創薬
加藤 泰朗 2022.3.8

欧米を中心に進むAI創薬の現在地

■急成長が期待されるAI創薬


創薬とは、文字どおり、「薬を創る」こと。疾患と関連の高い物質の探索から、そのはたらきを制御する化合物の設計・スクリーニング、動物などを用いた非臨床試験、実際に人間に投与して効果を確認する臨床試験(治験)までの、一連のプロセスをさす言葉だ。

AI創薬とは、そのプロセスのさまざまなフェーズにAIを活用して、効率的に薬を創る方法のことである。

米国の市場調査会社Report Oceanが2021年8月に発行したレポートによると、世界の創薬におけるAI市場は、2020年に約3億6,467万米ドルに達し、2021年から2027年までのあいだ、年平均成長率(CAGR)40.80%で成長すると予想されている。

■世界のAI創薬最前線


急速に市場が拡大するAI創薬の領域をリードするのは、欧米を中心とした製薬会社や医療テックだ。

スイスの製薬大手ノバルティスは、早くも2019年から、マイクロソフトと共同で「ノバルティスAIイノベーションラボ」を設立。ターゲット物質の探索や化合物のデザイン、スクリーニングの過程にAIを活用することで、時間とコストのかかる創薬のプロセスの効率化を進めている。

AI創薬で世界をリードする英国エクセンティアは、人(研究者)の長所とAIの長所とをあわせて創薬をおこなうAIプラットフォーム(Centaur BiologistとCentaur Chemist)を確立。2021年時点で、すでに3つの新薬候補を開発し、臨床試験(治験)を開始している。そのうちのひとつの新薬、DSP-1181は「強迫性障害」の治療薬候補。新薬候補の化合物のデザイン・スクリーニングにAIを活用し、業界平均で4年半が必要とされる探索研究をわずか12カ月未満で終えたという。

エクセンティアは2020年1月、大日本住友製薬と共同で、DSP-1181の日本での治験を開始すると発表した。2022年1月にはフランスの製薬企業サノフィと戦略的研究協力関係を構築。今後エクセンティアのAIプラットフォームを活用し、がん・免疫領域において、最大15種類の新規低分子化合物候補に焦点を当てた研究をおこなう。

米国では、インシリコ・メディシンが2021年11月、同社の開発したAI創薬プラットフォーム「pharma.AI」で進行性慢性肺疾患の「特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)」の新薬候補の治験をオーストラリアで開始したことは、本サイトで以前報じたとおり。

同じく2021年11月には、グーグルの親会社アルファベットが、"AIファースト"を旗印に、創薬プロセス全体をイチから見直す新会社Isomorphic Labsを設立。同じく傘下のテック企業ディープマインドが開発した「AlphaFold2」の知見を引き継ぎ、AIを活用した創薬を加速し、最終的には人類にとってもっとも悲惨な病気の治療法を見つけることをめざす、と発表した。ディープマインドは囲碁AI「AlphaGo」を開発した企業、AlphaFold2は創薬にとって重要なたんぱく質の立体構造予測に成功したニューラルネットワークだ。

治験のフェーズでAIを活用するのが、米国ニューヨークに本拠を置くメディデータだ。薬剤の治験(プラセボ対照試験)では、治療群とプラセボ(偽薬)を投与する対照群が必要になる。メディデータが提供する技術「Synthetic Control Arm」は、AIマッチングアルゴリズムで約700万人からなる患者データから臨床研究の要件を満たす対照群を構築。対照群を募集する必要がなく、治験の期間短縮やコスト削減につながる。

■AIを活用するアステラス製薬のDX


日本でもAIを創薬に積極的に活用する動きが始まっている。

2022年1月21日、アステラス製薬は、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みをメディアに公表。創薬のDXに関して「超大規模バーチャルスクリーニング」「医薬品創製プラットフォーム」「細胞創薬のプラットフォームMahol-A-Ba」の3つを紹介した。

超大規模バーチャルスクリーニングでは、クラウドとAWSの基盤コンピュータリソース、そして、結合しやすさのシミュレーションをおこなう機械学習を組み合わせて、一度に数億レベルの化合物を評価し、標的分子に結合しやすい化合物(ヒット化合物)を探索。検証中だが、これまで計算に1〜2年かかったところを、最短1〜2週間で結論を出せることを実証した。

医薬品創製プラットフォームは、人とAIとロボット、それぞれの得意な領域を組み合わせてヒット化合物から医薬品候補化合物を導き出すしくみ。これまで約2年かかっていたヒット化合物から医薬品候補化合物の取得までの期間を、最短半年に縮めた。

Mahol-A-Baは、細胞操作、細胞培養をおこなうロボット「まほろ」と、細胞アッセイ(細胞検体の活性や反応を評価・測定すること)をおこなうロボットと、AIを組み合わせた世界に類のない細胞創薬プラットフォームだ。

日本は、世界で有数の創薬国だが、一方で、新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンの開発では後れをとっている感が否めない。厚生労働省は2021年9月、「医薬品産業ビジョン 2021」を策定。そのなかで、医薬品産業は知識・技術集約型産業であり、イノベーションの激しい潮流に一度乗り遅れるとキャッチアップは困難だとの認識を示した。今後の日本の医療向上と医薬品産業の発展のためにも、AI創薬は欠かせない技術となっている。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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