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2021年のデジタルヘルスのトレンドと未来像とは?【加藤浩晃先生に聞くvol.6】

2021年も3ヶ月が過ぎようとしている。新型コロナウイルス感染症への対策、オンライン資格確認の開始など、デジタルヘルスも大きな動きが見られつつある。
そんななか、この連載でお話をうかがっている、加藤浩晃先生が編著書『デジタルヘルストレンド2021』(メディカ出版)を刊行した。国内の企業やスタートアップ100社が、現在どういったデジタルヘルス事業に取り組んでいるのかがわかる、データベースとなる一冊だ。
加藤浩晃・編著『デジタルヘルストレンド2021』(メディカ出版)
今回は、本書の内容をもとに、今年、そして近未来のデジタルヘルスの動向について、加藤先生にお話をいただく。
──加藤先生がこの本を作られたきっかけをお教えいただけますか?
加藤:大きくはふたつあります。ひとつは以前、刊行した『医療4.0』がいまだに読まれていること。ただこの本が発売されたのは2018年で、その年の2月から3月ごろなのでちょうど3年くらい前の情報なんです。実際の状況は日進月歩で進んでいますので、最新情報をまとめておきたいと思いました。
もうひとつは、昨年の9月にガードナー社の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」が発表されました。これはアメリカのガードナーという調査会社によって発表される、特定の技術の成熟度、社会への適応度合いなどを示す図のことです。
ガードナー「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」より引用
──ガードナー社の説明を要約すると、ある技術が発見されて関心が高まる「黎明期」、その技術への期待が最も高まる「『過度な期待』のピーク期」、その過度な期待と現実とのギャップから世間の関心が失われていく「幻滅期」を経て、そこで残って地道に発展した技術が、その利点と適用方法を世間に啓蒙していく「啓発期」、最終的に生産性が安定する「安定期」に到達する……というものです。
加藤:そのサイクルによると、「デジタル・ヘルス」は幻滅期の終わりにさしかかっている。つまり、ここからデジタルヘルスの技術は成熟していく期間になり、社会に適合していく時代に突入していくことになるわけです。
そういったなかで、私も『医療4.0』を執筆した時期には、日本で行われていた取り組みをほぼ認識していたんですが、3年経って、大企業やベンチャーなどたくさんの企業での取り組みが増大している。それをデータベースとして取り上げる本を作りたいと考えたんです。
私は、医療現場を知っている人間が、デジタルヘルスにどんどん参入していくべきだと考えています。医療者がベンチャーをやるのもいいですし、既存の企業と協力してサービスを作り出してもいいですし……。
──デジタルヘルスの領域に、現場の問題をフィードバックさせることで、DX化が進んでいくわけですね。
加藤:そのうえで、というところになるんですが、私自身も、新規事業のご相談を受けることが増えてきました。ですが、そのなかには既存のサービスと同じようなものも多く見受けられるんです。そこに違いを見つけられるのであれば良いのですが、まったく同じような目的のものも多いんですね。
──発案した側としては「大発見だ!」と思っていても、実際は他社でもう開発が進んでいたりして、独自性のあるものではない、と。
加藤:そうです。こういった既存のデジタルヘルス事業をまとめたデータベースがないからではないか、と思ったんです。データもどんどん変わっていくので、情報を補強して、2028〜2030年あたりまで、毎年に出していきたいと思っています。
ともあれ、本書を読んでいただくことで、今後の事業を考える一助となれば、幸いですね。
──本書のなかで加藤先生は、2021年のデジタルヘルスのトレンドについて、以下の7つをポイントに挙げられていますね。
① オンライン診療の領域拡大
② 治療用アプリの増加とマネタイズ
③ PHRの再興
④ AI医療機器:画像診断からAI診断へ
⑤ バーチャル治験の普及
⑥ 薬局のDX
⑦ ウェアラブルデバイスの多様化
加藤:①のオンライン診療の領域拡大は、今年6月にオンライン診療の恒久化に関する議論の取りまとめが行われます(過去の記事を参照)。それによって、秋には指針が改定され、2022年の診療報酬改定に向けた議論が始まっていくことになります。
これと、前回の連載でお話しした③のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の再興──この3月からオンライン資格確認が始まって、秋には処方歴などもマイナンバーカードに紐付くかたちになります。こうしたことから、私は来年、2022年からデジタルヘルスが本格化していくと考えています。
──②の治療用アプリに関しては、昨年「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が国内で初めて保険適用されました。
