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加藤 泰朗 2022.1.20

フィリップスと東北大学、「麻酔科医の遠隔教育」と「慢性心不全病態のAIデータ解析」で、日本発のイノベーション創出をめざす

■フィリップスと東北大学の共同プロジェクトがスタート


フィリップス・ジャパンと東北大学は2021年12月8日、「麻酔科医の遠隔教育」と「慢性心不全病態のAIデータ解析」の2つのプロジェクトを共同で進めることを発表した。

今回のプロジェクトは、2020年10月にロイヤルフィリップスが主催する「Clinical Research Board(CRB)」の日本初の認定パートナーとして東北大学が選定されたことを受け、フィリップスと共同で推進するプロジェクトとして選定されたもの。

CRBはロイヤルフィリップスが、医療機関と共同でのソリューション開発やイノベーションを加速させるために創設したプログラム。健康な生活、予防、診断、治療、ホームケアにいたるヘルスケア・プロセスでのイノベーションを共創領域に掲げ、現在、世界で200以上の医療機関がパートナーとして認定されている。すでにスウェーデンのカロリンスカ医科大学と共同で「Patient Care Flowソリューション」の開発などを実現している。

2つのテーマについて、フィリップス・ジャパン代表取締役社長・堤浩幸氏は、「『麻酔科医の遠隔教育』と『慢性心不全の病態のAIデータ解析』は、いずれも東北大学ならではの課題意識や強みに根差すものでありながら、東北地方以外の課題の解決にも寄与する可能性があるユニークなテーマ」と述べて、さらにモノ売りからコト売りビジネスへの転換期にあるフィリップスのポートフォリオという観点からも、重要なテーマだと評価した。

■遠隔教育のしくみづくりで、世界的な麻酔科医不足に挑む


「麻酔科医の遠隔教育」がテーマとして取り上げられたのは、麻酔科という診療科の課題と、東北地方という地域性がある。

日本は慢性的な麻酔科医不足の状態にある。すでに2005年に日本麻酔科学会が「麻酔科医マンパワー不足に対する日本麻酔科学会の提言」を発表しているが、現在もその状況は変わっていないという。2019年に日本病院会が行った「2019年度 勤務医不足と医師の働き方に関するアンケート調査」によると、勤務医が「不足している」または「やや不足している」と回答した病院で、もっとも不足していると考えられている診療科は麻酔科だった。麻酔科医の20-30歳代の半数以上が女性で、その数は増加しているにもかかわらず、出産や育児にともない、単位不足や専従医不足で専門医の更新に支障をきたす事例が少なくないことなどが背景にある。

また、東北地方は、広大な面積の割に専門教育の施設が少なく、医師の引っ越しや移動など、モビリティに関する課題も多い。人生とキャリアの重要な局面で、働き方を犠牲にせず、専門性を高め、維持することはむずかしい環境といえる。

さらにコロナ禍で、臨床実習の機会が制限されていることが、状況をより深刻なものにしているという。

こうした麻酔科医を取り巻く課題を解決するために、フィリップスと東北大学は、実習者と指導者が時間や地理的制約を受けず、現場実習相当の学びを再現できるしくみをARVR技術で実現する今回のプロジェクトをスタートさせた。

麻酔科医不足は、日本だけの課題ではない。『The Lancet Oncology』(2021年2月号)には、「世界のがん手術需要が大幅に増加し、途上国では外科医・麻酔科医不足が深刻になる」との論文が掲載されている。

まずはプロトタイプの開発と実証から開始し、将来的には海外CRBパートナーと連携して、国際基準での教育を実現する次世代教育プラットフォームへとつなげていく予定だ。

■東北大学の心不全研究の蓄積とAIへの取り組みを生かす


日本の心不全患者は、2020年におよそ120万人に達すると推測されている。心不全は高齢化にともなって発症数が増加する疾患で、超高齢社会に突入している日本では、今後も患者数が増加することは間違いない。現在、世界でも3000万人の心不全患者がいるといわれ、心不全への対応は世界的な課題になっている。

東北大学は、これまで東北6県の関連24施設における心不全患者について、発症からの進行を追いかけた日本最大の前向き登録観察研究データを所有し、治療に携わってきた。

さらに、スマートホスピタル構想の一環として、院内に「AI Lab」を設置し、「医療AI人材育成拠点プログラム(Clinical AI)」を立ち上げ、医療現場での課題解決と人材育成の課題に部門や診療科横断で取り組んできた。

こうした東北大学のこれまでの取り組みに、フィリップスの国内外におけるデータサイエンス領域での経験・技術力を掛け合わせることで、慢性心不全治療に対するイノベーション創出につなげることが、今回のプロジェクトの狙いだ。具体的には、心不全患者の患者体験・アウトカムの向上や、医療提供体制上の課題を解消するためのしくみの開発をめざす。

■第2弾、第3弾のプロジェクトにも期待


東北大学病院は、「患者さんに優しい医療と先進医療の調和」の理念のもと、2019年よりスマートホスピタルの実現に取り組んでいる。フィリップスとのコラボレーションは、この取り組みをさらに加速させるものだ。

東北大学とロイヤルフィリップスとのパートナー契約期間は、2020年10月から2027年9月までの7年にわたる。今回の共同プロジェクトは、長期契約で実施されるプログラムの第1弾として発表されたもの。今後も、東北大学がもつ高度医療と地域の医療に関する豊富な知識と経験、卓越したユーザーエクスペリエンスを生み出せる環境と、フィリップスのグローバルでの知見や研究開発機能を融合させ、超高齢化が進む日本において、医療現場、健康・予防領域の課題を解決し、世界に向けて先進事例となるような新しいソリューションやサービスモデルの創出を推進していくという。

第1弾で掲げられた2つのテーマの進捗だけでなく、第2弾、第3弾でどのようなプロジェクトが選定されるのか、大いに期待だ。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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