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加藤 泰朗 2022.3.14

CureAppの高血圧症治療用アプリ、世界初の薬事承認に向けて前進!

アプリを活用して高血圧症を治療することが当たり前の時代が、すぐそこまで来ている。

医療系スタートアップCureAppは2022年3月9日、自治医科大学内科学座循環器内科学部門と共同研究を進めてきた本態性高血圧症に対する治療用アプリ「CureApp HT」が、厚生労働省内の薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会において、薬事承認の了承を受けたと発表した。今後、厚生労働大臣による正式な承認を経て、保険適用に向けて手続きを進める。

■高血圧症疾患領域で、世界初の薬事承認へ


薬物療法やデジタル手術機器を使った外科治療のように化合物(薬剤)やハードウェアを用いるのではなく、ソフトウェアを活用して治療を施すデジタル療法(Digital Therapeutics:DTx)。治療用アプリを操作することを通じて、生活習慣病や精神疾患、慢性疾患に罹患する患者の日々の生活習慣を変え、治療効果を出す新しい療法だ。日本では2014年の「医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)改正で、医療用ソフトウェアが薬事承認規制の対象となったことを契機に開始された。

治療用アプリは、しばしばダイエットアプリなどの"ヘルスケアアプリ"と混同されがちだが、以下の3つの特徴で、ヘルスケアアプリとは異なる。

1. アプリに含まれるコンテンツまたはアルゴリズムが学会の定めるガイドラインや最新論文などに基づき医学的に妥当性の高いこと。
2. 開発された治療用アプリは臨床試験(治験)を経て、医薬品と同様に治療の有効性が示され、国の承認、保険適用されていること。
3. 使用に際しては医師の処方が必要なこと。

近年、欧米においても治療用アプリの開発が活発化している。対象となっている疾患領域は、糖尿病認知症など、さまざま。ただし、高血圧症領域に関しては、国内はもちろん欧米でも治験の成功事例や薬事の事例がない。CureApp HTは、高血圧症疾患領域において、世界で初めて薬事承認の了承を受けたアプリになる。

また、CureApp HTは、純粋にソフトウェア単体として薬事承認の了承を受けた国内初の治療用アプリでもある。CureAppは、すでにニコチン依存症治療用アプリ「CureApp SC」を開発。2020年12月に日本で初めて医療機器として薬事承認を受け、保険適用されて、販売を開始している。ただし、CureApp SCはアプリとハードウェア(COチェッカー)を組み合わせた医療機器だ。


CureAppは、患者が使用するスマートフォンアプリ、医療現場で医療従事者が使用するウェブサイト、そしてそれらをつなげるクラウドシステムからなるシステムを開発。今回、このトータルでのシステムとして、薬事承認の了承がなされた。

■アプリ利用で行動変容を促す


CureApp HTの使用イメージは次のとおりだ。


まず、医師が患者を診察。治療用アプリの使用が望ましいと判断した場合、医師が処方コード(パスワード)を発行し、患者に渡す。患者は自分のスマートフォンにアプリをインストール後、処方コードを入力。アプリがアクティベートされ、初めて治療用アプリの使用が始まる。

次の受診日まで、患者は日々自宅で、治療経過、体調などをアプリに記録。アプリは、家庭用血圧測定器とブルートゥース連携が可能なので、自動データを取り込むこともできる。

記録したデータに基づいて、アプリが適切な行動変容に関する指導・ガイダンスを患者に掲示。患者は自分の状態に合った教育コンテンツ・指導を学びながら、生活習慣の是正・改善のための行動を実施する。

受診日に、患者は医師にアプリで実施した行動などを報告。患者が日々アプリに入力しているデータは、クラウドを通じて病院のパソコン上で保管され、医師が一元的に見える状態にもなっており、医師は患者の報告とあわせてそれらのデータを参照することで、通常の診療よりも効率的で質の高いケアを実施できる。

