診断
加藤 泰朗 2020.8.17

ICT技術で産科の遠隔診療への道を切り拓く【遠隔医療のDX】

■求められる安心・安全な出産環境


日本の産科領域は現在、厳しい環境に置かれている。

産婦人科・産科の医師数こそここ数年横ばいで推移しているが、出生数の低下や、昼夜を問わない過酷な労働環境、高い訴訟リスクなどの問題を抱えており、今後の担い手不足が懸念されている。すでに受診機会の地域格差も大きく、必要な数の分娩施設を整備できていない自治体もある。安心・安全な出産の場の確保は、日本の産科領域の喫緊な課題である。

こうした課題に、デジタル技術を活用して向き合う企業がある。香川県高松市に本社を置くメロディ・インターナショナル(以下、メロディ社)だ。メロディ社は、2015年に創業したベンチャー企業で、ICT(情報通信技術)を活用したオンライン妊婦健診のシステム開発・普及を進めている。

■ICTを活用して周産期地域連携ネットワークを構築


メロディ社が扱うサービスは、モバイル型の分娩監視装置「iCTG」と分娩監視装置集中管理システム 「Central i」からなる、周産期遠隔医療プラットフォーム「Melody i」だ。

iCTGは、胎児の心拍を測定する装置(胎児心拍計)と、陣痛の頻度・強度を測定する装置(外側圧力計)の2つからなる。2つの装置を妊婦の腹部の適切な位置にベルトで装着・固定するだけで、病院で使用されている大型の分娩監視装置と同じデータを測定することができる。Bluetooth接続されたスマートフォンやタブレットで操作できるので、医療者ではない妊婦本人でも容易に扱うことが可能だ。それぞれスマートフォン程度の重さと軽く、コードレスのため移動の自由を妨げることもない。

IoT型胎児モニター「分娩監視装置iCTG」(プレスリリースより)

計測されたデータはWi-Fiやインターネットを経由して、医師の手元にあるデバイス(スマートフォンやタブレット)、ナースステーションのPCなどに送信され、医師や看護師、助産師はWebブラウザ上で離れた場所にいる妊婦の状況を簡単に確認することができる。妊婦の自宅でデータ収集が可能なため、医師は離れた場所でも胎児の健康状態や分娩のタイミングをリアルタイムで把握でき、適切なタイミングで通院・入院指導をすることが可能になる。

分娩監視装置集中管理システム「Central i」を導入すれば、複数台のiCTGから送信されるデータを同時に監視することができる。地域の中核病院の周産期センターにCentral i を導入し、連携するクリニック・助産院でiCTGを利用すれば、救急搬送時の胎児モニタリングも含めた周産期地域連携ネットワークを容易に構築することができるという。

周産期遠隔医療プラットフォーム「Melody i」(プレスリリースより)

2020年2月には、北海道大学病院がメロディ社のiCTGを運用した遠隔診療プロジェクトを開始した。メロディ社のシステムを使い、産婦人科医がいない摩周厚生病院と、70km以上離れた釧路赤十字病院、網走厚生病院とで連携し、胎児モニタリング情報を共有して共同で健診をするというものだ(同月18日より受診開始)。

■新型コロナウイルス対策にも活用


新型コロナウイルス対策(COVID-19)でも、メロディ社のシステムが活躍している。

新型コロナウイルス感染症の拡大で、産科でも受診による感染リスクが問題となっている。この事態を受けて、3月、北海道大学病院産科は、メロディ社のiCTGを活用して、妊婦健診のひとつである「NST(ノンストレステスト)」をオンラインで行う試みを開始した。医療施設ではなく、妊婦の自宅で本格的な妊婦健診を行うことは、国内初の試みだ。

NSTは、分娩監視装置を使って子宮収縮による負荷がない状態(ノンストレス)で胎児の心拍から胎児の健康を評価する検査。NSTを遠隔で行うことで、妊婦の通院回数を減らすことができ、院内や移動中の公共交通機関での感染リスクを減らすことにつながるという。

■ICT技術によって世界中で安心・安全な出産を


メロディ社の企業理念は、「世界中のお母さんに、安心・安全な出産を!」である。その理念どおり、海外でもICTを活用した妊婦健診事業を積極的に推し進めている。

2018年には、香川大学、NPO法人e-HCIKとともに、JICA草の根技術協力事業に参加。タイ北部・チェンマイ県で、iCTGを提供し母子保健向上事業を行っている。

さらに同年、経済産業省補助事業「飛び出せJapan!」に参加し、南アフリカの母子死亡率低減のためのiCTG海外版の実証テストと、市場性調査を実施している。

2020年6月には、ブータン王国の王立病院・保健省と連携し、ブータン国内20地区へ遠隔胎児モニタリングシステムを導入することが決まった。

今後も、ITC技術を活用し、周産期医療が進んでいない発展途上国や、高齢出産などのハイリスク妊婦が多い都市部、医療サービスが届かない僻地を中心に、世界中で安心・安全な出産の実現を目指しているという。


産婦人科医への扉(公益社団法人 日本産科婦人科学会)
https://www.jsog-tobira.jp/tobira/environment
メロディ・インターナショナル
https://melody.international
妊婦への感染拡大を防ぐため「通院しない」オンライン妊婦健診・診療をサポート
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000038603.html
印刷ページを表示
WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
他カテゴリの記事を読む

DXによる医療・ヘルスケアの
変革を伝えるメディア

会員登録

会員登録していただくと、最新記事を受け取れたり、その他会員限定コンテンツの閲覧が可能です。是非ご登録ください。