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岩本 修一 2021.6.24
これからの医療経営とDX

医療経営とDX〜DX第2波に備えるために〜【連載第1回】

今回からスタートする連載「これからの医療経営とDX」では、株式会社omnihealのCXO(Chief Experience Officer)で、医師の岩本修一先生に、医療機関でも重要になるデジタルトランスフォーメーション(DX)の観点からの医療経営・マネジメントについてご執筆いただきます。

医療機関においてもデジタルトランスフォーメーション(digital transformation: DX)の波が押し寄せようとしています。執筆時点(2021年6月現在)ではまだ少ないものの、2025年までに多くの病院で「DX推進プロジェクト」が発足され、多くの病院関係者がプロジェクトを担当することになるでしょう。

一方、診療所経営ではすでにデジタルやデータを活用したケースが出始めています。本連載では「DXと医療経営」をテーマに、医療機関でDXをどのように捉え、どのように進めていくかを実際の事例を織り交ぜながら紹介していきます。

■DXによって業務フローが最適化される



まず、DXとは何でしょうか。ここでは、DXとは「デジタルやデータを活用した最適な業務フローへの転換」と定義してみます。単なる「デジタルやITの導入」ではなく、「業務フローの最適化」がメインとなっていることがポイントです。

実は、医療機関におけるDXは今に始まったことではありません。「電子カルテ・オーダリングシステムの導入」はまさに医療経営DXの第1波でした。2005年ごろより病院を中心に電子カルテとオーダリングシステムの導入が進みました。それまで紙カルテで運用されてきた業務フローが、電子カルテをベースにしたものに置き換わったのでした。電子カルテ導入に関わったことのある方は思い出してください。医師をはじめとする臨床現場の意見の取りまとめと説得、導入後の業務の流れの確認、操作方法のマニュアル化、現場スタッフへの説明と終わりなき質疑対応……、苦労ばかりが思い起こされる人も少なくないでしょう。しかし、そのプロセスこそがDXです。つまり、DXとは「デジタルに合わせて業務フローを再構築すること」であり、「お金と人員を投入し、各関係者に根回しをして、組織的に仕事のやり方を変革すること」です。

DXは苦労を伴いますが、それを越えた先に大きなプラスがあります。電子カルテ・オーダリングシステムの導入では、紙カルテを探す手間が減り、検査オーダーが瞬時に受け手に届くようになるなど効率化が進みました。手書きがテキストに置き換わることで、情報共有と履歴参照が進みました。病棟や手術室の空き状況の把握が容易になったことで、稼働率向上を実現できるようになりました。入院患者の識別バンドは患者の取り違えを減らしました。このように、DXは業務効率化やチーム医療、稼働率向上、医療安全などの経営課題を解決することができます。

■地域連携、バックオフィス改革、働き方改革が柱に



これから始まる医療経営DXは、電子カルテを含む経営データを統合し意思決定に活用する第2波です。各医療機関の事情にもよりますが、概ね以下のような方向で進んでいくと想像します。

病院におけるDXでは、地域連携とバックオフィス改革と働き方改革の3つが優先課題になってくるでしょう。地域連携では、担当者の勘と腕に頼る営業活動から、地域連携データに基づく戦略的マーケティング活動への進化が求められます。これまで築いてきた連携先との関係性を基盤として、オンライン・オフラインの両方を組み合わせたコミュニケーション設計も必要です。最適かつ多接点の地域連携活動は、継続的な患者紹介と稼働率向上を目指します。

人事労務、経理、経費計算などのバックオフィス業務は、クラウド型サービスの台頭により安価かつ手軽に導入しやすくなりました。今後も使いやすさは向上していくでしょう。業務効率化だけでなく、事業継続計画(Business Continuity Plan: BCP)の観点からもDXが必要とされます。これらのプロジェクトの難易度は比較的低く、短期間で効果を得やすいため、地域連携と並んでDX初期に取りかかりやすい分野です。

働き方改革で労働生産性の向上をめざすなら、DXは働き方改革そのものです。なぜなら、DXは「業務フローの最適化」であり「労働生産性の最大化」を目指すものだからです。自院における労働生産性を定義し、測定し、評価し、カイゼン活動につなげるためには、業務情報を蓄積したデータベースとデータ活用のための体制づくりが必要になります。パフォーマンスの定量化やその測定にハードルがあるものの、DX推進の本丸として避けては通れないでしょう。

診療所のDXでは、クラウド型サービスを駆使し、電子カルテのデータとの統合、データのダッシュボード化など、コンパクトにデータドリブンな経営体制をつくることは可能です。ただし、システム利用料などのコスト面やDX人材を確保し続けることの難しさが制約条件となります。規模拡大をめざす診療所グループはどんどんDXを進めていくでしょう。

■DXを進めるためには目的の明確化が重要


医療機関でDXを進めていくにあたっては、まず目的を明確にして、院内での共有をはかることが最も重要です。目的の不明確から方向性を失い頓挫するプロジェクトはDXに限らず数多くあります。経営者やプロジェクトリーダーの第一の仕事は「目的明確化」と言っても言い過ぎることはないでしょう。さらに、DXを組織全体に広げていく場合、リーダーシップと人材育成が鍵になります。

以上のように、医療経営におけるDXの論点は多岐にわたり、DX推進人材が足りないことも相まって、実際に進めていくハードルは高く感じられるかもしれません。しかし、それぞれの論点をおさえ、一つ一つを丁寧に実行していけば成功の確率を大幅に上げることができます。本連載では論点ごとに押さえるべきポイントや方法論をお伝えしていきます。


※本記事は倉敷中央病院医事企画課係長 犬飼貴壮さんとデジタルハリウッド大学院大学特任助教 木野瀬友人さんにアドバイスを得て執筆しております
※記事中の画像はイメージです(shutterstock)
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WRITTEN by

岩本 修一

株式会社omniheal Chief Experience Officer(CXO)、医師、経営学修士。
広島大学医学部医学科卒業。福岡和白病院、東京都立墨東病院で勤務。2014年より広島大学病院 総合内科・総合診療科助教。2016年よりハイズ株式会社で病院経営およびヘルスケアビジネスのコンサルティングに従事。2020年1月より株式会社omniheal/おうちの診療所目黒でCXO・医師として経営参画し、経営戦略、採用・人事、オペレーション構築、マーケティング、財務会計と在宅診療業務を担っている。
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