診断
Medical DX編集部 2020.8.12

AIを用いたインフルエンザ検査法を開発!匠の技を医療の現場に届けるアイリスの取り組み

近年、日本でもAI医療機器のスタートアップ企業が増えてきている。AIを用いた、高精度かつ早期診断対応のインフルエンザ検査法の開発で注目を集めているアイリス株式会社の執行役員COO・田中大地氏に、その検査法のポイントやAI医療機器の可能性などを聞いた。

■最高の医療技術をAIを用いて汎用化する


ーーアイリスがAI医療機器開発に取り組むことになったきっかけからお教え願えますか?

田中:アイリスの創業者である沖山翔がつくったコンセプトから始まります。沖山は医学部を卒業後、救命救急医として働いていました。救命救急医は、あらゆる病気やケガをした、目の前の患者さんを助けるという仕事。自分の意思決定ですべてが変わるという仕事のなかで、すべての専門医の持つ技術を自分のなかで内製化できたら、どんな患者さんも救えたのではないかという思いを持ったといいます。

そこで、A I技術に注目しました。アイリスでは、AI技術を文字以来の革命的な発明だととらえています。最初に言語がありますが、文字は人の知識を外部化できて、距離や時間を越えられるツールです。その後、活版印刷で紙に情報を残すことができるようになって後世に知識をより伝えられるようになり、インターネットによってリアルタイムに距離を越えられるようになりました。

ーー確かに、そうした発展の歴史ですね。

田中:そして、AIによって初めて人の技術を外部化できるようになりました。昔は、技術というものは、その技術を持っている人が亡くなってしまうと失われてしまうもの、継承できないものでしたが、AIを用いることによって技術の外部化が可能になり、技術を後世に残すことが可能になったととらえたのです。

人の生死にかかわる医療においては、この技術をフルに活用して発展させ続けなければならない。アイリスという社名は、医学の祖であるヒポクラテスが言った“Art is long, life is short”の頭文字からとっています。この言葉は「医学の手技を身につけるには、人生は短すぎる」といった意味ですが、私たちはAIの技術を活用することで、たとえ若手医師であってもベテランの専門医と同様の診断ができる、治療ができるようにする、というものを目指したいと考えています。

■毎年日本国内だけでも2,000万人以上がかかるインフルエンザ


ーーそれでは、AIを活用したインフルエンザ検査法の開発を行うのはどういった経緯からでしょうか?

田中:まず、我々は、現在のインフルエンザ検査法に課題が多いと考えているからです。現在の検査法は鼻から検体を採取するイムノクロマト法というものですが、鼻にスワブキットと呼ばれる棒を突っ込んで鼻腔奥から検体を採取するため、かなり痛みがあります。こうした痛みを伴うものを侵襲性が高いといいますが、にもかかわらず診断の精度が低いという課題があります。

アメリカのシステマティック・レビューでは62%程度しか感度が出ないという報告がなされています。これは3人に1人ほどは、本当はインフルエンザ陽性なのに陰性と出てしまうということ。今回のコロナウイルスでもわかるように、陽性にもかかわらず陰性と出た方は普通に行動してしまいますので、知らぬ間に感染を広めてしまいます。そうした状況も反映して、インフルエンザは毎年日本国内だけで2,000万人くらいの方がかかるという深刻な状態にあります。

またイムノクロマト法は、発症してから24時間以内の検査だと診断精度が十分に上がらないといわれており、早期診断が基本的にはできないのです。

■「匠の技」を再現するインフルエンザ検査法で課題を解決


ーー現状のインフルエンザ検査法にはそのような課題があったのですね。

田中:はい。そうしたなか、内科医の宮本昭彦先生が発表された画期的な論文に出会いました。それは、インフルエンザにかかると喉頭にインフルエンザ濾胞という、ほかの風邪などとは異なる特徴的な腫れ物ができて、その濾胞による診断では98.8%の感度だったというものでした。

