
■注目の集まる非侵襲型の血糖値測定機能付きスマートウォッチ
既報のとおり、新型コロナウイルス感染症の拡大にともなって注目を集めているオンライン診療。定期的な通院が必要とされる生活習慣病、特に糖尿病に関しては、オンラインによる診療、生活指導へも注目が集まっている。
ご存じのように糖尿病は、血糖値が高い状態が続くことでさまざまな合併症を引き起こす生活習慣病だ。これをオンラインで治療・生活指導をしていくうえで、患者自らで血糖値測定をしてモニタリングをしていくことが重要なポイントとなってくる。
血糖値を調べるための測定器は、皮膚を穿刺して採血するものだ。しかし、痛みを伴い患者の身体に負担が大きいこと、穿刺針やセンサーチップのコストが高いことなどが問題点とされてきた。そこで近年、開発が進んでいるのが、生体を傷つけずに(非侵襲/非穿刺型)血糖値を計測する技術だ。
この非侵襲型の血糖値測定装置に関しては、世界中で急速に開発が進んでおり、なかでも腕時計型のスマートウォッチ/スマートバンドでの非侵襲血糖値測定機能に注目が集まっている。
スマートウォッチで世界一のシェアをほこるApple Watchにおいても、早くからこの機能に関する特許申請がなされていることからも、その注目度がわかるだろう。
それに先駆けて、日本のベンチャー企業、株式会社クォンタムオペレーションが開発した「世界初となる非侵襲連続測定可能な血糖センサー」がコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)2022でデモを行い、「CES 2022 Innovation Awards」を受賞したことで話題を集めている。
■研究の結果、精度は約84%
そんななか、科学ジャーナル『Nature』のMicrosystems and Nanoengineeringセクションに、ある研究結果が掲載された。非侵襲型(非穿刺型)血糖値測定機能を持ったスマートウォッチのプロトタイプで血糖値測定を行い、その精度を研究したものである。
この研究において使用されたのは、LEDスクリーン、PCB回路(プリント基板)、充電式電池とバンド、およびセンサーパッチで構成されたスマートウォッチのプロトタイプだ。センサーによって血中のブドウ糖量≒血糖値を感知し、LEDスクリーンないしは、ペアリングしたスマートフォンなどで測定結果を確認した。参加者は13人の糖尿病患者と10人の非患者、あわせて23人だった。
そしてその測定結果を、基準測定器での値と比較するクラークエラーグリッド分析法で解析した。今回は、スマートウォッチの使用可能回数は4回で、1回の測定時間は17分。基準測定器の6回の計測値と比較して分析されている。

結果を見ると、ゾーンA(臨床的に受け入れられる正確な測定値=46.99%)と、ゾーンB(不適切な治療にはつながらない許容可能な中程度の測定値=37.35%)に集中している(上図のグラフe参照)。つまり、このプロトタイプを用いた血糖値測定の精度は、この数字を合わせた84.34%であることがわかった。
また、10人の非患者に関しては両手にスマートウォッチを装着し、片手は動かして良い状態、もう片手は動かさないようにして、測定を行ったところ、いずれの測定値にも誤差はなかったことも確認されている。
もちろん、医療機器、医療検査機器としての承認までは、ある程度の時間を要すると考えられるが、この結論によって非侵襲型の血糖値測定がさらなる注目を集めることは間違いないだろう。
スマートウォッチにおける、ヘルスケア技術の競争は今後も激化することが予想される。
参考論文:『Nature』「Highly integrated watch for noninvasive continual glucose monitoring」
https://www.nature.com/articles/s41378-022-00355-5
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