創薬
加藤 泰朗 2021.6.22
日本の医療AI最前線

進む創薬へのAI活用。企業の垣根を超えた連携の動きも!

■時間とコストがかかる創薬


AI技術の医活用で、国内外を問わず注目を集める創薬事業。日本でも、厚生労働省の進める「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」で重点6領域のひとつとして、医薬品開発があげられている。

創薬の基本は「トライ&エラー」である。無数に存在する「病気の原因に有効な化合物」を想定し、実験と試験で効果を検証するという流れを繰り返して、はじめて新薬が開発される。

研究・開発期間が10年以上、開発コストが数千億円を超えることもざらにある一方、新薬が見つかる確率は約3万分の1ともいわれる。つまり、膨大な時間とコストは、ほぼ「失敗(エラー)」に費やされていることになる。AI創薬とは、創薬の工程にAIを活用して効率化することで、この「膨大にかかる時間とコスト」を削減するものである。

以下では、国内の注目企業におけるAI創薬への取り組みをいくつか紹介する。

■20年以上の実績をもつ免疫療法研究にAIを活用


NECは2019年5月、ヘルスケア事業強化の一環として、AI技術を活用して、がんなどの先進的免疫治療法に特化した創薬事業に本格参入することを表明した。NECは、がん細胞を攻撃する治療法「免疫療法」の確立をめざし、20年以上も前から研究を続けてきた実績をもつ。

同月、AIを活用した創薬事業の第1弾として、フランスに本社をもつバイオテクノロジー企業、Transgene SAと共同で頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアンチゲン*ワクチンの臨床試験(治験)を日本企業で初めて開始。2020年5月には、個別化がんワクチンTG4050に使用しているネオアンチゲン予測システムが、多数の抗原候補から免疫反応を引き起こす有望な抗原を特定できることを予備試験で実証したと発表した。

AI技術を用いてがん患者さん1人ひとりのネオアンチゲンを予測し、個別化がん免疫療法のワクチン開発を行う(出典:NEC AI創薬事業)

2021年3月には、精密がん医療を推進するためのノルウェーのコンソーシアム、「the Norwegian Precision Cancer Medicine Implementation Consortium (CONNECT)」への参画を発表し、AIを活用した個別化がん免疫療法の活動を強化・加速させている。

*がんによる遺伝子変異で生じる変異ペプチドで、患者の免疫反応を強く誘導する。ネオアンチゲンは患者ごとに種類が異なるため、免疫療法では、それを迅速に見つけてワクチンをつくることがカギとなる。

■AIベンチャーとの協業が進む大手製薬会社


大手製薬会社の中外製薬は、2020年5月に創薬支援AIシステムの利用についてAIベンチャーのFRONTEOとライセンス契約を締結した。FRONTEOが開発した自然言語解析AI「Concept Encoder」を用いた論文探索AIシステム「Amanogaw」と、疾病に関係するさまざまな分子や遺伝子などの情報を解析してパスウェイマップ(遺伝子やタンパク質の相互作用を表した経路図)状に表現するシステム「Cascade Eye」を、中外製薬の創薬プロセスに活用することで、新薬開発期間の短縮、成功確率の向上、プロセス全体の効率化を図っている。

第一三共は2019年5月より、AIを利活用するサービス開発を行うベンチャーのエクサウィザーズと共同で、低分子領域におけるデータ駆動型創薬の実現へ向けた開発プロジェクトを開始している。データ駆動型創薬とは、医療・創薬分野のビッグデータを用いて創薬工程の高度化・効率化を図るもの。プロジェクトには、エクサウィザーズの創薬知識をもつエンジニアと第一三共の創薬研究者が参加。第一三共の社内外データと、エクサウィザーズの創薬領域に関するAI技術や独自モデル開発のノウハウを活かして、「深層学習を含むAI技術の現場実装」と「創薬研究者による解析結果の評価・フィードバックに基づく領域知識と融合したデータ利活用の推進」などの活動を行っている。

なお、データ駆動型創薬に関しては、田辺三菱製薬も2021年5月、AIベンチャーであるHACARUSのAI技術を使った、データ駆動型創薬のための薬物スクリーニング用AI技術を構築したと発表している。

■製薬会社の垣根を超えたAI創薬開発へ


2021年6月15日、日本のAI創薬開発のあり方を大きく変えるニュースが報じられた。読売新聞によると、「国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が、武田薬品工業など国内製薬企業17社の『社外秘』データを使って、新薬の候補物質を効率よく探す人工知能(AI)の開発に乗り出す」という。

冒頭にも述べたが、創薬事業には膨大なコストがかかる。豊富な資金をもつ世界のメガファーマに対して日本の製薬会社が後塵を拝していることは、昨今の新型コロナウイルス感染症ワクチン開発をめぐる状況からも明らかである。AMEDの事業は、そうした動きに対抗するものである。

候補物質の選定の効率化は、創薬の開発期間短縮には欠かせない技術だ。各製薬会社の垣根を超えてデータを共有し、共同で利用するというこれまでにない新しい試みに、大いに期待したい。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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