診断
加藤 泰朗 2021.11.16
日本の医療AI最前線

病理医不足解消の切り札になるか? 進む病理診断へのAI活用研究

■病理診断の課題克服に向けたAI活用


患者の身体から採取した病変の細胞や組織から疾患を診断することを「病理診断」という。病理診断は適切な治療を決定するための最終診断となるため、病理医を「Doctor of Doctors(医者の医者)」と呼ぶこともある。

いま日本の病理診断は大きな課題を抱えている。深刻な病理医不足である。

人口あたりの日本の病理医数は、アメリカの1/3以下といわれる。400床以上の急性期病院で、常勤病理診断医が1人もいない病院が約3割、常勤病理診断医がいる病院でも4割強が1人だという。

この状況を改善するひとつの手段として注目されているのが、病理診断へのAI活用だ。以下に、病理診断にAIを活用する注目の研究を2つ紹介する。

■病理組織デジタル標本から浸潤性乳管がんの検出に成功


デジタル病理支援ソリューション「PidPort」を提供するメドメインは2021年11月2日、ディープ・ラーニング(深層学習)を用いて、病理組織デジタル標本の浸潤性乳管がんを検出するAI開発に成功したと発表した。

国立がん情報センター「最新がん統計」によれば、2018年統計で女性のがん罹患率1位は乳がんで、今後も上昇傾向にあるという。生検などに加えて、術中迅速病理診断や治療方針決定のための重要な評価項目を検索するために、乳腺領域における病理診断はきわめて重要である。

メドメインは、国内の複数の医療機関から乳腺病理組織標本の提供を受けて、転移学習(partial fine-tuning法*)と弱教師あり学習(標本レベルでの診断情報付与)のみで、効率的かつ高精度の深層学習型AIを開発。開発したモデルを、生検標本、手術標本、公的データベース(TCGA:The Cancer Genome Atlas**)から得た標本で検証したところ、いずれの検証症例でもROC-AUC***が0.95~0.98という高い精度結果を得られた。また、AIで検出しヒートマップで表示した浸潤性乳管がんの可能性をある領域を病理医が検証し、妥当性が確認できたという。

今後、開発したAIモデルをさらに複数施設や大規模症例で検証するとともに、転移学習における基礎的研究開発を進める。

AIで検出しヒートマップで表示した浸潤性乳管がんの可能性がある領域の妥当性を確認できた。

*ある領域で学習済みのモデルを別の領域に役立たせる方法。fine-tuning法とは、その際に別の領域に合わせて微調整を加えること。
**米国がん研究所(NCI:National Cancer Institute)と米国ヒトゲノム研究所(NHGRI:National Human Genome Research Institute)の共同プロジェクトであるデータベース。
***感度と偽陽性率の関係を示すROC(Receiver Operating Characteristic)曲線の下の領域(AUC:Area Under Curve)の面積で精度を判定する方法。最大値1.0に近いほど精度が高い。

■胃生検病理標本に感度100%、特異度50%以上を達成


オリンパスは2021年8月25日、複数の医療機関と進めるAI病理診断支援ソフトウエアの実用化に向けた共同研究で、医療機関から提供された胃生検の病理標本に対して感度(陽性を陽性と診断する割合)100%、特異度(陰性を陰性と診断する割合)50%以上の精度を達成、汎用性を実証したと発表した。共同研究に参加した医療機関は、呉医療センター・中国がんセンター、大阪医療センター、四国がんセンター、長崎医療センター、広島記念病院、呉市医師会病院の6施設。

AIによる病理診断支援への需要の高まりを受け、オリンパスは2017年から呉医療センター・中国がんセンターと研究の第1フェーズとなる共同研究を開始。368件の胃生検の病理ホールスライド画像(病理スライド標本全体の高倍率画像)をもとに、感度100%、特異度50%の精度をもつAI病理診断支援ソフトウエアを開発した。

2020年11月からは研究の第2フェーズとして、先に挙げた6施設と共同で、製品化に向けたAI病理診断支援ソフトウエアの汎用性の検証および精度向上のための研究に取り組んできた。今回発表された成果は、この第2フェーズの研究のものである。

第2フェーズの研究は、「学習ステップ」と、「推論ステップ」の2段階で構成されている。

第2フェーズの研究の全体像。なお、図中のA,C,E,G,H,I は研究に参加した6施設をさす。

「学習ステップ」では、呉医療センター・中国がんセンターを含む3施設が所有する病理ホールスライド画像の各画素に病理医によるアノテーションを付けて、教師データを作成。957件の教師データを畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)に学習させ、画像の腺がん組織領域を識別させた。

「推論ステップ」では、その学習モデルを用いて、6施設が所有する病理標本から作製した1183件の病理ホールスライド画像を、腺がん画像と非腺がん画像に分類。結果、6施設すべてで感度100%、特異度50%以上の精度を達成した。

今後は、共同研究の期限である2023年まで、学習件数の追加とAIアルゴリズムの改良を進め、さらなる精度向上と汎用性の確立に取り組むという。

■日本病理学会が進めるAI開発に注目


これまでAIを用いた病理診断の研究では、診断に使用する病理標本のばらつき(標本作製する施設ごとに厚みや色味が異なるため)が問題として指摘されてきた。今回のオリンパスと6医療施設との共同研究では、施設ごとの病理標本の差異に影響を受けずに判断できるAIアルゴリズムが実現しており、実用化に向けて一歩前進したといえる。

日本病理学会は、2018年より日本医療研究開発機構(AMED:Japan Agency for Medical Research and Development)の「臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業」の支援を受けて、「病理診断支援のための人工知能(病理診断支援AI)開発と統合的『AI医療画像知』の創出」プロジェクトに着手している。

プロジェクトでは、病理診断支援AIを開発・実装し、病理診断ネットワーク基盤を介して、全国に病理診断支援を提供できる体制を構築するために、AIによるダブルチェックシステムの開発、病理診断報告書の標準化、診療科間の画像情報統合によるAI医療画像知の創出などの研究が進められている。今後の動向に注目したい。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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