加藤:治療用アプリは、さまざまな企業で開発がされつつあり、治験がはじまっているものもあります。また、たとえば管理栄養士監修のレシピ・献立アプリを提供する株式会社おいしい健康も糖尿病の食事療法支援アプリの治験をはじめた、という報道もされています。
健康の管理や記録を行うアプリを開発していた企業も、より効果を出すために並行して治療アプリに参画する、というケースが増えてくるのではないかと思いますね。
──④のAI医療機器に関しては。
加藤:これまではAIの活用は、画像認識に関するものが多かったと思うんですが、問診・診断支援系などへの活用も今後は増えていくだろうと思います。
⑤のバーチャル治験については、オンライン診療の文脈ともつながってきます。オンライン診療では、通話画面だけではなく、患者の自宅にバイタル計測機器を持っていくなり、すでにあるデバイスを使うなりして、データを取りながら診療をする、という形へ発展していこうとしてきています。それを治験の分野で活かせばバーチャル治験になると思います。
治験、つまり薬の臨床試験はこれまで、医師が病院で検査をして、データをとって診察をしていたわけです。これが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による通院控えや、またオンライン診療の普及に伴って、オンラインによるバーチャル治験が拡大していくだろう、ということですね。
──メリットとしてはどういったところがあるんでしょうか。
加藤:被験者が医療機関に行かなくてもよく、広範囲に参加できることです。また、通院のハードルがなくなることで脱落者も減り、参加者の健康状態をリアルタイムで確認できること。これらは治験のコストダウンにもつながります。
いっぽう、⑥の薬局のDXに関しては、早期に進んでいくのではないかと見ています。
──それはなぜでしょう。
加藤:ほかの業界のDX化とともに薬局も、医療機関もDXが進んでいくはずですが、医療機関は個人、もしくは医療法人での小規模な経営が多く、動きが少し鈍いのではないかと思っています。薬局は株式会社での経営が認められているので、資本の原理も働きます。大規模なチェーンもありますし、転換をしやすく、医療機関よりも先に薬局のほうがDXが進むと考えています。
──それが、デジタル化を早める要因であるということですね。
加藤:⑦のウェアラブルデバイスの多様化については、Apple Watchアプリの医療機器承認が大きくて、ヘルスケアデータをとるデバイスが医療機器になっていくという流れであったり、アボットジャパン株式会社による「FreeStyleリブレ」であったり……。
──コイン大の針付きセンサーを腕に刺すことで、場所時間を問わずにグルコースをモニタリングできるシステムですね。
加藤:ええ。いわゆる侵襲型というものですが、これはいずれ、Apple Watchなどのリストバンド型や眼鏡型など、非侵襲型へ流れが向かって行くでしょう。形態も、機能もどんどん多様化していく局面になっていきます。
──加藤先生はこうしたことを踏まえて、2025年ごろ、そして2028〜2030年ごろの2回、大きな変化があるだろう、と書かれています。
加藤:これはですね、最初にお話しした、ガードナーのハイプサイクルを思い起こしていただきたいのですが……それをもとに私が描いているのが、そうした未来像なんです。
加藤浩晃・編著『デジタルヘルストレンド2021』(メディカ出版)より引用
加藤:昨年来のコロナ禍で、みなさん、大きく価値観が変わられたと思うんです。そしてオンライン資格確認の整備によって、この秋以降、デジタル化は大きく進むだろうと思います。そして、その山が2025年ごろにピークを迎えるだろうと。
いったんその期待度と現実の狭間によって、幻滅期が入るだろうと予測しています。
──そこで、2028年くらいから「回復期」に入るということですが……。
加藤:この根拠は、医師に対して、2024年まで猶予を与えられてきた「働き方改革関連法」が適用されることにあります。時間外労働の上限規制が行われることによって、医療機関での勤務をしない時間を使って、医師が起業したり、企業との事業開発に関わったりしていくだろうと。私は、医師がヘルスケア事業に現場の知見を提供する「医師30万人総事業開発時代」がやってくると考えています。
そしてそのころには、患者さんがIoTデバイスやAI問診をはじめとするデジタルのアプローチで医療と接点を持ち、医師が判断・説明をし、その後もデジタルでフォローをする、という「DDD(Digital-Doctor-Digital)モデル」が当然の時代になっているのではないか、と思っています。
そんななか、この連載でお話をうかがっている、加藤浩晃先生が編著書『デジタルヘルストレンド2021』(メディカ出版)を刊行した。国内の企業やスタートアップ100社が、現在どういったデジタルヘルス事業に取り組んでいるのかがわかる、データベースとなる一冊だ。

今回は、本書の内容をもとに、今年、そして近未来のデジタルヘルスの動向について、加藤先生にお話をいただく。
デジタルヘルスのハイプサイクル
──加藤先生がこの本を作られたきっかけをお教えいただけますか?
