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加藤 泰朗 2021.5.14
遠隔医療のDX

iPhone / Apple Watchのデータを医療の臨床に活用へ、国内外の取り組みを紹介

CONTENTS
  1. ■日常の健康データを臨床研究に容易につなぐ「Apple Research」
  2. ■COVID-19の分析にApple Watchのデータを活用
  3. ■慶應義塾大学病院が行う脈拍と生活習慣の関連分析

■日常の健康データを臨床研究に容易につなぐ「Apple Research」


Apple社の健康調査アプリ「Apple Research」を活用して、iPhoneやApple Watchで収集したヘルスケアデータを臨床に活かす研究が進んでいる。

Apple Researchは2019年9月、Apple社がApple Watch Series 5や健康に関する最新研究とともに発表し、同年11月にアメリカで配信を開始したアプリ。Apple Researchを介して、iPhoneやApple Watchユーザーが自らの心拍数や運動量・活動量、1日をとおして暴露した音(騒音レベル)のデータを医療機関に提供し、医学機関がそれらのデータをもとに大規模な研究を実施するというしくみだ。

現在、Apple Researchで参加できる研究は、次の4つ(ただし、呼吸器の研究はシアトル地域限定)。

1)女性の健康研究(Apple Women's Health Study)
2)心臓と運動の研究(Apple Heart and Movement Study)
3)聴覚の研究(Apple Hearing Study)
4)呼吸器の研究(Apple Respiratory Study)

2021年3月にApple社は、このうちハーバード大学公衆衛生学部とアメリカ国立環境衛生科学研究所(NIEHS)とが提携して行ってきた「女性の健康研究」について、研究チームがアメリカ在住のiPhoneやApple Watchユーザー約1万人から提供を受けた女性の月経症状に関する予備データを公開したと発表した。

Apple Researchを介して参加できる「女性の健康研究」

月経周期は、女性の健康状態を知る重要な要素だが、これまで小規模研究しかなされてこなかった。科学的データが不足しているために、女性の月経症状はこれまで無視されたり、過剰反応や過敏症として軽視されてきた。

今回の研究には、Apple Researchと、iPhone / Apple Watchとを組み合わせて、アメリカのすべての州と地域の、さまざまな年齢・人種の人々が参加。腹痛、腹部膨満感、倦怠感、ニキビや頭痛のほか、これまであまり知られていなかった下痢や睡眠の変化など、月経周期における女性の幅広い経験に関するデータを収集することに成功したという。

こうしたデータは、月経に対する認識を高めるとともに、月経を正しく理解することで、女性が孤立したり偏見をもたれたり差別を受けることがなくなることへとつながると期待される。

■COVID-19の分析にApple Watchのデータを活用


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の研究にもApple Watchが活用されようとしている。

2021年4月、Apple社は「呼吸器の研究」の参加者を募集すると発表した。同研究は2020年9月、Apple Watch Series 6のプレスリリースで発表されたもので、Apple社、ワシントン大学医学部、Seattle Flu Studyなどが連携して行う。シアトル地域に住む22歳以上で、iPhone(6s以上)ユーザーで、英語が話せ、6カ月以上参加できることが研究への参加条件となる。

参加者には最新バージョンのApple Watchがひとつずつ配布される。6カ月間、常時装着し、Apple Watchで収集した血中酸素ウエルネス(血中酸素濃度)と心拍数のデータを用いて、COVID-19を含む呼吸器系疾患の早期シグナルとなるパターンを見つけようというもの。

参加者は毎週、Apple Researchでライフスタイルに関する質問に答えたり、呼吸器系の症状を記録する。研究期間中に参加者が病気になった場合には、Apple Watchを使った特別な分析が行われるとともに、研究チームが参加者の自宅で、COVID-19、インフルエンザ、その他の急性呼吸器疾患の検査をする。さらに手洗いの注意喚起情報などを送り、それらが参加者のウイルス感染症にかかるリスク低減につながるかも検証するという。

Apple社は、この研究のほかにも、喘息や心不全とApple Watchで計測した血中酸素濃度との関係を分析する2つの呼吸器研究を進めることを発表している。

■慶應義塾大学病院が行う脈拍と生活習慣の関連分析


日本でもApple Watchを臨床研究に活用しようという動きがある。慶應義塾大学病院は2021年2月1日、Apple Watchを利用した臨床研究 「Apple Watch Heart Study」を開始したと発表した。

Apple Watchを使って計測した心電図データやiPhoneのアプリ「ヘルスケア」に保存された脈拍などのヘルケアデータと、慶應義塾大学病院の研究アプリ「Heart Study AW」で収集する睡眠、飲酒、ストレスなどに関する調査データから、睡眠中・安静時の脈拍と生活習慣との関連を分析。いつ心電図を記録すれば心臓の異常を検出できる可能性が高いかを明らかにし、家庭での病気の早期発見につなげることをめざす。

今回行われる研究は2種類。

ひとつは、慶應義塾大学病院に通院する心房細動患者を対象に、携帯型心電図(2週間ホルター心電図)とApple Watchを使って計測した脈拍データおよび心電図とを比較するもの。さらに、iPhoneのアプリ「ヘルスケアデータ」に記録された睡眠、飲酒、ストレスとの関係をAIで解析し、不整脈が出現しやすい状況を推定する慶應義塾版アルゴリズムを構築することをめざす。

もうひとつの研究は、全国のApple Watch ユーザーを対象にしたもの。Apple Watchを装着し、睡眠時および可能な範囲で日中安静時の動悸などの症状を7日間記録。収集したデータを活用し、日本でのヘルスケアビッグデータの構築と解析を行う。さらに、慶應義塾版アルゴリズムを全国から収集したデータに適用し、生活スタイルや申告された症状のデータを中心に解析することで、アルゴリズムが適切な精度となるよう評価・改修する。

iPhoneのアプリ「ヘルスケア」ではさまざまな種類のデータを分類できる

Apple Watchをはじめ、ウエアラブル医療デバイスの普及が進み、日常生活におけるヘルスケアデータの収集が誰でも容易に行えるようになった。こうしたデータには、これまで病院で受診中という、限られた場・時間で収集されたデータではとらえきれなかった重要な情報が多く含まれているだろう。今後は、こうしたデータを臨床研究に活かすことで、より精度の高い医療の提供につながることが期待される。


WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。

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