治療・手術
加藤 泰朗 2021.2.18
遠隔医療のDX

遠隔ICUはコロナ禍における医療体制逼迫の打開策となるか!?

■なによりも足りないのはマンパワー


緊急事態宣言の発令で、都市部での新型コロナウイルス(COVID-19)の新規感染者数は減少傾向にあるとはいわれる。一方で、重症者数は高止まりしており、医療体制が逼迫している状況は続いている。こうした状況をデジタル技術で打開しようとする試みが行われている。

T-ICU社は、兵庫県芦屋で遠隔医療に関する業務を展開する医療ベンチャー。アメリカで普及する遠隔集中治療(tele-ICU)をヒントに、専門医が遠隔地から診療をサポートするD to Dサービス「T-ICU」を提供している。

T-ICU社が準備した端末に、病院の電子カルテ端末や心電図モニターをHDMIで接続。心電図やバイタルサイン、検査結果などの患者情報を映し出した画面を共有しながら、離れた場所から専門医が現場の医師や看護師に指示・アドバイスする。

集中治療室の情報を共有することで遠隔でのサポートを可能にするという発想が遠隔集中治療だ

サービスに協力する専門医は33名(集中治療専門医、救急科専門医、内科専門医ほか)、協力看護師は11名(集中ケア認定看護師、救急看護認定看護師)で(2021年2月10日時点)、24時間体制でサポートする。

じつは日本の集中治療室(ICU:intensive care unit)の数自体は、不足しているわけではない。2020年5月6日の厚生労働省「ICU等の病床に関する国際比較について」によると、日本の人口10万人あたりのICU等(※)の病床数は、13.5床である。比較した国でもっとも多いアメリカの34.7床や、ドイツの29.2床よりは少ないが、イタリア(12.5床)やフランス(11.6床)、スペイン(9.7床)、イギリス(6.6床)と比べても、著しく少ないわけではない。むしろ問題は、潜在的な集中治療専門医や専門看護師不足である。

T-ICU社のサービスは、専門医不足を補い地域医療体制の充実を図るために立ち上げられたものだ。いま、その技術をCOVID-19対応に生かす取り組みが始まっている。神戸市は2020年9月より、同社のサービスを導入した。市内のCOVID-19患者を受け入れる病院の医療従事者が、T-ICU社の集中治療専門医にオンラインで相談できる体制を構築することで、患者の状態に合った医療の提供につなげるという。

※「ICU等」となっているのは、ICUのほかにも、ICUでの治療後に一般病床に移るまでの治療を行う病床であるハイケアユニット(HCU:high care unit)の数が含まれるため。日本集中治療医学会は、厚生労働省が比較した諸外国の数値にも含まれており、まとめて集計することは妥当であるとの見解を出している。

■遠隔ICUで地域医療体制の充実を図る


神奈川県横浜市でも、遠隔からのICU支援体制の構築が進められている。

横浜市立大学はNTTデータと共同で、遠隔ICUシステム「Tele-ICU」を構築、2020年10月より運用を開始した。横浜市立大学附属病院内にTele-ICU支援センターを設置し、ネットワーク通信を介して遠隔から、同院内のICU・HCU(各8床)、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターのHCU(6床)への診療支援を行う。

Tele-ICU支援センターには、医師と看護師各1名が常駐する。生体情報モニターや電子カルテの情報、ベッドの上に設置されたカメラで撮影した患者の映像などを参照しながら、ビデオラウンド(※)による診療支援や、連携先病院からの診療・看護ケアの相談への助言などを行う。また、横浜市立脳卒中・神経脊椎センターに対しては、定期的にカンファレンスに参加し、アドバイザー的な役割を果たす。

T-ICU社と同様に、専門医の不足を補い、地域の医療提供体制の充実に貢献するという目的で始められた事業だが、COVID-19対応においても、人との接触機会削減、専門医不足のカバーなどの効果が見込まれるという。

※医師などが遠隔で回診を行い、患者の病状を確認すること。

■新たなパンデミックを見据えた医療体制の再構築が必要


COVID-19の蔓延は、医療体制の再構築の必要性を浮き彫りにするものだった。とくに集中治療専門医の不足が引き起こす問題は、より顕在化されたかたちとなった。

集中治療専門医の増員は、半年や1年くらいで簡単に解決するものではない。一方で、次のパンデミックはいつ起こるかわからない。人員増強のための施策とともに、いまある人的資源を有効に活用できる効率的な体制づくりも同時に進めていく必要がある。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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