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加藤 泰朗 2022.3.23

どこまで進んだ?国産の新型コロナウイルス感染症の治療薬とワクチンの開発状況

CONTENTS
  1. ■苦戦する治療薬開発
  2. ■既存薬の治療薬転用は進むのか?
  3. ■複数の国内ワクチンが2022年度の実用をめざす
すでにピークアウトしたといわれる、新型コロナウイルス感染症の流行第6波。一方、2022年3月14日時点で、全国新規陽性者の7日間平均は依然として5万人を超え、さらに従来型のオミクロン株よりも感染力が高いといわれるオミクロンBA.2株(いわゆるステルスオミクロン)が各地で検出される状況に「第7波が到来するのでは」という予測もすでに出始めている。

終わりの見えない新型コロナウイルス感染症の蔓延状況。日常生活を取り戻すためには、国内で治療薬やワクチンを開発し、安定供給できる体制を整えることが欠かせない。国内における新型コロナウイルス感染症関連の医薬品開発状況はどうなっているのだろうか。現状を整理する。

■苦戦する治療薬開発


塩野義製薬は2022年2月25日、新型コロナウイルス感染症の治療薬として開発中の軽症・中等症向け経口抗ウイルス薬「S-217622」について、製造販売承認申請したと発表した。S-217622は、新型コロナウイルスの増殖に欠かせない酵素3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、ウイルス増殖を抑制する薬(3CLプロテアーゼ阻害薬)だ。

2022年2月時点で、国内で承認されている新型コロナウイルス感染症の軽症・中等症向け経口抗ウイルス薬は、米国メルクの「モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオカプセル)」と、同じく米国ファイザーの「ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)」の2剤のみ。承認されれば、国内初の経口抗ウイルス薬となる。

塩野義製薬は承認申請にあたって、日本国内における条件付き承認制度の適用を希望。条件付き承認制度とは、一定程度の有効性・安全性を確認した医薬品に対して、第3相臨床試験を実施せずに承認申請を可能とすることで早期の実用化を推進する制度だ。今回、その適用が受けられるかが、早期実用化のカギとなる。

一方、塩野義製薬以外の治療薬(抗ウイルス薬)の開発状況は芳しくない。新薬開発をめざしていた武田製薬と中外製薬は昨年、すでに開発を断念している。

■既存薬の治療薬転用は進むのか?


新型コロナウイルス感染症の治療薬として既存薬を転用(repositioning)する研究も進められている。

長崎大学病院は、抗HIV治療薬の経口剤「ネルフィナビル」の転用をめざし、無症候および軽症の患者を対象とした医師主導治験を2020年7月から開始。試験は現在も継続中だ。

興和は、寄生虫薬として国内で承認を受けている「イベルメクチン」について、軽症の患者を対象とした国内第3相試験を実施している。北里大学病院でも軽症から中等症の患者を対象とした医師主導治験を実施している。イベルメクチンの治療効果については、海外でも否定的な評価が少なくない。治験結果に注目したい。

一方、富士フイルムは、新型インフルエンザ治療薬「ファビピラビル(販売名:アビガン錠)」の転用をめざしている。残念ながら、軽症から中等症の患者を対象とした海外第3相試験では統計的有意差が示されなかった。

2022年3月11日には、2021年4月から開始していた重症化抑制効果の確認を目的に実施していた治験の新規投与を終了したと発表。従来株と比べて重症化率の低いオミクロン株が流行し、治験に組み入れられた患者のほとんどがオミクロン株感染者であると推定されるなか、現在の治験プロトコルで試験を継続しても、「アビガン」の重症化抑制効果の検証は困難、プラセボを用いた試験継続は被験者の利益につながらないと判断してのこと。今後、これまでの治験データの解析、有効性を検証し、追加治験を実施するかなどを検討する方針だ。

■複数の国内ワクチンが2022年度の実用をめざす


それでは、ワクチンの開発はどうだろうか?

第一三共は2022年1月31日、開発中のmRNAワクチン「DS-5670」の追加投与によるブースター効果を検討する国内臨床試験を開始した。

国内で承認されたワクチンの2回目接種後6カ月以上経過した健康成人と高齢者を対象とした国内第1/2/3相試験で、DS-5670の追加投与時の安全性と有効性を評価する。第一三共は、2022年中のDS-5670の国内実用化をめざしている。

塩野義製薬は、遺伝子組み換えタンパク質ワクチンで、早期の国内実用化をめざす。開発中の「S-268019」は現在、第3相試験を実施中。2022年3月4日には、追加接種向け試験で、ファイザー製ワクチンを2回接種後6カ月以上経過した成人206例を対象に、追加接種(3回目)にファイザー製ワクチンを接種した群と、S-268019を接種した群とを比較し、同等の効果があると発表した。追加接種向けの承認申請に向けて厚生労働省などとの協議を続け、5月以降の供給開始をめざしている。

明治ホールディングス傘下で熊本に本社を置くKMバイオロジクスは、不活化ワクチンで新型コロナウイルス感染症の発症予防に挑んでいる。不活化ワクチンとは、細菌やウイルスの毒性をなくした(不活化した)ワクチン。2021年10月より第2/3相試験を開始し、2022年度中の実用化をめざしている。

実用化という点で一歩リードするのが、田辺三菱製薬だ。2022年2月24日、カナダの子会社メディカゴが開発した新型コロナウイルスワクチン「コビフェンツ(COVIFENZ)」が、カナダで承認を取得したと発表した。コビフェンツは、世界初の植物由来のウイルス様粒子(Virus Like Particle: VLP)ワクチン。英国グラクソスミスクラインのパンデミックアジュバント*と一緒に接種する。

日本でも、2021年10月より第1/2相臨床試験を実施中で、カナダでの申請に用いたデータに日本の臨床試験結果を加えて、2022年度第2四半期の承認申請をめざしている。

田辺三菱製薬のワクチンは、カナダの子会社が開発したものなので"国産"とは呼べないかもしれないが、国内開発実現に向けた大きな一歩ではある。そのほかにもさまざまなタイプの国産ワクチンが、2022年度内の実用化をめざして開発が進んでいる。今後の動向に注目したい。

*アジュバントとは、ラテン語の「助ける」に由来をもつ言葉。ワクチンと一緒に接種することで、ワクチンの効果を高める物質。ただし、それのみではワクチンの効果はない。


WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。

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