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加藤 泰朗 2021.12.29
遠隔医療のDX

医療×MaaSの実証実験を通じて、場のニーズに合った未来の医療のかたちの実現へ

■未来の医療と移動のかたちを探る実証実験がスタート


移動のサービス化を意味するMaaS(Mobility as a Service)。ICTなどを活用して、移動を1つのサービスとしてとらえ、新しい価値を創出する考え方だ。医療の世界でもいま、MaaSの概念にもとづくさまざまな取り組みが進められている。

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)では、ヘルスケアを志向しながら医療機関までのシームレスな移動を実現するシステム構築のための実証実験が行われている。

2021年11月24日、湘南アイパーク、湘南鎌倉総合病院、三菱商事、三菱電機、マクニカは、神奈川県産業労働局の支援、藤沢市、鎌倉市の後援を得て、「医療×移動」に着目したシームレスな移動システム構築のための自動運転に関する実証実験を、湘南アイパークで実施すると発表した。地域住民がおもな対象で、期間は2021年12月4日~26日の土曜日・日曜日である。

湘南アイパークは、JR大船駅と藤沢駅の中間に位置し、湘南鎌倉総合病院の敷地に隣接するサイエンスパーク。2018年4月に武田薬品工業が湘南研究所を開放することで設立された。ヘルスイノベーションを加速する場として、製薬以外にも、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタル、行政など、バラエティに富んだ業種・規模の産官学が結集している(2021年11月現在で、120社以上が参加)。

湘南鎌倉総合病院は、1988年に徳洲会グループの24番目の病院として開院。これまで救急医療を中心に、地域医療に貢献してきた歴史をもつ。近年、「病院のショールーム化」をめざし、ITIoT、ロボットなどを現場に積極的に導入し、「医療×産業」の実現をめざしている。

マクニカは、1972年設立の電子部品を取り扱う専門商社。これまで最先端の半導体、電子デバイス、ネットワーク、サイバーセキュリティ商品に技術的付加価値を加えて提供してきた。近年は、AI/IoT、自動運転、ロボットなどの分野で新たなビジネスを展開している。

湘南アイパークと湘南鎌倉総合病院は2019年5月に、神奈川県、藤沢市、鎌倉市の3者と、湘南アイパークのある村岡地区と、深沢地区におけるヘルスイノベーション最先端拠点形成をめざして、覚え書を締結。その実現に向けて、「次世代健康管理」「ヘルスケアMaaS」「スポーツ振興」の3研究分野で、さまざまな実証実験を進めている。今回の実証実験は、ヘルスケアMaaSの「医療と移動」分野に関するものだ。

実証実験の内容は次のようなもの。未来で実現する、自宅から病院への移動を想定して、湘南アイパーク内を自動運転シャトルバスで周遊。移動中、車室内でバイタルセンシング技術を用いて乗客の心拍数や血圧、体温などを計測。さらに、病院とリモート接続してデジタル問診を模擬的に体験してもらう予定だ。

乗車後は実験参加者にアンケートを実施。一連の実験とアンケートをとおして、通院などにおける患者の移動時間の有効活用や、病院の生産性の向上などを調査し、有用性を検証していくという。

■移動式保健室で地域医療の課題に挑戦


地方では、人口減少による過疎化や自治体財政の逼迫により、高齢者や医療・介護を必要とする人の医療アクセスが困難になっている地域が多数存在する。こうした場所では、なによりも地域住民の持続可能な医療アクセス確保が、MaaSで解決が期待される課題だ。

三重県では、マルチタスク車両を活用した「オンライン診療オンライン受診勧奨、保健指導」(移動式保健室)実現のための実証実験が11月4日から12月27日の期間で進められている。マルチタスク車両とは、トヨタとソフトバンクが共同出資し設立したMONET Technologiesが開発した、トヨタハイエースを改良したMaaS向けワゴン車である。

実験の主体は、医療機関向け医師紹介サイトの運営など医療情報のプラットフォームを提供するMRT、MONET Technologies、印刷大手の大日本印刷、大手建設コンサルタントのオリエンタルコンサルタンツの4社と、三重広域連携スーパーシティ推進協議会。

実験が行われている大台町、多気町、明和町、度会町、大紀町、紀北町の6町は、三重県伊勢市の西に位置し、人口減少と高齢化という共通の地域課題を抱えている。公共交通機関の乏しい中山間地域が存在しており、医療へのアクセスが困難なことによる慢性疾患の重症化や医療費増大などの問題も生じている。さらに地域住民の健康を守る医療機関が減少しつつあり、住民が安心して医療にアクセスできるようサポートすることが課題となっていた。同時に、これらの地域における公共交通の多くは、自治体の負担により運営されており、自治体の財政を圧迫しているという難問も抱えていた。

実証実験では、看護師や保健師がマルチタスク車両で患者の自宅を訪問し、車両内で保健指導や受診勧奨を実施。さらに、ビデオ通話を用いて病院内の医師によるオンライン診療やオンライン健康相談などにも取り組んでいる。

サービス概要図

これらを通じて、地域住民の医療アクセスの改善や、オンライン診療などの新たな受診機会を創造し、健康意識の高まりや行動変容を促して医療費抑制につなげる効果を確認する。また、6町で共同運用することで、財政負担軽減につながるかも検証する。

■場のニーズで、医療×MaaSの可能性は無限大


MaaSという言葉が登場したのは2014年ごろといわれる。まだまだ新しい、可能性のある概念だ。

医療×MaaSの取り組みは、その場所のニーズによって、さまざまなかたちをとりうる。今回は都市部と過疎地域での実証実験を取り上げたが、上記で紹介した以外にも、今後、多種多様な医療×MaaSのかたちが現れてくるだろう。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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