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岩本 修一 2021.9.30
医療経営とDX

地域連携とDX〜経営改善と患者アウトカム改善をめざして〜後編【医療経営とDX 第4回】

「医療経営とDX」をテーマにお届けしているこの連載ですが、今回は前回に引き続き、「病院の地域連携とDX」についてお伝えします。

前編では地域連携室の役割とDXの導入にあたっての手順について解説しました。
今回は、後編として、地域連携のプロジェクト事例をご紹介します。

データ分析から始まる地域連携活動


実際の事例を紹介します。中核市にある中規模総合病院の地域連携強化プロジェクトです。院長から「地域連携活動の生産性を向上し、紹介患者を増やしてほしい」という要請で、このプロジェクトが発足しました。

この病院の地域連携室では、すでに地域連携広報誌の配布、開業医の先生への積極的な情報提供、地域連携ツールの導入、紹介患者の紹介経路および紹介元医療機関ごとの紹介患者数の集計など、一通りの地域連携活動をおこなっている状況でした。そこで、プロジェクトメンバーは改善すべきポイントの「あたり」をつけるために、紹介患者データ分析と担当者ヒアリングから着手しました。

当年度と前年度の紹介患者数および紹介入院率を比較したところ、紹介患者数は増加していたものの、紹介入院率はやや低下していたため、結果として紹介入院患者数は横ばいになっていることがわかりました(下図)。


また、紹介元医療機関別の紹介件数データを調べてみると、前年度に紹介が最も多かった診療所からの紹介件数が大きく減少し当年度は数件しか受けていないことが明らかになり、一方でこれまで紹介のなかった医療機関から多数の紹介を受けていることも判明しました。

そこで、当年度の紹介患者数の多い医療機関と、前年度比で紹介患者数または紹介入院率が下がった医療機関を対象にアンケート調査および聞き取り調査を実施しました。その結果、「紹介しても待たされることが多くなった」「受け入れ可否までに時間がかかるので、緊急患者は紹介しにくい」などの声が得られました。

データ分析およびアンケート結果を基に「患者紹介時に受け入れ判断で待たされることが多く、他の医療機関に紹介患者が流れている。患者紹介から受け入れ連絡までの過程をスムーズにすれば連携医療機関は紹介しやすくなるだろう」と仮説を立て、対応策を検討することになりました。

検討の結果、『紹介医療機関専用の予約枠と電話予約窓口の設置』が課題に対して最も適切に対応できる施策と判断しました。プロジェクトメンバーの迅速な院内調整に加えて、院長肝いりのプロジェクトということもあり、企画から約1カ月という短期間で専用電話窓口をオープンさせました。

これにより、患者紹介に対する受け入れ可否の返答までの時間が従来の約2/3となり、紹介元の医師からも「返信を早くもらえるようになった」と好評を得られるようになりました。

データ運用フローの刷新


また、このような改善活動を継続的に回していくためには、プロジェクトの序盤でおこなったデータ分析作業を省力化、できれば全自動でリアルタイムに確認できることが理想的です。

分析に用いた紹介患者数データおよび紹介元別データの仕組みを改めて確認したところ、項目の多くは他システムで集計されたデータの転記や再集計であること、当該データ作成を地域連携室の担当者が毎月手作業でおこなっていること、使用しているツールがExcelであることがわかりました。

このプロジェクトの目的である「地域連携活動の生産性向上と、紹介患者数の増加」に立ち返ったとき、転記や再集計、定型的なグラフの作成などの単純作業を減らし、より付加価値の高い仕事に時間をつかえるようにすることが必要だと考えました。

そこでデータが自動更新され、自院でも運用可能なITツールの導入を検討した結果、Google Workspaceを活用することにしました。具体的には、Googleスプレッドシートを用いて必要なデータベースと連携すれば自動でデータが更新される仕組みです。さらに、そのデータに基づいてGoogleデータポータルで自動的にグラフ化し、視覚的に実績を確認できるようにしました。入力時の使用感がExcelと大きく変わらないため、担当者の学習コストが少ないのも導入の決め手となりました。

このデータを常時、地域連携室の専用モニタで表示(ダッシュボード化)するようにすれば、地域連携室のパフォーマンス指標が職場で常に掲示されているため、自分たちが何を果たせばよいのかがわかりやすくなり、改善が目に見えることでモチベーション向上にもつながります。

しかし最大のメリットは、データの転記やグラフの調整などの単純作業から解放され、やるべきことに取り組む時間が増えたことだと思います。

地域連携でDXを進めるために


上記の事例はDXプロジェクトとして立ち上がったわけではありませんが、地域連携におけるDXプロジェクトを行う際に参考になる部分がいくつかあります。

1つは「データを施策につなげること」。多くの病院ではすでに地域連携のデータ収集をされているでしょう。しかし、そのデータを分析し、実際の施策の立案・実行につなげられているでしょうか?

集計された地域連携データは宝です。その宝を使えるように整理して、地域連携のミッション遂行につながるように設計するのが重要です。


もう1つのポイントは「見える化」です。地域連携活動に直結する数字をリアルタイムで表示し、関係者の見えるところに置いておくことで地域連携室は活性化します。これは地域連携担当者は日々の活動が数字にどのように反映されるかを体感していくことで、より効果的な活動のアイデアを生む素地をつくるためです。これは、労働生産性の観点でも有効な手段の1つです。


前後編にわたって、DX導入の具体的な事例として地域連携を取り上げました。地域連携へのDX導入は、患者数増加や収益向上という経営上の利益だけでなく、より適切かつ迅速な患者紹介を支援することで地域の患者アウトカム改善にもつながるのではないかと考えています。

みなさんの病院でもぜひトライしていただき、病院地域連携におけるDXを形作っていけたらと思います。


※本記事は倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんとデジタルハリウッド大学院大学特任助教 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております
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WRITTEN by

岩本 修一

株式会社omniheal Chief Experience Officer(CXO)、医師、経営学修士。
広島大学医学部医学科卒業。福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院 総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社で病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年1月より株式会社omniheal/おうちの診療所目黒でCXO・医師として経営参画し、経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務を担っている。
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