予防
Medical DX編集部 2020.7.1

ここまで来た!遺伝子検査とゲノム医療の進展

厚生労働省が「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で挙げた6つの重点領域のひとつ、「ゲノム医療」も実用化が比較的早い領域として期待されている。

そもそもゲノム医療とはなんだろうか?

ゲノムとは、遺伝子「gene」と、すべてを意味する「_ome」を組み合わせた造語で、DNAのすべての遺伝情報のことを指す。簡単にいえば、生命をつくるための設計図のようなものだ。

1990年に米国エネルギー省と米国国立衛生研究所がヒトのゲノムを読むプロジェクトをスタートさせ、このプロジェクトに世界の主要各国も参加、2003年にヒトゲノム解読はほぼ完了した。そして近年、AI(人工知能)の進化によって遺伝情報と病気との関係の解明が急速に進みつつある。

簡単にいえば、ヒトゲノムの解明から得られた遺伝子やタンパク質の膨大なデータから、AIを利用して病気の診断や治療に結びつく情報を選び出し、医療に役立てていこうというのが、「ゲノム医療」だといえる。

■病気のリスクや遺伝的傾向を調べる遺伝子検査が広まる


日本でも耳にする機会が増えた「遺伝子検査」。アメリカではすでに広く知られており、多くの人が検査を受けているともいわれる。血液や唾液などから細胞を採取して、遺伝子情報を読み取り、将来の病気のリスクや体質などの遺伝的傾向を知る検査で、病気予防に利用されている。

たとえば、2013年にアメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーが乳がんの予防のために乳腺切除を行ったことがニュースになったが、これは遺伝子検査によって乳がんの発症リスク因子として知られる遺伝子の変異が確認されたからだった。

また、個人向けの簡便な遺伝子検査は日本でも広まりつつある。

がんや糖尿病、脳梗塞など、最大で150項目の病気のかかりやすさや、肥満や85歳以上まで長生きできる可能性など、最大で130の体質項目について調べることができる、株式会社DeNAライフサイエンスの「遺伝子検査マイコード」や、病気のリスクや身体的特徴など約360項目を検査できる、ジェネシスヘルスケア株式会社の「遺伝子検査キットGeneLife」などが、それにあたる。

こうした、将来起こるかもしれないと予測された疾患に発症前に対処する医療は「予測医療」といわれ、これからの医療のトレンドのひとつになっていくかもしれない。

■がんを引き起こす遺伝子異常を調べる遺伝子検査も進展


また、この「ゲノム医療」の活用がもっとも期待されているのが、がんに対する医療である。

がんは、ある正常な遺伝子が異常をきたし(つまり遺伝子に傷が入り)、正常な細胞ががん化することによって引き起こされるとされている。しかも、たとえば同じ肺がんであったとしても、原因となる遺伝子変異はさまざまである。

そのため、がんの遺伝子を検査してこの傷を調べ、特定のがんの診断や、効果が高そうな抗がん剤の選択に用いれば、個々のがんの性質に合わせた治療=個別化医療を行えるようになるというのだ。

すでに日本においても、10種類以上のがんに対して、がんの遺伝子検査をすることで、最適な抗がん剤による薬物治療を選択することができるようになってきている。しかし、この検査(コンパニオン検査)は、一度にひとつの遺伝子異常のみしか検査できないもので、遺伝子異常をひとつひとつ調べていくには時間を要するという難点があった。

そこで、DNAの塩基配列を大量に読み取る解析装置である次世代シークエンサーを使用し、1回の検査で100種類以上のがんの遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」の開発が進んでいる。

すでに、国立がん研究センターとシスメックス株式会社の共同開発によって、114個の遺伝子異常を調べることができる「OncoGuide NCCオンコパネルシステム」(NCCオンコパネル検査)と、中外製薬株式会社が提供している「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」は保険適用となっている。


■ゲノムに着目した治療の研究も進む


こうした検査だけでなく、ゲノム編集技術を活用した治療法も、今後発展が大いに期待されている。

これまでであれば、遺伝子疾患などに対しては次のような遺伝子治療が試みられてきた。たとえば遺伝子に異常が見られる患者に対し、その患者の骨髄から肝細胞を取り出し、健康な人から取り出した正常な遺伝子を細胞の核のDNAに組み込む。そして、その細胞を増やして患者の身体に戻すことで正常な遺伝子が体内で機能するようにする、といった方法だ。

これに対してゲノム編集とは、ゲノムのある特定の部位で外因性の遺伝子を挿入したり、異常をきたしている遺伝子を修復・破壊できるようにする遺伝子工学技術のことである。特に「クリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)」と呼ばれるゲノム編集ツールは、DNAの特定の部位を切り取ることに優れており、現在の主流となっている。

もちろん、がん遺伝子検査にしてもまだ発展の余地があるものであり、ゲノム編集技術を生かした治療にしても、安全性や倫理面などを含め、超えなければならない障壁はまだまだあるといえる。

しかし、日本人の三大死因のひとつであるがんの治療に、またこれまで難病とされてきた遺伝子疾患の治療に、ゲノム医療が福音となるのも事実である。今後もこの分野の研究の進展を見逃すことはできない。


厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169233.html
遺伝子検査・DNA検査のMYCODE(マイコード)
https://mycode.jp
遺伝子検査のジーンライフ
https://genelife.jp
がんゲノムプロファイリング検査用「OncoGuide™ NCCオンコパネル システム」が保険適用 | Sysmex
https://www.sysmex.co.jp/news/2019/190531.html
がん遺伝子パネル検査を用いた先進医療について|国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/0401/index.html
2018年12月27日|遺伝子変異解析プログラム 「FoundationOne® CDx がんゲノムプロファイル」の承認を取得|ニュースリリース|中外製薬
https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20181227163001_802.html

写真:Shutterstock
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