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Medical DX編集部 2022.6.23
加藤浩晃先生に聞くデジタルヘルスの現在地

「骨太の方針2022」に明記された「医療DX」の本格化【加藤浩晃先生に聞く】

医療のデジタル化、そして医療DXについて、その見方を加藤浩晃先生にうかがってきた連載も、今回がひとまずの最終回となる。今回は、日本の医療DXの行方を左右する、ビッグニュースについてお話しいただく。

■2022年の「骨太の方針」に明記された医療DXの展望


加藤 つい先日、今後の日本の医療DXに関する大きな動きがありました。6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」が、閣議決定されました。
「骨太の方針」は、2001年以降の自民党政権下で、政府が毎年発表している、財政・経済政策の基本運営方針のことです。もっと簡単にいえば、「ここから1年、政府がやろうとしていること」の意思表明です。

この日、内閣府に置かれた「経済財政諮問会議」と、「新しい資本主義実現会議」が合同開催されて、経済財政諮問会議の答申を経て決定されました。それぞれの会議の議長は岸田総理です。「新しい資本主義実現会議」は岸田文雄総理肝いりの会議で、菅義偉前総理のときには「成長戦略会議」という会議がありましたが、それに該当するものとなります。

内閣官房 経済財政諮問会議(令和4年第8回)・新しい資本主義実現会議(第9回)資料4-2「経済財政運営と改革の基本方針2022(案)概要」より引用

──「骨太の方針」の中核をなす成長戦略案「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」には、大きく「人への投資と分配」「科学技術・イノベーションへの投資」「スタートアップ(新規創業)への投資」「GX(グリーン・トランスフォーメーション≒脱炭素化)及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資」という柱が示されていますね。

加藤 はい。医療の分野においては、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた医療体制や、データヘルスを推進する方向性が示されている、という報道がすでになされているかと思います。

ただ、それだけではありません。「経済財政運営と改革の基本方針2022(案)」にはもう少し細かく、そして最も大きなポイントとなることが記されているんです。少々長くなりますが、引用しましょう。

(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進) 医療・介護費の適正化を進めるとともに、医療・介護分野でのDXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・質の向上を図るため、デジタルヘルスの活性化に向けた関連サービスの認証制度や評価指針による質の見える化やイノベーション等を進め、同時にデータヘルス改革に関する工程表にのっとりPHRの推進等改革を着実に実行する。オンライン資格確認について、保険医療機関・薬局に、2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す。2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」及び「診療報酬改定DX」の取組を行政と関係業界が一丸となって進めるとともに、医療情報の利活用について法制上の措置等を講ずる。そのため、政府に総理を本部長とし関係閣僚により構成される「医療DX推進本部(仮称)」を設置する。経営実態の透明化の観点から、医療法人・介護サービス事業者の経営状況に関する全国的な電子開示システム等を整備するとともに、処遇改善を進めるに際して費用の見える化などの促進策を講ずる。医療・介護サービスの生産性向上を図るため、タスク・シフティングや経営の大規模化・協働化を推進する。加えて、医療DXの推進を図るため、オンライン診療の活用を促進するとともに、AIホスピタルの推進及び実装に向け取り組む。(後略)

内閣官房 経済財政諮問会議(令和4年第8回)・新しい資本主義実現会議(第9回)資料4-1「経済財政運営と改革の基本方針2022(案)」より引用(強調は編集部)

加藤 大きなポイントとは、デジタルヘルスの活性化、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の推進のために総理を本部長とした「医療DX推進本部(仮称)」を設置するということです。

■医療DXの推進が、国のど真ん中の方策となった


──「推進本部」の設置は、かなり大きなことなんでしょうか。

加藤 総理大臣が議長を務めるということは、最もプライオリティの高い会議になります。これまで、医療関連で総理大臣が本部長や議長となる会議は、5年間の医療戦略の案の作成をする「健康・医療戦略推進本部」くらいで、それ以外は担当大臣などが議長を務めるものがほとんどでした。

