診断
加藤 泰朗 2021.3.17

通院ではなく、病院がやってくる時代——地域医療・介護の問題をMaaSが解決する!?

CONTENTS
  1. ■伊那市の医療MaaS「ヘルスケアモビリティ」
  2. ■専用車両で遠隔診療と現地での看護師による患者支援を実現
  3. ■広がる医療・介護とMaaSとの融合

■伊那市の医療MaaS「ヘルスケアモビリティ」


病院に通うのではなく、病院がやってくるのを待つ。そんな未来を予感させる実証実験が、長野県伊那市で行われている。伊那市と医療機器メーカーのフィリップス・ジャパン、そしてMONET Technologiesが共同で行う「ヘルスケアモビリティ」事業だ。

MONET Technologiesは、トヨタ自動車とソフトバンクの共同出資会社。トヨタ自動車が構築した「モビリティサービスプラットフォーム(MSPF)*」と、ソフトバンクの「IoTプラットフォーム」を連携させ、MaaS(Mobility as a Service)**事業を展開する企業である。

長野県の南部に位置する伊那市は、松本市、長野市に続き、県で3番目の面積を有する。一方で、伊那市のHPによると、伊那市が属する上伊那医療圏は医師少数区域で、とくに高齢化が進む中山間地域における医療体制の整備が大きな課題となっていた。

身近に医療機関がないことで、高齢者を中心に通院に困難を感じる住民が増加傾向にある。訪問診療で対応するにも、移動距離の長さや医師自身の高齢化などの課題が残る。3者の共同事業は、これら課題の解決方法を探る取り組みであった。

*カーシェアなどのモビリティサービスの普及を踏まえ、既存のトヨタスマートセンター、トヨタビッグデータセンター、金融・決済センターの上位に、モビリティサービスに必要とされるさまざまな機能を備えたプラットフォーム(トヨタ自動車HPより)。
**「サービスとしての移動」の意味。2014年ごろに北欧フィンランドで提唱された考え方。

■専用車両で遠隔診療と現地での看護師による患者支援を実現


事業で使用した「INAヘルスモビリティ」は、トヨタ自動車のハイエースを改良し、医療機器などを搭載した専用車両。車内には、オンライン診療用のディスプレイ、簡易ベッド、心電図モニター、血糖値・血圧測定器、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の測定器(パルスオキシメーター)、AEDなどが搭載されている。

「INAヘルスモビリティ」の専用車両内部

患者から病院に診療予約が入ると、患者と合意のとれた診療時間に合わせて、病院スタッフがアプリから専用車の配車を予約する。MONET Technologiesの配車プラットフォームを活用するため、効率的なルートで患者の自宅などを訪問できる。

専用車に乗るのは、ドライバーと看護師で、医師はテレビ電話を通じて病院から遠隔診療を行う。問診から得られた情報をもとに、医師が現場にいる看護師に必要な検査、処置などの指示をするしくみだ。診療で得られた患者情報は、クラウド上で管理され、関連する医療従事者間で共有できる。

伊那市で行われているヘルスケアモビリティ事業のしくみ

患者のそばに看護師がいることで、医師と患者が1対1で行う通常のオンライン診療よりも安全で質の高い診察が可能になる。また、医師が移動しないため、これまで訪問診療の移動にあてていた時間を外来患者や緊急性の高い患者の対応に使えるようになり、より効率的な医療体制の構築が期待されている。

実証実験は、2019年12月にスタートし、2021年3月末に終了する予定だ。4月以降は、幅広い診療領域のカバー、提供エリアの拡大、得られたヘルスケアデータを地域全体の健康を守るシステムへの活用などが検討されている。

■広がる医療・介護とMaaSとの融合


MONET Technologiesは、伊那市以外にも医療とMaaSとを融合したサービスの実証実験を行っている。

2020年10月には、静岡県浜松市が実施する「春野医療MaaSプロジェクト」に参加し、浜松市天竜区の春野地区で移動診療車を活用したオンライン診療の実証実験を開始している。

また、同年11月には、福島県の中通り北部に位置する国見町で行われた、通院専用の乗り合いタクシーの実証実験に参加。病院のシャトルバスに代わる、新たな通院形態のひとつとして、乗合タクシーの可能性を探っている。

介護分野でもMaaSとの融合の動きがある。たとえば、群馬県太田市の「太田デイトレセンター」(運営:エムダブルエス日高)は、独自に送迎配車システム「福祉Mover」を開発・運用し、オンデマンド型乗り合い交通サービスを展開している。

自動車メーカーのダイハツは、香川県三豊市などと共同で、介護・福祉施設における送迎サービスを、施設ごとではなく地域共同で運用するサービスの実証実験を行っている。

超高齢社会、医師偏在による地域格差、膨らみ続ける医療費……、日本の医療は、さまざまな問題を抱えている。限られた医療資源をどう効率的に活用するかは、今後ますます重要になる。医療や介護、ヘルスケア分野でMaaSと融合することで実現されうる効率的できめ細かいサービスが広がることに期待したい。


WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。

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