加藤:大きくはふたつあります。ひとつは以前、刊行した『医療4.0』がいまだに読まれていること。ただこの本が発売されたのは2018年で、その年の2月から3月ごろなのでちょうど3年くらい前の情報なんです。実際の状況は日進月歩で進んでいますので、最新情報をまとめておきたいと思いました。
もうひとつは、昨年の9月にガードナー社の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」が発表されました。これはアメリカのガードナーという調査会社によって発表される、特定の技術の成熟度、社会への適応度合いなどを示す図のことです。

──ガードナー社の説明を要約すると、ある技術が発見されて関心が高まる「黎明期」、その技術への期待が最も高まる「『過度な期待』のピーク期」、その過度な期待と現実とのギャップから世間の関心が失われていく「幻滅期」を経て、そこで残って地道に発展した技術が、その利点と適用方法を世間に啓蒙していく「啓発期」、最終的に生産性が安定する「安定期」に到達する……というものです。
加藤:そのサイクルによると、「デジタル・ヘルス」は幻滅期の終わりにさしかかっている。つまり、ここからデジタルヘルスの技術は成熟していく期間になり、社会に適合していく時代に突入していくことになるわけです。
そういったなかで、私も『医療4.0』を執筆した時期には、日本で行われていた取り組みをほぼ認識していたんですが、3年経って、大企業やベンチャーなどたくさんの企業での取り組みが増大している。それをデータベースとして取り上げる本を作りたいと考えたんです。
私は、医療現場を知っている人間が、デジタルヘルスにどんどん参入していくべきだと考えています。医療者がベンチャーをやるのもいいですし、既存の企業と協力してサービスを作り出してもいいですし……。
──デジタルヘルスの領域に、現場の問題をフィードバックさせることで、DX化が進んでいくわけですね。
加藤:そのうえで、というところになるんですが、私自身も、新規事業のご相談を受けることが増えてきました。ですが、そのなかには既存のサービスと同じようなものも多く見受けられるんです。そこに違いを見つけられるのであれば良いのですが、まったく同じような目的のものも多いんですね。
──発案した側としては「大発見だ!」と思っていても、実際は他社でもう開発が進んでいたりして、独自性のあるものではない、と。
加藤:そうです。こういった既存のデジタルヘルス事業をまとめたデータベースがないからではないか、と思ったんです。データもどんどん変わっていくので、情報を補強して、2028〜2030年あたりまで、毎年に出していきたいと思っています。
ともあれ、本書を読んでいただくことで、今後の事業を考える一助となれば、幸いですね。
2021年、デジタルヘルスのトレンド動向
──本書のなかで加藤先生は、2021年のデジタルヘルスのトレンドについて、以下の7つをポイントに挙げられていますね。
① オンライン診療の領域拡大
② 治療用アプリの増加とマネタイズ
③ PHRの再興
④ AI医療機器:画像診断からAI診断へ
⑤ バーチャル治験の普及
⑥ 薬局のDX
⑦ ウェアラブルデバイスの多様化
加藤:①のオンライン診療の領域拡大は、今年6月にオンライン診療の恒久化に関する議論の取りまとめが行われます(過去の記事を参照)。それによって、秋には指針が改定され、2022年の診療報酬改定に向けた議論が始まっていくことになります。
これと、前回の連載でお話しした③のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の再興──この3月からオンライン資格確認が始まって、秋には処方歴などもマイナンバーカードに紐付くかたちになります。こうしたことから、私は来年、2022年からデジタルヘルスが本格化していくと考えています。
──②の治療用アプリに関しては、昨年「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が国内で初めて保険適用されました。
加藤:治療用アプリは、さまざまな企業で開発がされつつあり、治験がはじまっているものもあります。また、たとえば管理栄養士監修のレシピ・献立アプリを提供する株式会社おいしい健康も糖尿病の食事療法支援アプリの治験をはじめた、という報道もされています。
健康の管理や記録を行うアプリを開発していた企業も、より効果を出すために並行して治療アプリに参画する、というケースが増えてくるのではないかと思いますね。
