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加藤 泰朗 2021.2.10

地域医療DXを見据えて「AI受診相談ユビー」を活用し新型コロナ対策に取り組む海老名市【インタビュー】

2020年12月9日、神奈川県海老名市は、Ubie株式会社の「AI受診相談ユビー」を活用した新型コロナウイルス対策を開始した。Ubie社は、日本のAI問診システムを牽引するヘルステック・スタートアップ。Ubie社のシステムと連携した新型コロナウイルス感染症対策を行う自治体は、海老名市が初めてのことである。
Ubie社の「AI受診相談ユビー」

そこで今回、システム導入までの経緯から、実際の運用、そして将来的な展望までを、海老名市保健福祉部・健康推進課の課長・安宅道善氏、主事の三橋一輝氏、Ubie社パブリック・パートナーの重藤祐貴氏にうかがった。

*以下、本文中、敬称を省略いたしました。

自治体主導の、攻めの新型コロナウイルス対策


──はじめに、今回の提携について、概要を教えてください。

安宅:2020年4月30日より、新型コロナウイルス感染症に関するコールセンターを開設し、海老名市医師会と協力して、市民からの相談に対応したり、医療機関につなげたりといった業務を進めてきました。今回、Ubie社のシステム「AI受診相談ユビー」と連携したのは、コールセンターへの連絡の部分です。

「AI受診相談ユビー」には、新型コロナウイルス感染症の疑いがある場合、厚生労働省や、居住地の都道府県にある新型コロナウイルス感染症コールセンターへ案内するサービスがあります。今回の連携では、海老名市のホームページに掲載したQRコードから「AI受診相談ユビー」を利用すると、新型コロナウイルス感染症に罹患しているおそれがある場合に、海老名市のコールセンターへ案内されるという仕様になっています。

──海老名市独自のコールセンターが設置されているのですね?

三橋:新型コロナウイルスのような感染症対策は、通常、都道府県業務です。市町村でそれを行うのは政令都市と保健所設置市で、海老名市は保健所設置市ではなく近隣の7市町村は、厚木保健福祉事務所の管内に所属しています。

ただ、そのままの状況では、市としてできることがすごく限られます。ですから、市独自でコールセンターを開設し、市民の声を聞いて、直接医療機関につなげる仕組みをつくりました。同じような市で、新型コロナウイルス感染症に係るコールセンターを独自に設置しているところはあまりなく、珍しいことだと思います。

安宅:県や保健所設置市でなくても、できることはたくさんあると考えています。神奈川県は新型コロナウイルスの感染拡大が続き、県や保健所の業務が逼迫しています。現在も、市におろせるものはおろしてほしい、と県に投げかけています。

海老名市保健福祉部・健康推進課の課長・安宅道善氏(写真右)、主事の三橋一輝氏(同左)

山積する課題を解決するサービスとして導入


──Ubie社との連携のきっかけは何だったのでしょうか?

安宅:今回のサービス提供は、海老名市と、海老名市医師会、海老名総合病院そして、Ubie社の4者による連携で実現したものです。海老名総合病院は、海老名市にある民間病院で、海老名市の中核となる医療機関です。

新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザとの同時流行にどう対応するか、新型コロナウイルスへの感染を恐れて受診を控える生活者をどう適切に医療とつなげるか、など、様々な課題を抱えていました。同時にそれらの課題に対応する人的リソースを確保することも急務でした。

このときに注目したのが、海老名総合病院が導入していたUbie社のシステム「AI問診ユビー」の「COVID-19トリアージ支援システム」です。このシステムをベースにしたサービスの開発・提供ができないか、海老名市、海老名市医師会、Ubie社、海老名総合病院の4者での検討を開始しました。

──サービス開始まで、どのくらい検討されたのでしょうか?

重藤:導入までの期間は、2カ月くらいです。10月くらいから話し合いを始め、12月9日にはサービスの提供を開始しています。

──サービス提供にあたり特に気を配ったことはありますか?

