治療・手術
Medical DX編集部 2021.6.21

医師の頭のなかを「見える化」、手術の質を向上させる可能性をもつOPeLiNKとは?

CONTENTS
  1. 手術室内の情報を一元管理し、情報統合するシステム
  2. 時間同期が可能になったことで広がる術中・術後の可能性
  3. 手術の質向上と医師の人材育成をめざして
医療DXを進めるうえで国がとくに力を入れているのが、ゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援の6領域である。

このなかで手術支援は、AIによる診断・治療支援、手術ロボットとの連携、VRやAR技術などの活用による支援・教育などが期待されているが、手術室そのものを次世代型治療室にバージョンアップさせようという試みが始まっている。

その試みにおいて、重要な役割を担うOPeLiNK(オペリンク)を開発した株式会社OPExPARK(オペパーク)CTOの鈴木薫之さんに、OPeLiNKとはそもそも何かから、その可能性までを聞いた。

手術室内の情報を一元管理し、情報統合するシステム


OPeLiNKの画面サンプル。さまざまな情報が一元的に表示されるだけでなく、それぞれの情報をどのような大きさや位置で表示するかなどを変更できる

――まず、OPeLiNKとはそもそも何かからお聞かせいただければと思います。

鈴木:簡単に言うと、OPeLiNKとは、手術室内の情報を一元管理し、情報統合するシステムです。

従来の手術室では、通信規格の異なるさまざまな医療機器がスタンドアロン(ネットワークなどには接続されていない状態)で時間軸も統一されないまま、バラバラに動いていました。

手術室内にはそれこそさまざまな機器と情報があります。治療機器、診断画像装置、医療情報システム、麻酔記録、術野映像、神経機能モニターなど、それらの情報を一元管理し、機器の連携を可能にすることで、統合的に状況を把握しながら手術を遂行することを可能にするのが、OPeLiNKなのです。

これまで医師の頭のなかで統合されていた情報、どうしてその手技をするのかといった判断を「見える化」したものであり、実際に一画面のなかでそれらの情報を分割表示させることが可能です。

さまざまな医療機器のデータを時間同期して記録することができ、また自由なレイアウトで表示・配信したりすることもできます。それによって、たとえば手術室外である医局との情報のやりとりなど、つまり外部からの手術支援も可能となります。


――従来の手術の質自体を大きく変える可能性をもつシステムだと思いますが、OPeLiNK開発の契機とはどのようなものだったのでしょうか?

鈴木:契機は、SCOT (smart cyber operating theater)開発です。

SCOTとは、2014年からAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)が行なってきた「未来医療を実現する先端医療機器・システム研究開発/安全性と日本医療効率の向上を両立するスマート治療室の開発」という史上最大規模のプロジェクトで誕生した次世代治療室です。

​SCOT化した手術室のイメージ(東京女子医科大学HyperSCOT、プレスリリースより)

このプロジェクトには東京女子医大や広島大、信州大などの5つの大学と、デンソーや日立などの国内企業12社が参加し、開発に向けて協業してきました。弊社OPExPARKは、デンソーが自動車産業で培った技術をこのプロジェクトに活かしていこうと取り組むなかで、デンソーから2019年10月にカーブアウトして設立されました。

OPeLiNKの特徴である、通信規格やメーカーを問わず、各医療機器を接続・統合できるシステムは、デンソーの産業用ミドルウエアORiN(Open Resource interface for the Network)を医用に転用したものです。ちなみに接続は、どんな医療機器であっても、シリアル接続だけでなく、USBでもHDMIでも出力端子さえあれば、可能です。

時間同期が可能になったことで広がる術中・術後の可能性


――OPeLiNKの特徴である情報統合のメリットは想像しやすいのですが、時間同期にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

鈴木:時間同期の最大のメリットは、手術の振り返りです。これは何も学習的意味合いにとどまりません。長時間の手術であれば、手術担当が交代することもあります。そうした際の引き継ぎなどでも、時間同期は大きな役割を果たします。