──④のAI医療機器に関しては。
加藤:これまではAIの活用は、画像認識に関するものが多かったと思うんですが、問診・診断支援系などへの活用も今後は増えていくだろうと思います。
⑤のバーチャル治験については、オンライン診療の文脈ともつながってきます。オンライン診療では、通話画面だけではなく、患者の自宅にバイタル計測機器を持っていくなり、すでにあるデバイスを使うなりして、データを取りながら診療をする、という形へ発展していこうとしてきています。それを治験の分野で活かせばバーチャル治験になると思います。
治験、つまり薬の臨床試験はこれまで、医師が病院で検査をして、データをとって診察をしていたわけです。これが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による通院控えや、またオンライン診療の普及に伴って、オンラインによるバーチャル治験が拡大していくだろう、ということですね。
──メリットとしてはどういったところがあるんでしょうか。
加藤:被験者が医療機関に行かなくてもよく、広範囲に参加できることです。また、通院のハードルがなくなることで脱落者も減り、参加者の健康状態をリアルタイムで確認できること。これらは治験のコストダウンにもつながります。
いっぽう、⑥の薬局のDXに関しては、早期に進んでいくのではないかと見ています。
──それはなぜでしょう。
加藤:ほかの業界のDX化とともに薬局も、医療機関もDXが進んでいくはずですが、医療機関は個人、もしくは医療法人での小規模な経営が多く、動きが少し鈍いのではないかと思っています。薬局は株式会社での経営が認められているので、資本の原理も働きます。大規模なチェーンもありますし、転換をしやすく、医療機関よりも先に薬局のほうがDXが進むと考えています。
──それが、デジタル化を早める要因であるということですね。
加藤:⑦のウェアラブルデバイスの多様化については、Apple Watchアプリの医療機器承認が大きくて、ヘルスケアデータをとるデバイスが医療機器になっていくという流れであったり、アボットジャパン株式会社による「FreeStyleリブレ」であったり……。
──コイン大の針付きセンサーを腕に刺すことで、場所時間を問わずにグルコースをモニタリングできるシステムですね。
加藤:ええ。いわゆる侵襲型というものですが、これはいずれ、Apple Watchなどのリストバンド型や眼鏡型など、非侵襲型へ流れが向かって行くでしょう。形態も、機能もどんどん多様化していく局面になっていきます。
デジタルヘルスの近未来モデルとは
──加藤先生はこうしたことを踏まえて、2025年ごろ、そして2028〜2030年ごろの2回、大きな変化があるだろう、と書かれています。
加藤:これはですね、最初にお話しした、ガードナーのハイプサイクルを思い起こしていただきたいのですが……それをもとに私が描いているのが、そうした未来像なんです。

加藤:昨年来のコロナ禍で、みなさん、大きく価値観が変わられたと思うんです。そしてオンライン資格確認の整備によって、この秋以降、デジタル化は大きく進むだろうと思います。そして、その山が2025年ごろにピークを迎えるだろうと。
いったんその期待度と現実の狭間によって、幻滅期が入るだろうと予測しています。
──そこで、2028年くらいから「回復期」に入るということですが……。
加藤:この根拠は、医師に対して、2024年まで猶予を与えられてきた「働き方改革関連法」が適用されることにあります。時間外労働の上限規制が行われることによって、医療機関での勤務をしない時間を使って、医師が起業したり、企業との事業開発に関わったりしていくだろうと。私は、医師がヘルスケア事業に現場の知見を提供する「医師30万人総事業開発時代」がやってくると考えています。
そしてそのころには、患者さんがIoTデバイスやAI問診をはじめとするデジタルのアプローチで医療と接点を持ち、医師が判断・説明をし、その後もデジタルでフォローをする、という「DDD(Digital-Doctor-Digital)モデル」が当然の時代になっているのではないか、と思っています。
WRITTEN by
加藤浩晃先生に聞くデジタルヘルスの現在地
- 2021年のデジタルヘルスのトレンドと未来像とは?【加藤浩晃先生に聞くvol.6】
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