■高血圧パラドクスに挑む治療用アプリ


国内の潜在的な高血圧症患者数は推計で4000万人超。日本人の3人に1人が高血圧という状況だ。

高血圧症治療は、数多くの降圧薬が開発され、近年では治療用医療機器、ハードウェアも登場し、大きく進歩している治療領域のひとつである。一方で、潜在的患者のうち、実際に通院し治療を受け、血圧コントロールができているのは3割弱で、残りの7割は高血圧症と診断されているが治療をしていない、治療を受けているがコントロール不良、あるいは自覚がなく無治療など、十分な治療介入がなされていない。このような状況は「高血圧パラドックス」と呼ばれている。

高血圧パラドックスの原因はいくつかある。たとえば、患者が降圧薬を飲み続けることに抵抗感をもっていること。あるいは、生活習慣の改善が重要だと認識しながら、自力では達成できないことなどが、原因として考えられている。

CureApp代表取締役社長・佐竹晃太氏は、開発した高血圧症に対する治療用アプリは、「まさに高血圧パラドックスに対するソリューションになりうる」と考える。患者がCureApp HTを活用し、動画による教育コンテンツを学び、血圧を測定し、日々の活動記録をとることで、患者の生活習慣の是正・修正が習慣化され、結果として降圧効果を期待されるからだ。事実、国内第Ⅲ相臨床試験では、CureApp HTを使うことで10mmHg程度の降圧効果を認められた。


オレンジのラインはCureAppが開発した治療用アプリを使用した群。灰色のラインは毎日血圧測定した群。3カ月後、半年後のいずれの期間を比較しても、アプリのほうが、降圧効果が有意に高いことが示されている。

■治療用アプリとCureAppの今後の展望


治療用アプリなどのDTxの今後について佐竹氏は、「2022年度診療報酬改定において、厚生労働省が治療用アプリやAI医療機器など、プログラム医療機器に関する診療方針の項目を新設する見込み。これにより、今後治療用アプリに関する保険適用の予見性に関して、解像度がより高くなった」と語り、治療用アプリなどを含むプログラムなどの最先端医療機器(SaMD)に関して、診療報酬の受け皿が新設されることに期待を示した。

また、CureApp HTの薬事承認の了承条件に「承認後1年を経過するごとに市販後の本品の有効性に関する情報を収集するとともに、本品の有効性が維持されていることを医薬品医療機器総合機構(PMDA)宛てに報告すること」が付いたことを受けて、日本でもリアルワールドデータ(RWD:実臨床で得られた医療データ)活用の必要性がいわれており、「そのなかでひとつの役割を果たすことができる」と、CureApp HTの可能性を語った。

CureAppは現在、ニコチン依存症、高血圧症以外にも、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルコール依存症、慢性心不全がんの領域でパイプライン(新薬候補)の開発に着手している。それぞれのパイプラインは、アカデミアとタッグを組みながら製品開発、臨床研究を進めており、エビデンスを確認したのち、治験に入る予定だ。


今回発表した高血圧症治療用アプリに関しては、正式な薬事承認後、保険適用に向けてのプロセスを進め、今年中の保険適用とその後の販売をめざす。現在、それを見越して人員増強を含め、販売体制を整えている。

グローバル環境に目を向けると、治療用アプリ市場は急成長が見込まれている。CureAppは、すでに3年ほど前にアメリカで子会社を設立。日本でのニコチン依存症や高血圧症における第Ⅲ相臨床試験のエビデンスや、NASHその他の領域での臨床研究レベルでのエビデンスをレバレッジ活用しながら、アメリカでのDTxビジネスを進めている。

CureAppのほかにも、不妊症領域、糖尿病領域、うつ病領域などでいくつかのプレーヤーが治療用アプリの開発を進めている。高血圧やニコチン依存症にかぎらず、「アプリでの治療」が日常になりつつある。


本文中の画像・資料はCureApp提供
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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