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加藤 泰朗 2022.4.22

睡眠不足はITで解消!? 加速するスリープテックの開発・研究

■いま話題のスリープテックとは?


春は、とかく眠い。この時期は、休みの日にいくら寝ても寝足りないという人も少なくないだろう。

ただ、この寝不足な感じは、春のせいだけではないかもしれない。厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間でもっとも割合が高いのは、6時間以上7時間未満の層。理想の睡眠時間は6〜8時間ともいわれるので、時間だけ見ると、けっして不足しているとはいえない。

一方で、男女とも20〜50歳代の多くが、「日中、眠気を感じた」と答えており、量のわりには質の高い睡眠をとれていないことがうかがえる。

「質の高い睡眠」をいかに手に入れるか。このことをITなどのテクノロジーで実現しようとするのが、いま話題の「スリープテック」。さまざまなセンサーやAIなどを活用して、睡眠を計測・記録・分析し、快適な睡眠を提供する技術だ。すでに2012年ごろから睡眠とITを掛け合わせる技術開発は進められてきた。

スリープテックには、ウェアラブルデバイスを活用するものから、寝具に搭載されるものまで、さまざまある。以下に、注目する動きを見ていこう。

■ウェアラブルデバイスで睡眠の質を計測・分析する


スリープテックといえるウェアラブルデバイスで、もっともポピュラーなものは「Apple Watch」だろう。2020年秋、アップルはApple Watchにスリープトラッキング(睡眠記録)機能を追加した。Apple Watchを着けて眠るだけで、睡眠時間、眠りの深さ、心拍数などを簡単に測定・記録できるようになった。

Apple Watchを使って収集したデータを活用する健康アプリも、複数開発されている。たとえば、"事前予防・セルフケアの文化をつくる"をミッションに掲げるセルフケアテクノロジーズは、睡眠の質を測定、改善できる無料の健康管理アプリ「セルフバンク」を2022年2月28日にローンチしたと発表した。就寝中にApple Watchで収集したデータから、睡眠スコアを測定。睡眠効率、覚醒時間、レム睡眠時間などをグラフでわかりやすく見える化することで、睡眠改善へとつなげるサービスだ。

韓国の医療関連メーカーのLEESOLが開発した「sleepisol」は、CES(Cranial Electrotherapy Stimulation)を利用したウェアラブルデバイスだ。CESとは、脳への電気刺激の一種。頭に装着したデバイスから微弱な電流を発し、「セロトニン」や人間の睡眠を司っている「メラトニン」の分泌を促し、快眠をサポートする。セロトニンとメラトニンは、ともに概日リズム(サーカディアンリズム)を調整するホルモンだ。

CESを利用したウェアラブルデバイス「sleepisol」

ウェアラブルデバイスに用いる日本オリジナルの技術開発の動きもある。

2022年1月、東京大学医学部発のスタートアップACCELStarsは、腕時計型のウェアラブルデバイスなどで計測した腕の動きの情報から、その人が眠っているのか、起きているのかを正確に判定する手法「ACCEL(ACceleration-based Classification and Estimation of Long-term sleep–wake cycles)」を開発したと発表した。加速度計を用いた腕の動きの測定と、睡眠覚醒状態を知るための睡眠ポリグラフ(PSG)✳︎ 測定を同時におこない、得られたデータを機械学習で解析することで実現したもので、今後はACCELを活用したサービス開発に本格的に着手する。

✳︎睡眠ポリグラフ(PSG):脳波や眼球運動、呼吸運動、動脈血酸素飽和度、心電図、筋電図などを一晩にわたって記録する検査。

■寝具で質の高い睡眠をサポート


マッサージクッションブランド「ルルド」を展開するアテックスは2021年12月、睡眠センサー搭載の電動リクライニングベッド「スリープクオリティベッド」の発売を開始した。センサーをマットレス内蔵するタイプは、業界初である。

マットレス内に圧電(ピエゾ)素子(力を加えることで電圧が発生する誘導体)を使用したエアセルセンサーを搭載。睡眠中のわずかな動きや心拍、呼吸を2分ごとにモニタリング。測定したデータをもと睡眠スコアが算出され、スマートフォン専用アプリで閲覧できる。アプリにはスマホのバイブレーション機能を利用した目覚ましアシスト機能のほか、いびきや寝言の録音機能もあり、睡眠データとともに保存も可能だ。

