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岩本 修一 2021.7.29
医療経営とDX

DXプロジェクトを失敗させないポイント【医療経営とDX 連載第2回】

昨今のデジタルの進化は凄まじいものがあります。とくに、誰もが安価かつ手軽にアクセスできるようになった点と、ツール同士を連携して扱えるようになった点は、個人・法人がそれらを享受する上で大きな変化であり、10年前と比べるとまさに魔法のようです。

一方、デジタルトランスフォーメーション(digital transformation: DX)はそのカッコいい語感に反して、地道な活動です。DXは”魔法”ではなくアクションです。計画を行動につなげて、継続し、やり切ることが重要です。そのためには、プロジェクトマネジメントの手法が有用です。今回は筆者が実際に関わったプロジェクトを事例に、DXプロジェクトを失敗させないポイントについてお伝えします。

目的と目標


DXに限らず、多職種・多部署にまたがるプロジェクトを必ず成功させる方法はありません。しかし、失敗させない方法はあります。それは「目的明確化と目標設定」です。

前回、「目標明確化」の重要性を伝えましたが、プロジェクトが失敗に終わる理由の半分は「目的と目標」にあります。

目的とは「何のために行うか」です。目標とは「成功したらどんな状態になっているか」を示した数字とその判断基準です。これらを初期に明示し、すべてのメンバーと共有・合意できていれば、プロジェクト失敗の確率を大きく下げることができます。

病院の医事課業務効率化プロジェクトの事例を紹介しましょう。医事課職員は、1ヶ月分の診療報酬を翌月10日までに診療報酬明細書(レセプト)にまとめなければならないため、当月の月末から翌月の月初にかけて残業時間が増える傾向があります。

そこで、A病院では「医事課職員の負担軽減」を目的に、業務効率化プロジェクトを立ち上げました。そのときの目的と目標は以下の通りです。


医事課職員の負担軽減を目指すにあたり、どんな状態になったら成功したと言えるか(目標)を検討し、①残業時間の削減、②休日出勤の減少、③定時業務時間内レセプト業務時間の増加の3つを設定しました。

前述の通り、レセプト業務は月初と月末に発生します。ゴールデンウィークや年末年始など、当該業務が発生する期間に連休がある場合、担当者は休日出勤をしなければならない状況でした。これを解消するために②を設定しました。

また、通常業務との兼ね合いもあり、レセプト業務の開始が18時以降になることが多く、残業前提の不文律がありました。それを脱却するために設定した目標が③です。これら3つの目標について指標を定めて測定し、業務効率化策を行った後に評価できるように、数値管理をしていきました。

このように、目的を明確にして目標を設定することで、プロジェクトを失敗させる典型的なパターンを回避できます。それは、プロジェクトに関わる人の「目線」が合わないパターンです。目的が不明確であったり、目標を設定せずに進めたりすると、各人が”自分の目線”でバラバラに動いてしまいますし、異なる目線で物事をとらえてしまうため、いくら議論しても噛み合わない状態になりがちです。

また、プロジェクトの成功・失敗の判断基準がないと、プロジェクトがどれだけ進んでも、結局効果があったのかさえわからなくなってしまいます。これを防ぐためにも、プロジェクトを開始するときに、しっかりと目的、目標を定めて、全員の「目線」を合わせる必要があるのです。

これは筆者が大失敗したプロジェクトで学んだことです。そのプロジェクトでは、目的が不明確なまま進めてしまった結果、プロジェクトの途中で全員が何をやるべきかを見失ってしまいました。その結果、メンバーの労力や相応の予算を使ったにもかかわらず、何の成果も感じられなくなってしまいました。あのような思いは二度としないために、目的と目標の設定に全力で取り組むようになりました。

目的の定め方


目的を明確にするコツは「多目的にしないこと」です。医師や看護師の業務負担軽減と、患者満足の向上および利益増加を同時に序列なく求めている場合が多目的の例です。欲張ったり、見栄を張ったりして、一つのプロジェクトにたくさんの目的を背負わせてしまうことは失敗の入り口です。

とくに、響きのよい”DXプロジェクト”では「多目的化」がおこりやすいように感じます。人は”X”という文字をみると、気持ちが高ぶって魔が差してしまうのかもしれません。しかし、そこは心を落ち着かせて、しっかりとやるべきことを見定め、適切な目標を設定しましょう。もしどうしても多目的になってしまう場合は、優先順位やグループ分けなどを整理して、一本にまとめていく作業が必要です。

医療機関におけるDXプロジェクトの目的として、以下のような例が挙げられます。

  • 労働生産性の向上
  • 人的資源の適正活用
  • 特定業務の自動化
  • 意思決定の迅速化
  • バックオフィスの効率化
  • 職員の負担軽減
  • 医療の質向上

これらはあくまで一部ですが、DXプロジェクトを自院にとって重要な課題を解決する手段として位置づけ、プロジェクトが一人歩きしないようにしましょう。

自身が意思決定者でなく、意思決定者のサポート役、もしくはプロジェクト担当者である場合は、意思決定者の目的明確化を促すことが役割になるでしょう。可能な限り、意思決定者に直接ヒアリングをおこない、何のためにDXプロジェクトをやりたいかを聞きましょう。そして、目的と目標を文書にまとめて、その内容に対する承認を得ます。

失敗に不思議の失敗なし


『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』

これは肥前国平戸藩の第9代藩主、松浦清の言葉であり、元東北楽天ゴールデンイーグルス監督の故・野村克也氏の座右の銘としても有名な文句です。筆者はこの句を「まぐれで勝つことはあるが、負けには必ず落ち度がある」と解釈しています。

プロジェクトでも同様です。負けにつながる“落ち度”を減らすのが肝要です。そのためにまず、プロジェクト初期に「目的と目標」を固めることが重要です。これを意識することで、DXプロジェクトを少しでもうまく軌道に乗せてもらえたら本望です。


※本記事は倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんとデジタルハリウッド大学院大学特任助教 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております
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WRITTEN by

岩本 修一

株式会社omniheal Chief Experience Officer(CXO)、医師、経営学修士。
広島大学医学部医学科卒業。福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院 総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社で病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年1月より株式会社omniheal/おうちの診療所目黒でCXO・医師として経営参画し、経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務を担っている。
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