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加藤 泰朗 2021.10.27
日本の医療AI最前線

AIホスピタルプロジェクトの現在地〜「AIホスピタルによる高度診断・治療システム成果発表シンポジウム2021」レポート

■開発期限まで約1年半となったプロジェクトの進捗状況を報告


2021年10月16日、内閣府と医薬基盤・健康・栄養研究所は、日本医師会と共催で「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム成果発表シンポジウム2021」を、日本医師会館とオンラインで開催した。

「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」(以下、AIホスピタルプロジェクト)とは、内閣府の「内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program: SIP)」第2期(2018年開始)で進められている12プロジェクトのひとつ。AI、IoTビッグデータ技術を活用して「AIホスピタルシステム」を開発・構築し、既存の医療機関に実装することで、高度で先進的な医療サービスの提供、病院業務の効率化による医師や看護師の抜本的負担軽減、医療費の効率化、超高齢社会における諸課題の克服などの実現をめざすプロジェクトだ。

AIホスピタルプロジェクトは、AからEの5つのサブテーマ(12課題)に分かれており、今回、成果報告がなされたのは、AからDの4テーマ、11課題である(発表がなかったサブテーマEは、特許取得などの知財管理、技術標準戦略など、研究・開発されたシステムの普及・活用に向けた社会的環境の整備を課題としている)。

冒頭、AIホスピタルプロジェクトのプログラムディレクターで、がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔氏が挨拶。プロジェクトがスタートして3年半を振り返り、2021年を、4月に同プロジェクトから発足した「医療AIプラットフォーム技術研究組合(Healthcare AI Platform Collaborative Innovation Partnership: HAIP)」と、6月に活動を開始した日本医師会の「日本医師会AIホスピタル推進センター」とが、連携をとりながら実装化に向けて一歩を踏み出した、記念すべき年と位置づけた。

続いて、日本医師会会長・中川俊男氏が、AIホスピタルプロジェクトを「医療現場の負担を軽減し、あたたかい血の通った医療を取り戻す試み」と評価したうえで、同プロジェクトで培われた技術が、多くの医療従事者を支援し、医療のさらなる発展に寄与することを願うと、期待を述べた。

内閣府科学技術・イノベーション推進事務局長の松尾泰樹氏は、AIホスピタルの社会実装は、国民に成果が届く点、医療従事者の負担軽減につながるという点で非常に重要で、何としても実現していきたいと意気込みを語った。

■スタートから3年、各テーマで実証に向けた研究が進む


シンポジウムは2部構成。前半はサブテーマAからCの課題について進捗状況が報告された。

サブテーマAに関しては、情報通信総合研究所・大平弘氏が「セキュリティの高い医療情報データベースの構築と、それを利用した医療有用情報の抽出解析の開発およびAIを用いた診療時記録、看護記録の自動文書化、救急現場で対応可能な自然言語処理システムの構築」と「新型コロナウイルス感染症データ提供プラットフォーム」の2つのテーマについて進捗状況を報告。2021年は、実用化に向けた取り組みを加速する時期と位置づけ、実用モデルの試用・検証を進めているとした。後者に関しては、クラウド型データベースを構築し、すでに運用を開始している。

サブテーマBは、はじめにスマートコミュニケーション技術開発に取り組む日立製作所・宇賀神敦氏が、開発を進める8研究のなかから「小児患者の検査案内と待機中家族の不安軽減」「新型コロナウイルス感染症相談補助システム」「外来がん薬物療法におけるAI問診」「eConsent *による説明業務時間の提言」「タブレット用いた入院説明による省力化」の5つの研究について進捗状況を説明した。そのひとつ、がん薬物療法を受ける外来患者用AI問診システムは、現在、がん研究会有明病院に導入して効果を検証中で、来年度は板橋中央病院での実証実験を行う予定だ。

*デジタル技術を使って患者説明を行ったり、承諾した結果を電子的に記録に残したりすること(発表スライドより)

同じくサブテーマBの研究開発にかかわる日本ユニシスの羽田昭裕氏は、「アバター技術(ドクターアバター)を使った医師のインフォームドコンセント支援システム」「糖尿病診療補助サービス」「カルテ音声入力システム」の3テーマについて報告。「糖尿病の診断補助サービス」は年度内の臨床利用をめざし、試作版アプリケーションの作成を進めている。

