診断
加藤 泰朗 2021.5.21
日本の医療AI最前線

がんをはじめ、診断支援領域でのAI活用が急速に進行中!

■国をあげて推進される日本の医療AI


急速な高齢化や疾病構造の変化による社会保障費の増大、人口減少による医療従事者の不足、業務負担の増加など、多くの課題を抱える日本の医療。デジタルの力でこれらの課題解決に取り組む動きが、国をあげて進められている。

なかでもAIについては、厚生労働省が「保健医療分野AI開発加速コンソーシアム」を設置し、重点6領域(ゲノム医療画像診断支援、診断・治療支援、創薬、介護認知症手術支援)を定めるなど、積極的な動きが見られる。

実際に業務効率化や受診相談、診断支援など、医療のさまざまな領域でAIの利活用が進んでいる。今回は、診断支援に注目して、日本でのAI活用の現状をレポートする。

■AIの医活用が進む「がん」領域


がんは、日本人の死因の第1位で、年間30万人以上が亡くなるという。さまざまながんに対して、画像診断補助を中心に、AIが活用されている。以下に、代表的ながんの研究・開発状況をまとめる。

肺がん


日立製作所は2019年、肺がんCT検診で撮影した3次元CT画像を、ルールベース法✳︎のアルゴリズムとディープラーニングとを融合したハイブリッドCAD✳︎✳︎で解析するシステムを開発した。肺がんの評価項目となる充実性結節病変の検出率は93.4%に達成している。

✳︎ある条件が成立する際に何をすべきかというルールをあらかじめ用意し、それに基づいて問題解決に当たる方法。
✳︎✳︎Computer-aided Diagnosis。AI技術を活用した画像診断支援システム。

2020年10月には、AIベンチャーPreferred Networksが、京都府、京都府医師会らの協力のもと、深層学習技術を用いた胸部X線画像診断補助ツールを開発。京都府で実施する肺がん検診に試験導入すると発表している。

大腸がん


オリンパスは2019年3月、大腸病変をリアルタイムで解析してポリープの腫瘍性/非腫瘍性の可能性を数値化する、AI搭載内視鏡画像診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」の販売を開始。2020年5月には、検査中の大腸病変の見落とし防止支援ソフトウエア「EndoBRAIN-EYE」を、2021年2月には大腸の浸潤がん診断用ソフト「EndoBRAIN-Plus」を、それぞれラインアップに追加している。

2021年1月には、NECと国立がん研究センターが、大腸内視鏡検査時に大腸前がん病変と早期大腸がんをリアルタイムに自動検出できるAI診断支援医療機器ソフトウエア「WISE VISION 内視鏡画像解析AI」を共同で開発し、医療機器として承認されたと発表している(「NECと国立がん研究センターが大腸がんの内視鏡診断をサポートする画像解析AIを共同開発」)。

大腸がんの多くは、前がん病変である腫瘍性ポリープから発生するため、検診で前がん病変を見つけられることが重要である。「WISE VISION」では、10,000病変以上の早期大腸がん画像と、国立がん研究センター中央病院内視鏡科スタッフが所見をつけた前がん病変の内視鏡画像250,000枚(静止画・動画)を、AIに学習させたという。

胃がん


がん研有明病院とAIメディカルサービスらの研究グループは2018年1月、AIを活用して胃内視鏡静止画像から胃がんを検出する内視鏡画像診断支援システムを開発。同年11月には、このシステムを応用して世界で初めて、早期胃がんの内視鏡治療時動画からリアルタイムで胃がんを検出する支援システムを構築した。全胃がんの検出率は94.1%と高精度である。

肝がん


肝がんでは、数種類の患者データから肝がんの存在を予測する研究が行われている。東京大学と島津製作所は2019年5月、ディープラーニングなどの手法を用いて、患者データから得られる予測能を最大化する学習アルゴリズムと、学習パラメーターを自動抽出するフレームワークを作成した。腫瘍マーカー、肝炎ウイルスの有無、患者年齢など、16項目の患者データを用いて予測し、従来の腫瘍マーカーでの予測と比較したところ、診断率が飛躍的に向上したという。

画像診断支援はAI活用が進んでいる領域といえる

■待たれる膵臓がん診断へのAI活用。がんゲノム医療にも期待


日本の種類別がん死亡数(男女総数)の上位のうち、肺がん(1位)、大腸がん(2位)、胃がん(3位)、肝がん(5位)は、上記で紹介した。しかし、4位の膵臓がんは初期段階で発見することはたいへん難しく(膵臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれる)、AIを活用した診断技術は、国内ではまだ開発されていない。

ただ世界に目を向けると、2020年7月に台湾大学医学院の研究チームが世界で初めて、AIを使って1㎝サイズの膵臓の腫瘍を発見できる技術の開発に成功している。今後日本でも同様の技術開発が進むことに期待したい。

また、がんゲノム医療にAIを活用する研究も始まっている。がんゲノム医療とは、「がんが発生した臓器」ではなく、がん患者の遺伝子変異から、病気のなりやすさ、薬の反応性や副作用などを予測し、最適な治療を行うというもの。

がんゲノム医療では、明らかになった遺伝子変異に対する診断や治療法を、膨大な医学論文データベースから探し出して選択する必要がある。この作業をAIに支援させる研究を進めているのが、富士通研究所。東京大学や愛知県がんセンターと共同で、がんゲノム医療に関し、AIを活用したさまざまな取り組みを行っている。東大との実証実験では、遺伝子変異の検討時間を半分以下に削減したという。

■そのほかの疾患の診断へのAI技術の活用例


富士通は、理化学研究所、昭和大学と連携し、先天性心疾患を胎児期に早期診断するための技術開発も進めている。新生児約100人に1人が発症するといわれる先天性心疾患。新生児死亡の大きな要因ともなっている。

富士通らの研究は、AI技術のひとつである「物体検知技術」を活用し、胎児の心臓構造の異常を自動検知するもの。胎児の胃から心臓に向け一定方向に超音波を当ててスキャニングし、得られた画像に胎児の心臓とその周辺臓器の18の部位が実際に映っているかを検証。検知されない、あるいは確信度が低い場合は異常と、リアルタイムに判定できるという。

大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる難病である潰瘍性大腸炎については、オリンパスが2021年2月、AI搭載内視鏡画像診断支援ソフトウエア「EndoBRAIN」で使用する炎症活動性評価用ソフト「EndoBRAIN-UC」を発表している(「大腸内視鏡検査をAIがサポート!」)。

大阪大学と東京大学の研究グループは2019年に、脳磁図✳︎から神経疾患の自動診断を行うシステムを開発。脳磁図データから自動で複数の神経疾患を判定できることを明らかにしている。

✳︎脳の電気的活動によって生じる磁場(磁力線)を測定・解析する検査。

上記のように、すでにさまざまな疾患の診断支援にAIは活用され始めている。今後、AI技術の進歩と、各疾患に関するデータが整理・蓄積されることで、さらに多くの疾患の診断支援にAIが活用されることが期待される。


【参考】
肺がん
https://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2019/03/05b04/index.html
大腸がん
https://www.olympus.co.jp/products/medical/?page=products
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/20210112/index.html
胃がん
https://www.jfcr.or.jp/hospital/information/general/5802.html
肝がん
https://www.shimadzu.co.jp/news/press/mz08enaqr3l0hirh.html
がんゲノム医療
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2020-01-23/01/
先天性心疾患
https://blog.global.fujitsu.com/jp/2019-02-20/01/
潰瘍性大腸炎
https://www.olympus.co.jp/news/2021/contents/nr02027/nr02027_00002.pdf
神経疾患
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20190326_1
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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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