創薬
Medical DX編集部 2020.7.24

開発期間も開発コストも激変!? AIによる新薬開発

厚生労働省が「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で挙げている重点領域のひとつに「医薬品開発」がある。

新薬を開発するためには、無数の化合物のなかから特定の病気に効く物質を見つける必要があるが、これまでは候補とされる化合物の組み合わせをしらみつぶしに試しながら探していくというような方法だった。しかも、効果がありそうな化合物の組み合わせを発見したとしても、細胞や動物で薬効や毒性を調べる段階で結果が出ないことも多々あるというのが実情だ。

そうした状況を反映してか、厚生労働省が2018年に発表した「医薬品作業の現状と課題」という資料では、医薬品の開発には10年以上の時間が必要とされていること、成功確率はおよそ2万5000分の1程度であること、そして研究開発には数百億~数千億円規模の費用が必要とされていることが明記されている。

医薬品の研究開発に要する期間と費用(引用元:厚生労働省「医薬品産業の現状と課題」

この課題を解決するものとして、近年、AIによる「医薬品開発」が期待されているのだ。

■薬に使えそうな物質をAIが提案!


新薬開発は基本的に、候補である化合物を設計して化学合成する創薬研究と、細胞や動物で薬の効果や毒性を調べる開発研究、ヒトへの有効性を調べる臨床試験、そして厚生労働省への承認申請という4段階に分かれる。

このうちの前半部分である創薬研究と開発研究にAIを導入することができれば、開発期間を大幅にスピードアップでき、その結果、開発コストも大幅に下げることができる。

たとえば、京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授が開発したAI(相互作用マシンラーニング法)は、病気の原因となるタンパク質と化合物の「結合するペア」と「結合しないペア」を約12万通りずつ、過去の実験データをもとにディープラーニングで学習しているもので、どんなタンパク質にどんな化合物が結合するのかという傾向を把握している。

そのため、治療したい病気の原因となるタンパク質を入力すれば、それに結合する化合物の構造を、たとえそれが既存の化合物でなかったとしてもAIが提案してくれるという。

■AIを利用した医薬品開発の活発化


Shutterstock

こうしたAIを活用した「医薬品開発」の動きが活発化している。

上記の奥野恭史教授が代表を務めるライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)は、京都大学をはじめ、理化学研究所や武田薬品工業株式会社、田辺三菱製薬株式会社、富士通株式会社、富士フイルム株式会社、シスメックス株式会社など、約100以上の機関や企業で構成されており、薬の標的となる分子の探索や化合物の改良などを支援するAIを約30種類開発するという。

東京工業大学は、AIで病気にかかわる分子と強く結合する化合物を探す技術を開発。抗がん剤の効き目などに関係する既知の標的分子と、約4万種類の化合物の結合力をAIが学習しており、未知の化合物との結合力についても高精度で予測できるという。

製薬会社では、アステラス製薬株式会社が、がんなどを治療する抗体医薬の薬効にかかわる性質を、抗体をつくる前にAIが予測する技術を開発した。またエーザイ株式会社は、新たに設計した低分子化合物の薬効を調べる実験をAIで迅速化させたという。

このほかにも、塩野義製薬株式会社や旭化成ファーマ株式会社がIT企業の株式会社ディー・エヌ・エーと共同でAIを活用した創薬手法を研究したり、田辺三菱製薬が日立製作所とAIを活用した臨床試験を効率化するプロジェクトを推進したりと、さまざまな研究や開発が実施されている。

■AIやビッグデータを駆使した医薬品開発が描く未来


こうしたAIを活用した「医薬品開発」が進めば、現在はまだ治療薬が存在しない病気の患者を救えるような未来を迎えることもできるかもしれない。

たとえば、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような、遺伝子や神経に異常がある疾患など、現代の医療では難病とされている病気の医薬品開発にもAIを活用する動きがある。

国立研究開発法人医療基盤・健康・栄養研究所では、日本独自の100万人分にもなる難病患者のビッグデータに着目したうえで、医師の診療記録やポータルサイト上の論文など、さまざまな臨床情報をAIによってすべて分析し、難病創薬につなげていくアプローチを提案している。

まだまだスタートラインに立っただけかもしれないが、AIやビッグデータを駆使した「医薬品開発」には大きな可能性が眠っているといえる。


ライフ インテリジェンス コンソーシアム(Life Intelligence Consortium;LINC)
https://linc-ai.jp/
国立研究開発法人医療基盤・健康・栄養研究所「人工知能の難病医療への実装」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000154207.pdf
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