さらに、上記の成長戦略案について、他の分野をご覧になっていただけるとわかりますが、はっきり総理直下の会議が設けられると書かれているのは、他にはほぼありません。

──つまり、それくらい政府が医療分野のDXに力を入れる、と。

加藤 そうです。「医療DX」を国のど真ん中の政策として、政府が尽力してこの1年の間に進めていく、と明言したということなんです。

しかも、仮称とはいえ、国が「医療DX」という名乗ったことは大きいですよね。これまでは「デジタルヘルス」や「ヘルステック」など、さまざまな言葉で示されてぼやけていたイメージが、「デジタルを用いて医療現場の変革(DX:デジタルトランスフォーメーション)を行って、効率的に患者さんに向けたより良い医療を提供する」という方針として明確になりますので。

──これまで国の機関や民間企業が取り組んできたことが、よりスムーズに進むようになるということなんでしょうね。

加藤 そうなるはずです。たとえば、任意の導入だったオンライン資格確認の義務化に関しては、日程まではっきり記されています。ということは、来年の4月までにすべての医療機関・薬局などに原則として設置されるための、何らかの方策が講じられることになるでしょう。

もちろん、オンライン診療の活用促進や、AIホスピタルの推進などの取り組みなども触れられていますから、今後の流れとして必ず広がっていくはずで、それにともなって2024年からの医師の働き方改革、同年の診療報酬改定なども踏まえた、細かなルール設定も急務となっていきますね。

■医療DXの根本的な理念を忘れずに


──加藤先生には2020年の7月に、オンライン診療の普及の展望について初めてお話をうかがい、その後は医療のデジタル化について、連載記事として2年にわたってお話をうかがいました。そのなかで、編集部が想像した以上に、医療のデジタル化は進んだように感じていますが、加藤先生はどうお考えでしょうか。

加藤 そうですね……デジタル化は進んだかもしれませんが、まだDXとまでは進んでいない、ということは言えると思います。

例をあげると、「紙のカルテを電子化しましょう」というのが、デジタル化ですね。もうひとつ、「今までの対面診療に加えて、同じようにオンライン診療を使えるようにしましょう」という、デジタル付加も増えてきてはいます。

ただ、デジタル化・デジタル付加が行われていても、医療におけるDXを十全に行えているとはいえません。その状況を打ち破る契機となるのが、今回の「骨太の方針」だと思います。

さきほども申し上げたとおり、「医療DX」を行い現場のリソースを効率的に使って、患者さんに向けた最適の医療を提供するのが目的です。デジタル化は、あくまで「医療DX」の理念を実現するための手段です。

その根本的な理念を実現するための新たなフェーズにようやく入った、ということになります。

加藤先生は「THIRD CLINIC」の開院など、自身も医療のDX化を進めると同時に、それを広めるために講演や執筆活動を行ってきた。「厚生労働省を退官してからの5年間、行動してきたことや考えてきたことの、ひとまずの集大成」(加藤先生)という著書『医療4.0実践編 これからのヘルステック戦略』(日経BP社/税込2,530円)が6月27日に発売される。医療のデジタル化の流れ、技術の進歩、現場の問題などを踏まえ、医療DXを実践するための知識が詰まった1冊となっている。

加藤浩晃(かとう ひろあき)
2007年浜松医科大学卒業。2021年一橋大学大学院金融戦略・経営財務MBA(経営学修士)。専門は遠隔医療、AI、IoT、医療DX。16年に厚生労働省に出向、退官後はデジタルハリウッド大学大学院客員教授、AI医療機器開発のアイリス株式会社取締役副社長CSO、厚生労働省医療ベンチャー支援(MEDISO)医療ベンチャー支援アドバイザー、京都府立医科大学眼科学教室、千葉大学客員准教授、東京医科歯科大学臨床准教授など幅広く活動。『医療4.0〜第4次産業革命時代の医療』(日経BP社)など40冊以上の著書がある。新刊『デジタルヘルストレンド2022』(メディカ出版)が発売中。
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