役を務める園生智弘氏は、東京大学医学部出身の医師で、日立総合病院救命救急センターに勤務する救急集中治療医だ。TXP Medicalは、園生氏が日立総合病院で進めてきた急性期医療現場の生産性を向上するプロダクトづくりを事業化したものである。

TXP Medicalが販売する「NEXT Stage ER」は、大病院(救命センター規模)の救急外来に特化した患者情報記録・管理システムである。

「患者リスト画面」では、ERホワイトボードがデジタル化され、救急治療室(ER)内の情報を簡単に確認できる。

「医師カルテ画面」では、診察内容をフリーテキストで入力すると、AIが解析して標準病名、iCDコード、標準薬剤名、薬効分類コードなどに変換、自動でテキストを構造化してくれる。入力後は、構造化されたデータから1ボタンで電子カルテ記載用データを書き出せるので、それを病院で使用中の電子カルテにコピー&ペーストするだけで電子カルテ記載業務を終えられる。

また、医師や看護師が入力した情報は画面上で共有され、診療の進行状況や診療コメントを一覧できるため、医療従事者間の情報共有も容易になるという。

さらに、構造化されたデータが蓄積されるため、臨床病名や主訴、バイタルサイン、基礎疾患などでの検索が容易で、研究・分析用データとしても利用できる。これまで研究・分析用データは、電子カルテに入力された情報からひとつひとつ手作業で抜き出していたが、「NEXT Stage ER」では、システムに入力したタイミングで研究・分析用データが作成されるのである。システム導入施設間で情報の比較が可能なため、救急外来多施設研究のプラットフォームにもなりうる。

「NEXT Stage ER」の活用イメージ

ほかにもオプションで、病院間情報連携機能、カルテ情報の音声入力機能などを付加できる。まさに、救急外来で必要とされる機能を1カ所に集約するシステムだ。

同社のHPによると、「NEXT Stage ER」は、全国32の救急医療の地域基幹病院で導入内定、うち24病院で稼働している(2021年2月時点)。

■救急医療体制改革をリードするTXP Medicalのシステム


TXP Medicalは2021年5月、クラウド版の「NEXT Stage ER」である、「NEXT Stage ER 2.0(NEXT Stage ER cloud)」をリリースした。従来の「NEXT Stage ER」の機能に加え、救急隊からの受け入れ依頼電話の内容を、音声入力が可能なスマートフォンから自動的に取得し、病院の電子カルテに転記する機能など、クラウドならではの強みを生かした情報共有のしくみが備えられている。

2020年12月10日からは、病歴情報やバイタイルサインを含めた救急搬送情報を、救急隊と救急医療機関とで連携するための実証実験を広島県福山市で開始している。また、2021年1月には医療ICT事業を展開するアルムと業務提携を発表。「NEXT Stage ER」シリーズのモバイル版アプリと、アルムの医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」を連携し、院内外の多職種間でのリアルタイムな情報共有の実現をめざすなど、積極的に救急医療体制の改革を進めている。

救急システム連携活用イメージ

2021年2月8日には、TXP Medicalは「COVID-19救急サポートプロジェクト」を開始した。同社の「NEXT Stage ER」シリーズの初期導入費・月額利用料を6月まで無料にして、救急医療提供体制を支援するという。

救急医療提供体制のデジタル改革、しばらくTXP Medical中心に進んでいく様相だ。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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