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加藤 泰朗 2022.3.24

「医療・ヘルスケアはアマゾン」という時代は来るのか? 米アマゾンの医療事業戦略

米国アマゾン(以下、アマゾン)の医療・ヘルスケア分野への事業展開が加速している。いくつかの注目すべき動きを整理した。

■3つのヘルスケア事業を1つの組織に統合


アマゾンは2021年12月、これまで個々に展開していた3つのヘルスケア事業を1つの組織に統合すると発表した。3つのヘルスケア事業とはすなわち、「アマゾンケア(Amazon Care)」「アマゾンファーマシー(Amazon Pharmacy)」、そして「アマゾン・ダイアグノスティックス(Amazon Diagnostics)」だ。

アマゾンケアは、オンライン診療と対面診療とを組み合わせたサービス。専用アプリを使ってオンラインで看護師や医師に医療相談ができ、対面診療が必要な場合は往診にも対応する、といった内容だ。2019年9月より、自社の従業員を対象にサービス提供を開始。2021年3年には、ワシントン州で他企業へのサービス提供を始めている。


アマゾンファーマシーは、アマゾンが2020年11月にローンチした処方薬のオンライン薬局。ベースとなっているのは、それに先立つこと約2年前に買収した処方箋デリバリーサービスPillPackのシステムだ。処方薬や医薬品の購入・発送だけでなく、処方箋管理や保険登録などが可能で、有料のPrime会員ならば、2日以内の無料配達サービスや割引販売サービスを受けられる。

アマゾン・ダイアグノスティックス(アマゾンDx)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに対処するために立ち上げられた医療診断事業。すでに自社従業員のスクリーニング向けにCOVID-19検査キットを開発し、2021年6月に米国食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を受け、翌7月より家庭用キットの販売を開始している。今後は、性感染症や遺伝学などの検査への進出も視野に入れている。

アマゾンは、これらのヘルスケア事業を1つの組織に統合することで、高品質なケアを推進し、患者に必要なヘルスケアサービスや製品、医薬品を入手するための、より患者本位な方法の開発をめざすという。

■アマゾンケア、全米での展開へ向けて前進


2022年に入って、3事業の1つ、アマゾンケアに大きな動きがあった。2月8日にアマゾンは、アマゾンケアに関して、すでに米国内で利用可能なオンライン診療サービスに加え、2022年中には対面診療サービスについても新たに20都市以上で展開すると発表したのだ。

対面診療サービスは現在、シアトル、ボルチモア、ボストン、ダラス、オースティン、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、アーリントンの8都市で提供中。今回これらに加えて、サンフランシスコやマイアミ、シカゴ、ニューヨークなどの大都市圏を含む20都市以上で、対面診療サービスを導入する計画だ。

アマゾンケアのディレクター、クリステン・ヘルトン氏は「患者は、自分たちのことを第一に考えてくれない医療制度にうんざりしている。私たちはそれを、往診は一度に1人のみという患者中心のサービスで変えていく」と述べた。

アマゾンは、対面診療サービスの提供地域を最終的に米国50州すべてにまで拡大することを目標にしている。

■医療・ヘルスケアでの活用が進むアマゾンのデバイス


2020年8月にはヘルスウェルスサービス「Amazon Halo」を発表。リストバンド型デバイス「Amazon Halo Band」と専用アプリとを連動させて利用するサービスだ。

リストバンド型デバイス「Amazon Halo View」と専用アプリ(Amazon)

ディスプレイをもたないデバイスには、加速度計や温度センサー、心拍数モニター、マイクなどを搭載。運動の強度・持続時間、睡眠の質や体脂肪測定、利用者の声の分析などをとおして、装着時の健康状態を常時モニタリングする。2021年9月には、新バージョン「Halo View」を発表。新たにディスプレイが搭載され、AI音声認識サービス「Alexa」との連携機能も可能だ。

そのAlexaを医療施設や高齢者施設で日々のケアに利用する試みもすでに始まっている。アマゾンは2021年10月、「Alexa Smart Properties」機能を活用した医療機関向けと高齢者施設向けの2つの新しいソリューションを展開すると発表した。

ソリューションを活用することで、医療機関ではAlexaの通話やドロップイン機能などを使って、病室を回診せずに患者とコミュニケーションをとれるようになる。これにより現場の生産性が向上して個別化されたケア提供に充てる時間が増える、COVID-19の蔓延で不足が課題になったマスク、手袋、ガウンなどの個人防護具の使用量削減につながる、などの効果が期待されている。すでに、ボストン小児病院やCedars-Sinai、BayCare、Houston Methodistなどの医療機関がAlexa Smart Propertiesを採用している。

高齢者施設でも、居住者は「Amazon Echo」デバイスを使って自分の部屋にいながら、ほかの居住者や施設外にいる家族と連絡をとったり、自分の所属するコミュニティの話題にアクセスでき、社会とのつながりを維持できるようになる。施設管理者も、Alexaのコミュニケーション機能を使って入居者と会話したり、アクティビティのスケジュールや食事のメニューなどの情報をカスタマイズして居住者に提供したりすること、管理業務の効率化を図れる。アマゾンによると、Atriaや Eskatonなどの高齢者施設がAlexa Smart Propertiesを採用するという。

■クラウド領域でのヘルスケアデータ活用も推進


2021年7月には、HIPAA(医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠したクラウドベースのサービス「Amazon HealthLake」の一般提供を開始したと発表。Amazon HealthLakeは、大規模なヘルスデータやライフサイエンスデータの格納・加工・分析をクラウドで実行するサービスで、「AWS for Health」の新サービスだ。

機械学習を活用することで、構造化されていないデータから、意味のある医療情報を理解・抽出、その情報を整理・インデックス化して、時系列に保存できる。業界の標準基準であるFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)を採用しているので、医療者、製薬会社、臨床研究者、医療保険者などのあいだでの情報交換が容易。相互運用性が高まることで、よりよいケアの開発・提供を後押しするサービスだ。

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上記以外にもアマゾンは、医療・ヘルスケアの課題解決に取り組むスタートアップへの投資などを積極的に進めている。既存の医療・ヘルスケアサービスのあり方を"破壊"しながら、展開を進めるアマゾン。その射程は広がり続けている。近い将来、「医療・ヘルスケアならアマゾンのサービス」が当たり前の時代が来るかもしれない。

画像:Amazon
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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