いままでも映像はその場で確認できましたが、OPeLiNKであれば映像だけでは判断がつきにくい情報も引き継ぐことができます。たとえば、脳血管や脳腫瘍といった脳外科手術の場合であれば、機能的・病理的なことを判断する神経機能検査装置の情報を見ることができるのは大きなメリットですし、また3次元情報を把握できるナビの情報を引き継げるのもメリットが大きいといえます。

――お話を聞いていると、現場の声を大切にしながら、OPeLiNKの開発を進められたのだということがよくわかります。開発の契機となったSCOTプロジェクトに医大や大学医学部が参加していたことも大きいのでしょうね。

鈴木:そうですね。現場での使いやすさ、ユーザビリティを向上させることは重要です。現在もそうした機能は追加させるようにしていて、たとえば手術中に音声自動入力でコメントを入れたり、イベントを立てたりといったことが可能になっています。この機能によって、手術後のカンファレンスなどで必要な動画を簡単に頭出してプレゼンテーションすることもできます。手術後の医師が自ら作成していた動画編集作業を大幅に効率アップさせることにつながっています。

――手術中だけでなく手術後であっても、OPeLiNKは大きな役割を果たしていくということですね。

鈴木:これまでの手術では保存されずにいた機器情報を時間同期して保存する仕組みを搭載しているからこそ、手術後のカンファレンスなどでその手術の解析や改善に活用することも可能になります。それはひいては、手術の効率性や安全性の向上にもつながります。

また、弊社ではOPeLiNKを介して抽出したデータにより「見える化」された手術の進め方などを、医師向けの教育コンテンツとして制作してwebで配信するという事業もスタートさせており、すでに数千人の会員を獲得しています。

手術の質向上と医師の人材育成をめざして


――OPeLiNKが導入されているのはSCOTのある大学に限られるのでしょうか?

鈴木:現在OPeLiNKが導入されているのは、SCOTを所有している東京女子医大、広島大、信州大の3大学のほか、SCOTを所有していない4施設があります(導入予定含む)。OPeLiNKは通信規格やメーカーを問わず、各医療機器を接続・統合できるシステムですから、SCOT以外であっても当然導入可能です。

導入分野は、SCOT開発の中心となった脳外科分野が現在はメインですが、広島大ではすでに整形外科分野でも利用されていますので、今後より広い診療科での活用も期待できると思います。

――OPeLiNKがもつ今後の可能性についてはどのようにお考えでしょうか?

鈴木:まず、5Gが本格的に整備されれば、遠隔地からの手術支援が現実のものとなるはずです。画面内で情報共有できるので安心ですし、たとえば熟練医師が海外在住であったとしても情報共有することで、治療の効率性や安全性はより向上できると期待しています。遠隔地からの手術支援は、実証実験レベルであれば、東京女子医大と信州大で進んでいますので、5Gの整備状況次第ですが、これはそう遠くない未来に現実になるのではないでしょうか。

それから先に述べたように、OPeLiNKは手術中の機器情報を時間同期したうえで保存できますので、これらのデータが蓄積されれば、手術支援AI開発を視野に入れることも当然可能だと思います。

いずれにせよ、弊社としては、OPeLiNKによって「手術の知」を可視化し、集約・共有することによって、手術そのものの質向上と医師の人材育成に貢献していきたいと考えています。


株式会社OPExPARK
https://www.opexpark.co.jp/

*SCOTは学校法人東京女子医科大学の登録商標です。
*OPeLiNKは株式会社OPExPARKの登録商標です。




鈴木薫之(すずき・しげゆき)
株式会社OPExPARK CTO。2001年、早稲田大学大学院理工学研究科修了。2005年、博士(工学)取得。2001年より東京慈恵医科大学助手・助教、高次元医用画像工学研究所勤務。2008年、株式会社スリーディー入社。同社医療セクションマネージャーを経て、2019年より現職。医用XR、医用画像処理、ハプティックス、医療ICTソフトウェア・システム開発が専門。
WRITTEN by

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