睡眠センサー搭載の電動リクライニングベッド「スリープクオリティベッド」

こうした、寝具×ITで睡眠の質の向上をめざす動きは、国内外で広く進められている。国内のメーカーでは、寝具老舗メーカーの西川やフランスベッド、パラマウントベッドが、すでにセンサーと寝具を掛け合わせて睡眠データを取得し、活用する商品を開発・販売している。

別のアプローチからテクノロジーを活用して睡眠の質を高めようとしているのが、高反発マットレスでおなじみのエアウィーブだ。同社の「airweave MattressFit」は、スマホで全身写真を撮影すると、AIが体形を測定し、「最適な寝具」の硬さパターンを判定、パターンや商品を提案してくれるサービス。スマホだけで簡単に、最適な寝具、最適なマットレスの硬さを知ることができる。

■光や音で快眠を実現する


光や音など、周囲の環境を整えて、快眠へと誘う技術の開発も進んでいる。

睡眠グッズの製造販売を手がけるムーンムーンの「トトノエライト」は2色のLED照明で生活のリズムを整える製品。白色LEDと赤色LEDを切り替えて、入眠と覚醒をコントロールする。

フィリップスの「SmartSleep ディープスリープヘッドバンド2」は、音の力で睡眠の質を高めるウェアラブルデバイスだ。ヘッドバンドに搭載されたセンサーで脳波を読み取り、深い睡眠を検知すると深い睡眠の質を高めるための音が流れる。睡眠の状態によって音量や音域は自動で調整される。骨伝導スピーカーを用いるため、耳元などが覆われて不快ということもない。専用アプリと連携することで、睡眠の質も確認できる。

音の力で睡眠の質を高めるウェアラブルデバイス「SmartSleep ディープスリープヘッドバンド2」

「Kokoon Nightbuds」は、耳元の光学式バイオセンサーで睡眠状態をリアルタイムでモニタリングするデバイス。睡眠状態に合わせてセラピーサウンドの音量を調整する。就寝中に周囲の人のいびきや歯ぎしりの音をキャッチすると、騒音に合わせてマスキング音を再生する機能もある。2021年米国ベストスリープテックを受賞した注目の製品で、日本でも2022年6月に発売予定だ。

■加速が予測されるスリープテックの技術開発


2021年7月、オーダーメイド枕の店まくらぼを運営するFutontoは、スリープテックの力で睡眠の問題を解決し、世界の人々の健康に貢献する目的で「まくらぼSleepLab」を設立。

同社は2020年よりKDDIと共同で、まくらぼで販売するマットレスとKDDIの高精度睡眠計測デバイス「睡眠モニター01」を活用して睡眠時の心拍数や呼吸数、体動をモニタリングし、睡眠アプリ「Real Sleep」を通じて睡眠の質の分析や睡眠改善のアドバイスを提供するスリープテックサービス「まくらぼ×with HOME」を提供してきた。

今回のラボ活動第1弾として、KDDIと、「Real Sleep」をKDDIと共同開発したニューロスペースとの3社で睡眠データの調査結果を公表した。今後も日本の睡眠情報を定期的にレポートすることで、世界一の睡眠不足国といわれる日本の睡眠を変革するきっかけをつくる。

2022年3月には、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構、西川、アシックス、伊藤忠商事、東京海上日動火災、日本生命、パラマウントベッド、S'UIMINが、睡眠マネージメントに関する産学連携コンソーシアム「Sleep Innovation Platform」を設立。睡眠データや睡眠効果などのエビデンスを収集・蓄積・分析し、睡眠サービスの品質チェックの基準づくりに取り組み、それを普及させることで睡眠サービス全体の品質向上につなげる。

睡眠は、健康な生活を維持するために欠かせない要素だ。ウェアラブルデバイスやIoT技術の開発が進み、睡眠データや睡眠効果の取得が容易になった。今後、それらを活かしたサービス開発や研究がますます加速することは間違いない。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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