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加藤 泰朗 2021.4.27
世界の医療DX事情

アフリカの新興国で、先進デジタル医療サービスが百花繚乱

■一段跳びで発展するアフリカのデジタル技術


「リープフロッグ(leapfrog=蛙跳び)」という言葉をご存じだろうか。新興国の技術やサービスが、先進国の経験をなぞりながら段階的に発展するのではなく、蛙が跳ぶように一気に革新的な内容で広まる現象のことである。たとえば、固定電話が普及していない国で、携帯電話やスマートフォンが一気に普及する現象などがそれにあたる。

アフリカの新興国で起こっていることは、まさにこの「リープフロッグ」現象である。2000年代に入ってからの携帯電話の爆発的普及*、インターネット環境の整備を背景に、急速に社会のICT化が進むアフリカでは、金融や物流、医療など、さまざまな分野で、デジタル先進国のものと遜色ないサービスが次々と創出されている。

以下に、医療分野で注目のデジタルサービスをいくつか紹介する。

*アフリカの主要9カ国(エチオピア、ケニア、ナイジェリア、コートジボワール、南アフリカ、エジプト、アルジェリア、チュニジア、モロッコ)で、2018年段階での携帯電話普及率が90%を超えていないのは、88.2%のナイジェリア、59.6%のエチオピアのみである。エチオピアの数値が極端に低いのは、長年にわたって国営企業によりモバイル市場が寡占状態にあったことが背景にある。ただし、エチオピア政府が経済の自由化へと方針を示したことで、2021年には70.9%に達すると見込まれている(総務省HP「世界情報通信事情」より)

■各地で開発されるデジタル医療


西アフリカに位置し、アフリカ最大の人口を有するナイジェリアの医療システム「SORMAS」は、感染症を監視・管理・分析するデジタルプラットフォームである。2014〜15年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際に、ドイツとナイジェリアの公衆衛生機関や研究機関などによって共同で開発された。

SORMASの対象となる感染症は、新型コロナウイルスを含む、20種類(2021年4月20時点)。医療スタッフが疑いのある症例を発見すると、システムに登録。結果が陽性の場合は、接触者などが記録される。情報がすべてSORMASに集約されるため、医療機関や行政機関は、SORMASを利用することで、病気の発生状況を完全かつリアルタイムに把握できる。2019年からはガーナで、2020年からはヨーロッパの6カ国以上(ドイツ、フランス、スイスなど)で利用されている。
感染症を監視・管理・分析するデジタルプラットフォーム「SORMAS

アフリカ東部に位置するケニアのスタートアップ、Damu-Sasa社が提供するのは、医療用血液の管理システムである。緊急時にはほかの病院やドナーから、必要な血液を調達することを支援するほか、スクリーニングや血液製剤の準備、在庫管理、輸血管理をサポートする。

ケニアでは、献血への理解が進まず、慢性的に医療用血液が不足するという課題を抱えていた。Damu-Sasa社のシステムはその課題解決を図るために立ち上げられたシステムだ。70の支援病院と約30,000人のドナーがDamu-Sasa社のシステムに協力しており、これまで32カ国で25,245人の命を救ってきた(2021年4月20時点)。

エジプトの「7keema」は、オンデマンド訪問看護サービスを提供するモバイルアプリである。アプリに提示される、筋肉内注射、静脈内注射、輸液、内服や尿道カテーテル装着・抜去、創傷ケアなど、複数の看護分野から、患者自身が必要なサービスを選ぶと、近くにいる看護師とマッチングしてくれる。ほかにも、子どもの予防接種をサポートするVRゲームや、看護師のトリアージのための人工知能(AI)プラットフォームなどのサービスを備えている。

また、スマートフォンで配達30分圏内の薬局の検索や処方箋薬の自宅配達手配などを行えるアプリ「Chefaa」も、エジプトのスタートアップが手がけるシステムだ。

■海外企業との連携も進む


海外企業との協力も進められている。「アフリカのイノベーションハブ」をめざし、外国からのIT系企業の誘致や自国のスタートアップ育成に力を入れる東アフリカの内陸国ルワンダでは、イギリスのヘルスケアスタートアップであるBabylon Health社が現地法人を立ち上げ、「Babyl」を展開している。

患者はBabylに電話して、トリアージナースを予約、支払いが済むと予約が完了する。予約時間にBabylと提携するトリアージナースから電話があり、デジタルヘルスで治療可能か、アドバイスするための短いカウンセリングが行われる。カウンセリング内容をもとにトリアージナースの判断で、Babyl所属の専門ナースまたは総合診療医によるフォローアップ(電話による問診、処方箋の発行、ラボでの検査)か、治療のために提携医療機関を紹介するか、を決めるしくみだ。

2016年に始まったサービスで、スマートフォンの普及率が15%程度と低いルワンダでは、基本的にはフィーチャーフォンでやりとりが完了するシステムになっている。ただし、近年、ルワンダでもスマートフォンの普及が急速に進んでいるといわれ、それを見越してまもなく、現地の言語や疫学を考慮してルワンダ向けにローカライズされたAI技術を搭載したスマートフォンアプリの提供を開始する予定だという。

日本からも、医療分野でアフリカと連携する動きがある。2020年12月、豊田通商と医療・介護モバイルICTを手がけるアルムは業務提携し、アルムが提供する医療関係者向けコミュニケーションアプリ「Join」を通じて、インドの医師がアフリカの患者を遠隔診療するしくみをつくると発表した。医師らはアプリを通じて、磁気共鳴画像装置(MRI)の写真などの患者データをやりとりし、チャット機能で話し合うという。

アルムの医療関係者向けコミュニケーションアプリ「Join」の画面例(プレスリリースより)

急速なデジタル化が進むアフリカ。今回、取り上げられなかった国々でも、さまざまな先進的なデジタル医療サービスが展開されている。引き続き、その動向に注目していきたい。


「SORMAS」
「Damu-Sasa」
「7keema」
「babyl」
「chefaa」
伊藤亜聖・高崎早和香編著『飛躍するアフリカ!:イノベーションとスタートアップの最新動向』ジェトロ、2020年
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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