診断
加藤 泰朗 2021.1.28
世界の医療DX事情

高い技術力で世界を目指すイスラエルのヘルスケア・スタートアップ

CONTENTS
  1. ■中東のスタートアップ大国、イスラエル
  2. ■医用画像上の臨床所見を医師の診断前にAIで検知
  3. ■遠隔でも神経学的検査や心肺のモニタリングが可能に
  4. ■AIを活用して遺伝子検査の効率と精度を向上
  5. ■日本とイスラエルの医療テックは、今後関係が深まる予想

■中東のスタートアップ大国、イスラエル


「中東のシリコンバレー」と称され、毎年1000件近くのスタートアップが起業するというイスラエル。もちろん、ヘルスケア分野でも新しい企業が次々と誕生している。

イスラエルのスタートアップ検索プラットフォーム「START-UP NATION CENTRAL」によれば、スタートアップ企業数は6617件、そのうちデジタルヘルスケアにかかわる企業は629件にのぼる(2021年1月21日時点)。以下にいくつか注目の企業をみていこう。

■医用画像上の臨床所見を医師の診断前にAIで検知


AiDoc社のシステムは、AI(ディープラーニング)を用いた画像解析で放射線科医の診断をサポートするソフトウエアだ。CT画像データから早期治療を要する重大異常をAIが検知し、画面上にアラートを送信する。事前に異常のアラートを受け取ることで、放射線科医師のワークフローが改善され、検査時間の短縮や精度の向上につながるという。

頭蓋内出血、大血管閉塞、急性頸椎損傷、肺塞栓症(偶発性も含む)、腹腔内遊離ガスに関しては、FDA(アメリカ食品医薬品局)認証とCEマークを取得している。

Zebra Medical Vision社の「Imaging Analytics Engine」も、AI(ディープラーニング)を活用した医用画像解析システムだ。ひとつのシステムで、X線やCT、MRI、マンモグラフィなど、多様なモダリティ(医用画像機器)の画像を自動的に分析し、脳や肺、心臓血管、骨の疾患、乳がんなどを検出できる。

Zebra Medical Vision社の「Imaging Analytics Engine」(Zebra Medical Visionのプレスリリースより)

同社は7つの製品でFDA認証とCEマークを取得している。

■遠隔でも神経学的検査や心肺のモニタリングが可能に


Mon4t社の「EncephaLog」は、スマートフォンを使って遠隔で標準的な神経学的検査を行うことができるモバイルアプリだ。

スマートフォンに内蔵されたセンサーを使用し、運動時や静止時のバランス、関節可動域などをチェックし、運動機能を評価する。また、ストループ検査(注意力や判断力を測る検査)や、記憶力や反応時間を検査する機能も搭載されており、認知機能の評価にも使用可能だ。

患者の自宅でリアルタイムにモニタリングできるため、クリニックで行う検査よりも生活に近い環境で評価できる。

同社のHPによれば、すでにパーキンソン病や正常圧水頭症、ハンチントン病、新型コロナウイルス感染症後の後遺症の検査などに用いられている。

Donisi Health社の「Gili Pro BioSensor」は、自宅での心拍数や呼吸の状態をモニタリングできるシステムだ。非接触型の卓上センサーが照射する光で複数の生理学的指標を同時に測定し、反射パターンをAIベースの独自の検出アルゴリズムで解析することで、心拍数や呼吸数をカウントしたり、心肺異常の指標(インジケーター)を検出できる。

Donisi Health社の「Gili Pro BioSensor」(Donisi Health社HPより)

■AIを活用して遺伝子検査の効率と精度を向上


Emedgene社の提供するシステムは、遺伝子検査の分析と解釈をサポートするAIベースのプラットフォームだ。

公開データベースや書面による文献を含む、数百のリソースを自動的に検索し、症例の解決に利用可能な情報を含むデータを画面に表示する。遺伝子データベース上の情報は、世界中で日々更新されている。同社のプラットフォームを使用することで、その膨大な情報のなかから、患者の遺伝子検査の分析と解釈に利用できるものをタイムリーに確認できる。

また、同社が開発した機械学習アルゴリズム「Pathorolo」は、現在利用可能なエビデンスから、症例が解決可能かを評価するものである。これによって、研究にかける時間を節約できるという。利用可能な情報が十分でないことが判定されることで、症例のための実験・研究をやめるタイミングを判断しやすくなるからだ。

■日本とイスラエルの医療テックは、今後関係が深まる予想


スタートアップ大国であるイスラエルは、国土2.2万平方キロメートル(四国程度)、人口約900万人(神奈川県と同程度)である。狭い国土と少ない人口からみると、約6600というスタートアップ数はやや不釣り合いにも感じるだろう。もちろん彼らの目指す先は、海外である。海外の大企業に買収されるのが、イスラエルのスタートアップのおもなイグジット・パターンだという。

日本企業とイスラエルのスタートアップのつながりが強化される動きもある。2019年1月15日、経済産業省はイスラエル国経済産業省とのデジタルヘルス分野における協力覚書に署名している。日本のヘルスケア・スタートアップであるヘカバイオデジタルヘルスが、2021年にイスラエルのスタートアップ2社の製品、Healthy.io社の在宅尿検査キット「Healthy.io」と、MyHomeDocs社のホームケアデバイス「MyHomeDocs」との連携・販売を開始する予定であることは、以前本メディアでも報じたとおりだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大で、既存の医療体制の課題が明らかになってきた。これから否が応でも変革を進めることになる日本の医療現場へ、イスラエルの先進的なデジタルヘルスケア技術が進出してくることが予想される。
WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。

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