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加藤 泰朗 2022.4.15

マルチモーダルAI開発で、集中治療の現場の負担軽減に挑む

■AIを活用した遠隔ICUテレメディシン・サービスの研究がスタート


2022年春、集中治療専門医不足の解消の糸口となる、新たな研究が始まる。

横浜市立大学と株式会社CROSS SYNCは2022年3月28日、「患者のライブ映像を含むマルチモーダルな医療データを用いたAI技術により、重症患者の身体観察所見および重症度評価を自動化するAI見守り機能を搭載したD-to-Dの遠隔ICUテレメディシン・サービスの実装研究」が日本医療研究開発機構(AMED)の2022年度(令和4年度)「医工連携・人工知能実装研究事業」に採択されたと発表した。

横浜市立大学は、NTTデータと共同で遠隔ICUシステム「Tele-ICU」を構築し、2020年10月より運用を開始するなど、これまでも遠隔ICUシステムの開発に積極的に取り組んできた。

参考記事:「遠隔ICUはコロナ禍における医療体制逼迫の打開策となるか!?」

CROSS SYNCは、横浜市立大学発のベンチャー企業。「AIでデータに新たな価値を創造し、患者、家族、医療チームの情報共有を加速する」ことをビジョンに掲げるスタートアップだ。すでに、バイタルサインやモニタリング映像など、外部機器から収集した患者情報をAIで分析し、リアルタイムで表示・共有できる重症患者管理システム「iBSEN(イプセン)」を開発・提供している。

■めざすのは重症度評価と精神状態評価の2つの技術開発


共同研究の目的は、集中治療専門医が不足する医療現場でとくにニーズの高い「資源管理」と「疼痛・精神管理」について、AI技術を活用した遠隔集中治療室(ICU)システムを実装し、「医療安全と質の改善」「現場医療と遠隔ICUスタッフの負担軽減」を実現することだ。

そのために開発する技術は次の2つ。

ひとつは、血圧や心拍数などのバイタルサインや、呼吸器から得られた情報、患者映像の画像解析情報といった、複数の情報(マルチモーダル)をAIに入力・解析し、患者の重症度を評価(スコアリング)する技術。得られた重症度評価を遠隔ICUに必要とされるベッドコントロールなどの資源管理に活用して、遠隔ICUテレメディシン・サービスを構築する。

もうひとつは、患者の映像データを用いた動画像解析技術。これまで現場医療の労力に頼っていた疼痛・鎮静・せん妄管理のための評価(精神状態評価)を、常時自動でモニタリングし評価するAI開発に挑む。

血圧や心拍数などのバイタルサインと呼吸器から得られた情報と、患者映像を解析した情報をもとに、患者の重症度評価をおこなう。重症度の評価を遠隔ICUで必要とされるベッドコントロールなどの資源管理に活用し、遠隔ICUテレメディシン・サービスを構築する

横浜市立大学は、今回の共同研究で、遠隔診療に必要なデータ項目に関する調査や要件定義、ならびにAI技術の開発に必要となるノウハウ提供を担う。また、開発されたAI見守り機能を備えた新たな遠隔ICUシステムの実証の場を提供し、システムの早期社会実装をめざす。

さらに、遠隔ICU支援病院および遠隔ICU被支援病院における医療従事者の労務量を調査し可視化することで、AI見守り機能と遠隔ICUシステムの利活用が労務負担軽減にもたらす効果を検証する。

一方、CROSS SYNCは、データサイエンティストが中心となって、医療従事者にヒアリングしながら、患者の表情・体動を常時観察・解析し、疼痛・精神管理における精神状態を評価するAI見守り機能の研究開発を担当する。

最終的には、同社のiBSENに、各種医療機器との接続や、新たに開発するAI見守り機能の実装に関する機能拡張を施し、製品を市場に出すことをめざす計画だ。

■新型コロナウイルスパンデミックで明確になった課題


新型コロナウイルスパンデミックが始まった2020年春以降、しばしば「医療崩壊の危機」が叫ばれてきた。その過程で浮き彫りになったのが、ICU病床数と集中治療医療専門医不足など、日本の集中治療医療体制の抱える課題だ。

とくに集中治療医療専門医の不足は深刻だ。日本集中治療医学会の試算によると、日本で必要な集中治療科専門医数は7200人。一方で、2021年4月1日時点での日本の集中治療科医(学会認定集中治療専門医)数は2127人で、必要人数のわずか30%程度しか満たしていない。

集中治療専門医には、さまざまな重要臓器疾患についての診断・治療の知識・技能が求められる。育成にはそれなりの時間を要し、短期間での人員増加は望めない。しばらくは専門医不足が続くことが予想される。

横浜市立大学とCROSS SYNCが進める遠隔ICU研究は、こうした状況を改善する可能性を秘めている。研究成果に期待したい。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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