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岩本 修一 2022.5.6
医療経営とDX

DXと教育〜ITツール導入後の教育〜【医療経営とDX 第11回】

DX働き方改革の担当者からは、以下のようなご質問をよく聞きます。

「業務フローを整理したり、便利なITツールを導入したりしたとしても、医療機関の職員がそのシステムをちゃんと使ってくれますか?」

「現場の人にITツールに慣れてもらうための教育はどうすればいいでしょうか?」

担当者の方は、DXを行うことによる業務改善や組織変革などのよい面を理解しつつも、「この変化に職員が適応できるだろうか」という心配をもたれるのだと思います。

しかし、DXは教育の手間を組織的に減らし、それ自体によって職員の適応を促します。さらに、適切なITツールを選択することで、導入時の教育コストが少なく済むだけでなく、その後の教育にかかるコストも減らすことができるのです。

今回は、ITツール導入後の教育について解説します。

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ITツールの使用感


ITは「Information Technology」、つまり情報技術を指す言葉です。日本では1995年にWindows95ともにインターネットの常時接続が普及しました。この現象を「IT革命」といいます。その後もITが発展を続ける中、仕事におけるITの利活用はずっと叫ばれ続けてきました。

2020年頃から「DX」が取り上げられるようになり、これまでITの導入に躊躇していた業界や企業でも「やってみたい」という声や、実際の導入事例が数多く挙がるようになりました。では、現在とそれ以前では何が異なるのでしょうか?

最も大きな違いの一つは、ITツールの「使用感」です。LINEやGoogleなどのように、広く利用されているITツールでは誰でも直感的につかえるようにつくられています。

説明書やマニュアルを読み解かなくても、必要な機能を、必要なタイミングで使うことができるように設計され、また、ユーザーからのフィードバックを活かして日々改善がなされています。

前述のIT革命以降、多くのIT企業から無数のITツールが生み出されました。その中で、ユーザー獲得のために「使用感」の競争が行われた結果、現在の「やさしい使用感」のITツールへと発展してきました。この傾向は業務用システムにも同様に起きています。

教育においてこの「使用感」が威力を発揮します。これまでは、ITツールを前にして“人間が”その操作方法を教える必要がありました。しかし、近年のITツールでは、使い方を“ツール自身が”教えてくれる設計になっており、教える側の手間(教育コスト)をかなり小さくできるようになりました。

また、ITツールが教育目的でつかわれるシーンも増えました。その一例が「動画撮影」です。教育における動画の効果は大きいです。とくに操作方法などの“百聞は一見に如かず”の作業は動画で撮影し、必要な人が確認できるようにしておくと便利です。

デスクトップ上の操作を撮影するときは、わざわざ専用のソフトをインストールしなくても、遠隔会議用ツール「Zoom」の録画機能で代用できます。

このように、汎用性の高いITツールが浸透したことで教育用の動画撮影のハードルは下がりました。

さらに、できあがった動画をクラウド上のマニュアルにリンクとして保管することで、いつでも、どこからでも閲覧できます。このひと手間をかけることで、本連載第6回でもご紹介した「院内のWikipedia」として役立ちます。

ITツールの機能と動画とクラウドをうまくつかえば、DX導入後の教育の手間を減らし、かつ伝えやすくすることができます。

そのうえ、ガイダンス動画やクラウド業務マニュアルは、翌年度以降の新入職オリエンテーションでもつかえます。年度初めの忙しさの主原因である新人教育の負担軽減にも応用できるのです。

業務マニュアルの課題と解決策


業務マニュアルの作成は、業務の可視化・標準化として重要です。しかし、普段やっていない業務や、手順の多い業務では、「次に何をすればいいかわからない」「そもそも何から手をつければよいかわからない」などの状態に陥りやすく、マニュアルを読みながら作業することすら難しいのが実状かと思います。

これを解決するのが「ワークフローシステム」です。

ワークフローは「業務の流れ」のことで、本連載でつかっている「業務フロー」と同義です(※1)。

そして、ワークフローシステムとは「業務の流れに沿って設計されたシステム」のことです。元々「稟議・申請システム」の呼称でしたが、現在では、「業務の流れに沿って設計され、業務を効率的におこなうためのシステム全般」を指して用いられます。

稟議や経費申請だけにとどまらず、日報や入社手続き、人事評価、契約など幅広い業務に応用され、各業務に特化したITツールが提供されています。

稟議の業務フロー(ワークフロー)を例にみてみましょう。


申請者が稟議書を申請し、その書類が各承認者に回り、最終承認者に承認されて保管されます。これらの業務には手続きと順番があり、決められています。

稟議書が紙で運用されている場合、以下のような多くの手間が発生します。

  • 稟議書の書式を探す手間
  • 稟議書を誰に回せばいいか確認する手間
  • 稟議書を物理的に運ぶ手間
  • 稟議書がどこまで承認されたかを確認する手間
  • 承認された書類を保管する手間

探す、確認する、運ぶ、保管するなど、一つ一つは小さな手間ですが、これらが積み重なって全体として大きな非効率が生じていることは少なくありません。

ワークフローシステムは、自動化により、この業務の流れをスムーズにするシステムです。


申請者はワークフローシステム上にある申請フォームの中から書式を選択します。申請された内容は、申請者の所属や申請内容によって自動的に次の承認者・決裁者に振り分けられます。決裁後、申請情報や承認日時などは一元的に自動保存されます。

ワークフローシステムを導入することで、以下のような効果が期待できます。

  • 書類や担当者を探す⼿間の削減
  • 業務の進捗を確認する手間の削減
  • 進捗状況の可視化による業務停滞の防止
  • 内部統制の構築
  • 継続的な業務改善

ワークフローシステムの導入方法は、大きく2つあります。

1つは、業務特化型のシステム導入です。前述の稟議システムの例のように、システム導入が自然に“ワークフローシステム化”します。

もう1つは、導入済のITツールの機能やプログラミングなどを用いて、自院の業務フローに合ったワークフローシステムを開発する方法です。

この方法はある程度の専門知識や開発にかける労力が必要となります。しかし、ITツールの進化によりプロのエンジニアに依頼しなくてもワークフローシステムを構築できるようになりました。実際、筆者もいくつかのツールを組み合わせたり、Slackのワークフロー機能を使って、医療機関に合わせたワークフローシステムをつくったりしています。

以上のように、自院にとって適切なツール選定を行うことができれば、業務における人が教えないといけない部分を減らし、教育コンテンツの制作を簡易におこなえる環境を整備できるようになるため、導入時の教育コストが減るだけでなく、その後の教育や人材育成にも活用できます。

※1 「業務フローを整理した図」や「ワークフローシステム」を指してつかわれる場合もあります。

※本記事は倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんとデジタルハリウッド大学院大学特任助教 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております
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WRITTEN by

岩本 修一

株式会社omniheal Chief Experience Officer(CXO)、医師、経営学修士。
広島大学医学部医学科卒業。福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院 総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社で病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年1月より株式会社omniheal/おうちの診療所目黒でCXO・医師として経営参画し、経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務を担っている。2021年10月より経営コンサルティングファームの株式会社DTGを創業。https://www.drivetogoal.co.jp/
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