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加藤 泰朗 2021.8.27
遠隔医療のDX

産業技術総合研究所ら、X線診療車を開発。新型コロナウイルス感染症陽性患者の初期診断に活用へ

■バス型の検診車でオンライン診療を実施


産業技術総合研究所、筑波メディカルセンター、茨城県立医療大学、北里大学、東京都立大学、駒澤大学、フォーカスシステムズ、ピュアロンジャパンは共同で、新型コロナウイルス感染症陽性患者の初期診断ができるX線診療車(ICXCU:Infection-Controlled X-ray Care Unit)を開発した。これまでに完成しているX線診療車は1台で、本年度中に筑波メディカルセンター病院に配備され、今後、1年間にわたる実証試験がスタートする。

現在、茨城県では、病院施設内で一般患者に新型コロナウイルスが二次感染することを防ぐため、病院敷地内に屋外据え置き型の陰圧テントを設置し、感染症陽性者の初期診断を実施している。しかし、屋外据え置き型テントは、外気温や天候の影響を受けやすく、悪天候や照明が不十分な夜間時には診察できないという課題があった。さらに、一度設置した陰圧テントや医療機器は、簡単には移動したり持ち出したりできず、クラスター発生施設にただちに設置できない。

今回開発したX線診療車は、バス型の検診車を改造してつくられたもので、環境や移動の制限を受けづらく、こうした課題の解決につながるものである。

■遠隔診療機能と感染防護機能


X線診療車には、大きく2つの特徴がある。

ひとつは、オンライン診療に対応したシステムが搭載されていること。車内前方の清潔エリアに設置された医療情報伝送用のオンライン診療システムは、インターネットに接続。医療関係者間コミュニケーションアプリを介して、オンライン診察のデータや胸部X線画像を病院内の診察室にいる専門医に遅延なく転送することが可能だ。病院建物の外で、遠隔から新型コロナウイルス感染症陽性患者のメディカルチェック(胸部X線一般撮影、血圧測定、酸素飽和度測定、体温測定の4項目)ができるため、一般患者や陰性患者との接触・同席の機会を回避し、二次感染による感染拡大を防ぐことができる。

もうひとつの特徴は、X線診療車自体に感染防護機能が備えられていることだ。車内は区画分離されており、前方から外気を取り込み、清潔エリアから診察エリアへの一方向の気流を発生させ、後部診察室の天井から排気する換気システムを採用している。そのほかにも、低濃度オゾン発生器や紫外線(UV)照射による空気の清浄化、診察室の抗菌フィルムコーティングと、二次感染を防ぐ対策がとられている。

X線診療車の車内と換気システム。清潔エリアの給気ファンとエアコンから外気を取り込み、送風機によって車両後部の診察エリアに送風、X線撮影室の排気ファンに設置されたフィルターで除菌され、外部に排気される(産業技術総合研究所プレスリリースより)

さらに、車内気流の数値シミュレーションをし、設計どおりの気流が発生し、所定の換気状態が実現できていることを、気流計測および流れを可視化して検証するなど、徹底した感染対策が講じられている。

■オンライン診療の流れ


想定する検査の流れは次のとおりだ。

X線診療車内には、オンライン診療を監視するオペレーターと、X線撮影をする診療放射線技師が待機。患者はX線診療車の後部入り口から搭乗し、血圧測定後、中央部のX線撮影室で胸部X線撮影をして、撮影後は、車両後部の診察エリアに移動する。

計測されたデータや撮影された画像は、すぐに遠隔にいる医師に送られ、医師はそれらのデータをもとに、ビデオ通話で患者に問診(オンライン問診)し、診断結果を伝え、入院するかホテルで療養するかを決める。

予診から問診、診断報告までの診断状況は、タブレット端末でほかの医療従事者も共有できるしくみとなっているので、迅速かつミスの少ない診断が期待される。

そのほかにも診療車には、自動血圧計、エコー装置、バイタルモニター、心電計、電子聴診器などが搭載されている。そのため、必要に応じて、基礎疾患をもつ患者への初期介入も可能だ。

X線診療車の診断機能と搭載医療機器(産業技術総合研究所プレスリリースより)

■災害時の救護拠点支援としての活用にも期待


移動診療車としての特徴を活かし、今後は病院内に配備する以外の利用法も想定されている。たとえば、保健所などの要請に応じ、クラスター発生施設や軽症者療養施設に移動して、現地でスクリーニングや患者の経過観察、メディカルチェックを実施し、最適療養先を決定する、などが検討されている。

また、医療過疎地域での遠隔診療や、地震や水害など、昨今増加傾向にある自然災害時の一時的な救護拠点支援としての利用など、アフターコロナ社会での活用も期待されている。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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