ただ、咽頭の状態を見てインフルエンザと診断するというのは、ほかの医師が再現しようと思ってもなかなかできないものです。たとえ濾胞があったとしても、それがインフルエンザによるものなのか、それ以外のものなのか。これは、インフルエンザ濾胞という仮説を立てて、咽頭と濾胞を何十年と見続けてきたからこそ見分けることができる、宮本先生の「匠の技」です。

この「匠の技」が失われることがないように、また誰もが使える技にできないかという思いから、AIがもっとも得意としている画像診断技術を使うことを考えました。

ーー現在の開発状況と、現場に導入したときのメリットを教えてください。

田中:現状としては、咽頭の画像を撮影するために特化したカメラはすでに完成しています。その画像をすぐに陽性・陰性と判定できるAIをつくるプロセスにおいては咽頭の画像枚数が重要になってきますが、すでに日本国内だけで10,000人を超える症例規模にて臨床研究法上の特定臨床研究を含む複数の臨床試験を実施し、データを集積してきました。世界で唯一、これだけの規模の咽頭画像を保有している企業といえるでしょう。

医療現場に導入した際のメリットとしては、大きく分けて4つ出したいと考えています。ひとつ目は、検査時に痛みがないので侵襲性が低い。2つ目に、AIを活用した高精度な診断、3つ目は、現状の検査よりも早期診断を可能とします。現状の検査法の課題をいずれもクリアするものですね。

4つ目としては、医療機関の業務効率化につながります。現状の検査だと、結果が出るまでにだいたい15分くらいかかりますので、オペレーションとしては検査をして、そのあと患者さんに待合室で待っていただき、結果が出てからお伝えするという形になります。私たちのデバイスですとこれらを1回で済ませることができます。また、院内感染のリスクも減らせるのではないかと考えています。

ほかには、将来的にはオンライン診療との組み合わせも考えられると思っています。

■暗黙知を可視化して、多くの疾患を解決したい


ーー先日、アイリスがPreferred Networks社のAI医療機器開発支援をしていくというニュースが発表されましたが、今後の展望はどのようにお考えでしょうか?

田中:アイリスのミッションは、インフルエンザのみならず、「専門技術を誰でも使えるものにする」ことです。この世の中で未解決の疾患は2,000以上あるのですが、「専門技術を誰でも使えるものにする」ことで、これらを同時代でできるだけ多く解決していきたいと思っています。

そのためには、すでに強い領域、たとえばCTやMRIといったモダリティ・デバイスをもっているメーカーに対して、アイリスがもつAIの技術や開発のノウハウを提供して、相補的に強い技術を組み合わせたAI医療機器を広めていければと考えています。

アイリスが独自に力を入れていく領域としては、たとえば咽頭やリンパを診る、触診をするといった身体診察の領域を考えています。とくに咽頭は、風邪の診察などでも医師が必ず見る部位であって、医師観点では非常に豊富な情報量をもっている部位といえます。いままでは医師が暗黙知で咽頭から診断しているわけですが、その暗黙知はデータ化されてきませんでした。これは、研究されきっていない領域だともいえます。社内に、各診療科で臨床経験も豊富でテクノロジーの知見も深い医師が5名いるアイリスだからこそ、医師視点からこうした暗黙知を可視化・データ化・定量化することで、多くの疾患の解決につなげていきたいと思います。


<プロフィール>
田中大地(たなか だいち)
アイリス株式会社執行役員COO。 1985年生まれ。早稲田大学社会学部卒業後、リクルート入社。営業、ネットビジネス推進室にて事業開発を経験後、エス・エム・エス社へ。認知症領域で医療メディアを立ち上げたのち、アジア最大の医師プラットフォーム企業MIMS社買収に伴いシンガポールへ。同Web部門のヘッドとして製薬マーケティング支援に携わり、アイリスの創業期に参画、2019年4月から現職。
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