安宅:Ubie社のシステムでヒアリングした症状を、どこまで海老名市のコールセンターにつなげるか、普通の診療相談をコールセンターにつないでも対応できるか、などを話し合いました。コールセンターはあくまでも新型コロナウイルス感染症に関する相談センターという位置付けでしたので。最終的には、新型コロナウイルス感染症の疑いが出た場合だけ、コールセンターにつなぐというシステムにしました。

重藤:システム開発の立場からは、汎用的な価値をもつサービスをいかに提供するか、ということを意識しました。こうした連携でよくあるケースに、システムをカスタマイズしすぎて、形だけの使いづらいものになる、ということがあります。その地域では使えるけど、別の地域では使えない、オペレーションが変わると使えない、というシステムになりがちです。

今回の連携目的は、新型コロナウイルス感染症対策のみならず、地域医療のデジタル化という側面もあります。地域に汎用的な価値をもつサービスを提供することが、地域医療のDXでは大事だと考えています。

その点を意識しながら、連携したみなさまとしっかりコミュニケーションをとって、システム構築を進めてきました。

海老名市民がAI受診相談システムを利用する場合の流れ

動かしながら微調整を行い、システムをより良いものに改善


──システム稼働して、反響はいかがでしょうか?

重藤:Ubie側で把握している数字では、開始から累計で約4000回の利用がありました(2021年1月25日時点)。海老名市の人口は約13万人なので、単純計算だと、30人に1人が使っています。「AI受診相談ユビー」の利用者は、全国で月間60万人くらいです。そのため、ひとつの地域として捉えると利用者は多く、海老名市役所による普及活動の影響が大きいと考えています。

三橋:ホームページでの告知とあわせて、紙面での案内をしています。海老名市では毎月2回広報紙「広報えびな」を発行していますが、そのなかで今回のAIを活用したサービスを紹介しています。

あと、NHKの情報番組(『あさイチ』2021年1月14日放送)に取り上げられたことも大きかったですね。けっこう反響がありました。「どうやって使うのですか」という問い合わせが、市にたくさん寄せられたと聞いています。

──サービス開始後にシステムに変更した点はありましたか?

安宅:最初は「発熱」をキーワードに新型コロナウイルス感染症の関連性を表示していました。ただ、そのほかにもいろいろな症状もあると考え、疑わしいも症状はすべて新型コロナウイルス感染症の疑いに結びつけられるよう、サービス開始後に調整しました。

重藤:システム上は特に変更はありません。ただ、運営後すぐに年末年始となり、海老名市のコールセンターが休みになるタイミングがありました。具体的にどのくらい休みになるのか、その間はどこに連絡すればいいのか、などの情報については細かいアップデートは行いました。

アフターコロナの地域医療のデジタル化へ


──最後に、コロナ後のサービス活用のイメージをお聞かせください。

安宅:いま開設しているコールセンターは、新型コロナウイルス感染症に特化したものですが、コロナ収束後には、通常の医療支援にも活用できると考えています。ここから先は、海老名市医師会や病院、クリニックのさらなる協力が必要です。

たとえば現在は、医療機関については、連絡先を表示することを了解いただけていますが、海老名市のサービスで得られた問診情報を医療機関で共有・利用できるようになれば、地域医療サービスとして、より利便性が向上すると思います。医療機関にとっても生活者にとっても負担が軽減することにもつながりますので、各医療機関が、もう一歩踏み込んでいただくことが、鍵になると思っています。

Ubie社パブリック・パートナーの重藤祐貴氏

重藤:弊社としては、医療機関とのさらなるシームレスな連携を提供していきたいと考えています。具体的に進めていることでは、「AI受診相談ユビー」で得られた情報を、地域のかかりつけ医と共有するシステムを開発しています。

これにはいろいろな方法が考えられます。たとえば、システムを導入している病院・クリニックには、データで直接送るという方法があります。これは海老名総合病院・海老名メディカルプラザと「おうち診療ぷろじぇくと」として既に取り組んでいます。

一方で、大半は弊社のシステムを導入していないクリニック、病院です。電子カルテも入っていないというケースも少なくありません。こうした病院・クリニックでは導入までに時間がかかってしまうため、検討段階ですが、ファクスで情報を送るというアイデアがあります。

海老名市も含め、いまある現状に添ったかたちで地域医療のDXに貢献していきたいと考えています。
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今後、このような自治体による民間のICTサービス活用が医療・健康分野でも増えてくると考えられる。とくに新型コロナ関連では、予防接種にかかわる諸業務をサポートするシステムの提供なども話題となっている。本メディアでもひきつづき、地域医療のDXのトピックスを追っていきたい。


●海老名市ホームページ「『AI受診相談システム』を活用して適切な受診行動を!」
https://www.city.ebina.kanagawa.jp/guide/kenko/dukuri/1011727.html

●Ubie社「AI受診相談ユビー」
https://ubie.app/
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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