医療AIプラットフォームについては、HAIPの八田泰秀理事長が、2021年4月に設立したHAIPの構成と取り組みについて説明した。医療AIプラットフォームは、個々の企業では対応できない業界共通の基盤技術の研究開発を進めている。現在、医療AIベンダー30社とプラットフォーム搭載に向けた協議を実施中。社会実装後は登録メニュー100を目標に活動を実施している。最後に実証検証中の「脳動脈瘤の画像診断補助サービス」についてのスライドを流し、社会実装に向けての具体的な道筋を示した。

サブテーマCについて進捗状況を発表したのは、オリンパスメディカルシステムズとビー・エム・エルの2社。

オリンパスメディカルシステムズの池田裕一氏らは、複数のセンサーを用いた空間認識技術と、熟練医師の高い内視鏡操作技術をAI分析して適切な操作を推定する技術とを搭載した内視鏡AI操作支援システムの開発状況を説明。将来的には内視鏡挿入技術の開発をめざすと意気込みを語った。

ビー・エム・エルの山口敏和氏は、リキッドバイオプシーによる超高精度がん診断システムの標準化・実装化の状況を解説した。血漿サンプルの採取手順と保管・搬送条件の標準化が終わり、医療機関向けの推奨手順の提供体制が整ったこと、血漿サンプルの品質を評価するソフトウエアやデバイスのプロトタイプ開発が完了したことなど、これまでの成果を報告した。

■各医療施設の特性に合わせたAI開発が進む


後半の2部では、サブテーマDにかかわる5つの医療機関が、それぞれ取り組む研究と進捗状況を報告した。

国立成育医療研究センターは、「小児がんの診断支援システム」「自閉スペクトラム症の早期診断補助技術」「医療的ケア児におけるAIを用いた医療・生活支援システム」などの開発状況を報告。病院長の賀藤均氏は、小児や妊婦を対象とする医療として、AIを活用したからこその「あたたかい医療」の実現と、病院だけではなくクリニックでも利用できるシステムの均てん化をめざすと話した。

慶應義塾大学病院の陣崎雅弘副院長は、「受付・問診・同意取得の支援」「効率的な患者との情報共有」「検査の非接触・遠隔化」「院内データの可視化」「ロボットによる医療従事者の負担軽減」「AI構築のための画像、ゲノム病理などのデータベース構築」の6つの研究課題について報告。多岐にわたる病院業務へのAI活用状況に、司会の宮野悟サブプログラムディレクターは「AIホスピタルの姿が慶應義塾大学病院に現れつつあるという印象をもった」と評した。

大阪大学医学部附属病院は、土岐祐一郎病院長が事前に録画したビデオ映像で報告。AIシステムについて、「電子カルテの音声入力」「アバターを使ったインフォームドコンセント支援」「病棟入院前の看護問診支援」「画像診断支援」「フレイル診断」「認知機能スクリーニング」などのシステム・アプリの開発状況を解説した。また、地域28機関と連携するOCRネット(大阪臨床研究ネットワーク)を含む、情報連携・管理の状況を説明しながら、同病院のめざすAI基盤病院までの道のりを示した。

がん研究会有明病院の取り組みに関しては、副院長の小口正彦氏が「総合がん臨床データベース」「病理診断支援AIシステムとデジタル病理部門システム」「医療安全AIシステム」について報告。病理診断支援AIシステムに関しては、これまでに消化器がんのがん病巣有無判定では98%の正解率を、がん病巣範囲判定では95%の正解率を達成。現在、がんの特徴を推定するAIシステムや、がん判定AIと範囲判定AIの機能を組み込んだ業務支援システムの開発、他施設でもシステム利用を可能にするためのAIの調整などを行っている。

最後に、横須賀共済病院の病院長・長堀薫氏が、地域医療を担う病院でのAIを活用した取り組みについて報告した。横須賀共済病院がAI研究に取り組む原点は、増大する医療ニーズに疲弊するスタッフの負担を軽減したいと考えたこと。現在、サブテーマA、Bに参加する企業などと連携して5つの研究・開発を進めている。そのうちのひとつ、電子カルテへの音声入力システムはAIホスピタルプロジェクトが始まる以前の4年前から開発に着手。同病院の間接看護のじつに3/4を占める記録業務の大幅な省力化を図るため、開発を続けている。

そのほかにも、構造化した電子カルテを救急現場へ実装する取り組みや、持参薬鑑別業務支援システム、インフォームドコンセント支援システム、アバターを用いた患者説明システムの開発を進め、医療従事者の負担感を減らして患者の満足度を上げる、人に優しい病院の実現をめざしていきたいと話した。
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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