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加藤 泰朗 2021.4.19

世界各地で遠隔医療サービスを展開するオムロン、その現状は?

■イギリスで高血圧患者向け遠隔診療サービスを開始


国内外で血圧計や体重体組成計の販売を手がけるオムロン・ヘルスケアは、2021年4月より、イギリスでの高血圧治療における遠隔診療サービス「Hypertension Plus」の提供を開始すると発表した。患者が自宅で計測した血圧値のデータを医師と共有し、高血圧治療に役立てる。

成人の約3割が高血圧症といわれるイギリス。イギリスの医療サービスを提供する国民保健サービス(NHS:National Health Service)は、2030年までに国内の血圧コントロール率を80%にするという目標を掲げている。しかし、最新の数値は60%といわれており、さらなる血圧コントロール率の向上が課題だった。Hypertension Plusはこうした課題に応えるものとして注目されている。

患者はスマートフォンアプリをダウンロードし、毎日朝晩に測定した血圧値をアプリに登録。登録されたデータはオンラインネットワークを介して医師と共有され、医師は電子カルテに紐づけられた管理用画面で、患者の血圧データをくわしく確認する。ひと月ごとに医師は患者に健康状態を尋ねることになっており、日々の血圧値に異常が見られれば、アラートが医師に届く機能を備えているので、患者は自宅で安心して高血圧治療を行える。

Hypertension Plusの特徴は、患者の登録情報や血圧レベルに応じて、3カ月分の投薬プランを医師に提案するプログラムを実装していることである。プログラムは、イギリス・国立医療技術評価機構(NICE)が定める高血圧ガイドラインに準拠し、オックスフォード大学での臨床研究で降圧効果が確認された在宅服薬変更プログラム(TASMINプログラム)を採用している。また、服薬後の血圧値から、薬の変更が必要かを自動で判別し、必要に応じて新たな投薬プランを医師に提案する機能も備わっている。3カ月分の投薬プランや変更の提案はオンラインで完結するため、患者の通院負担軽減にもつながるという。

高血圧治療における遠隔診療サービス「Hypertension Plus」の患者用スマートフォンアプリ画面。(上)1日の血圧治療スケジュール表示画面、(下)投薬プラン画面。

Hypertension Plusは、NHSが運営する地域医療機構CCG(Clinical Commissioning Group)の採用判断にもとづき、各地域の総合診療医✳︎(GP:General Practitioner)へ導入されることになる。今後数カ月間で、150の総合診療医への導入をめざすという。

✳︎国民保健サービス(NHS)では、救急医療を除き、原則、まず総合診療医(GP)の診療を受ける必要がある。その後、必要に応じてより専門性の高い医師やサービス(専門医、理学療法など)が紹介される(外務省HPより)。

■アメリカで展開のサービスが「Best of CES2021」を受賞


オムロン・ヘルスケアは、イギリス以外でも遠隔医療サービスの海外展開を行っている。

アメリカでは2020年6月、ニューヨークのマウントサイナイ病院で、高血圧などの慢性疾患患者向けの遠隔モニタリングシステム「VitalSight」の運用を開始している。

VitalSightは、通信機能付きの血圧計や体重体組成計を使って、患者が自宅で測定したバイタルデータを、病院の医師や医療従事者と共有するシステムである。計測されたバイタルデータは、オンラインネットワークを介して病院の電子カルテと紐づけられるため、医師や医療従事者はいつでも患者のバイタルデータを確認できる。血圧状態の変化を知らせるアラート機能があり、遠隔からでも体調の変化へのタイムリーな介入が可能だ。
高血圧などの慢性疾患患者向けの遠隔モニタリングシステム「VitalSight」

2021年1月に開催された「CES2021」(Engadget主催)では、バイタルデータのオンライン共有や電子カルテ連携の技術と、通院せずに治療を継続し「脳・心血管疾患の発症」の予防に貢献するという社会的課題の解決の観点が評価され、「Best of CES2021(デジタルヘルス&フィットネス部門)」を受賞した。

■シンガポールからアジア全域への拡大をめざす


アジアでは2019年3月に、シンガポールでスポーツ施設の予約・決済システムの開発を手がけるiAPPSと合弁会社を設立し、シンガポール企業向けの従業員向け健康管理サービスプラットフォーム「HeartVoice」を開発・販売している。

HeartVoiceをとおして、オムロンのデバイスで測定した日々のバイタルデータを管理。その数値をもとに遠隔診療につなげたり、健康増進のアドバイスなどをして、従業員の健康意識を高め、高血圧などの生活習慣病の予防や、重症化を防ぐことに役立てる。今後は、そのノウハウを活用し、アジア全域での展開をめざすという。

日本の高血圧患者は約4,300万人、およそ3人に1人が高血圧という状況だと推定されている。高血圧は日本でも解決すべき重要な医療的課題である。Apple Watchなどのスマートウォッチが普及し、日本でも個人でバイタルデータを管理することが当たり前の時代だ。また、新型コロナウイルス感染症拡大を背景に、日本でも遠隔医療が身近になってきている。保険適用などの課題はあるが、日本でも同様のサービスが展開されることを期待する。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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