診断
加藤 泰朗 2021.5.11

AIで変わる! アルツハイマー型認知症のスクリーニング法

■3秒に1人が罹患する認知症。対応の要は早期発見


2015年には、すでに世界の約5000万人以上が罹患し、約3秒に1人の割合で新規の患者が増え続けているといわれる認知症。急速に高齢化が進む日本でも、認知症は大きな社会問題になっている。厚生労働省の資料によると、日本の認知症患者数は2012年に462万人、2025年には700万人にまで増加すると推定されている。高齢者の5人に1人が認知症を患うことになるという数字だ。

認知症の原因疾患は100以上あるが、患者の50〜60%を占めるのがアルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease)である。アルツハイマー型認知症の治療薬は、現在のところ開発のめどが立っていない。そのため、アルツハイマー型認知症になるおそれのある患者をいかに早期に発見・診断し、リハビリテーションなどで予防的に介入して発症を遅らせるかが重要となる*。いま、この「アルツハイマー型認知症の早期発見・診断」の部分にAIを活用する技術開発が進んでいる。

認知症のおもな原因疾患(出典:厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」)

*『Alzheimer's Association Report 2019』には、アルツハイマー型認知症の発症を1年遅らせることで、今後40年間にアルツハイマー型認知症患者の数を900万人以上減少させる可能性が示唆されている。Alzheimer's Association(2019)' Alzheimer's Association Report 2019 Alzheimer's disease facts and figures'. Alzheimers & Dementia 15:321-387.(玉岡晃(2019)「認知症の発症予防の現状」『MB Med Reha』241:1-5.)

■軽度認知障害患者のMRI画像などから
将来のアルツハイマー型認知症進行をAIが予測


軽度認知障害(mild cognitive impairment)に注目して、AIの力をアルツハイマー型認知症予防につなげようとするのが、富士フイルムの開発する技術だ。

軽度認知障害は、正常と認知症との中間に位置する認知機能の状態のこと。軽度認知障害患者は、年間で10〜30%、4年で約半分が認知症に進行するため、「認知症予備軍」ともいわれる。2012年の調査で、日本にはすでに400万人の軽度認知障害患者がおり、その数は増え続け、2018年には550万人に達していると推定されている**。

日経新聞によると、富士フイルムは、以前に撮影した軽度認知障害患者の脳のMRI画像や認知能力テストの点数、年齢、遺伝子情報をAIに解析させて、2年後にアルツハイマー型認知症に移行するか軽度認知障害のままかを予測させたところ、85%の確率でスクリーニングに成功した。2024年より実用化をめざすという。

脳のMRI画像をAIで診断する(参考画像:shutterstock)

**朝田隆(2019)「MCIへの積極的介入を考える」『老年精神医学雑誌』30[増刊号-1](2):128-133.

■医師の問診内容から認知機能の低下をスクリーニングする


自然言語処理に特化したデータ解析企業、FRONTEOは2021年4月30日、「会話型 認知症診断支援AIシステム」を使用し、被験者と医師との会話データを解析して認知症のスクリーニングに活かす臨床試験を始めると発表した。

同システムには、独自の自然言語解析AI「Concept Encoder」が搭載されており、患者と医師とのあいだの5〜10分程度の日常会話から、認知機能障害をスクリーニングする。

臨床試験では、医師の問診とあわせて、被験者に認知症診断用の神経心理学的検査(MMSE***など)を実施。AIによる問診時の会話のテキストデータ解析と、神経心理学的検査の結果とを比較し、同システムの有効性を確認するという。

AIシステムによる認知症診断支援が可能になれば、専門医以外の医師でも利用できるため、患者が診断を受ける機会が増え、認知症の早期発見・治療につながることが期待される。

***ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination)の略。世界中で最も多く用いられている認知症の検査で、アルツハイマー型以外の認知症のスクリーニングにも利用可能。

■顔写真をAIで解析することで、認知機能低下を把握


顔写真から認知機能低下をスクリーニングするという驚きの研究も進んでいる。

東京大学と東京都健康長寿医療センター、日本医療研究開発機構は2021年1月26日、AIで認知機能の低下した患者と健常者の顔写真を見分けられたと発表した。顔だけで認知症をスクリーニングする世界初の成果である。

東京大学医学部附属病院老年病科を受診して物忘れを訴える患者と、同大学高齢社会総合研究機構が実施している大規模高齢者コホート調査の参加者から、同意を得て撮影した正面の表情のない顔写真をAIで解析し、認知機能低下群と正常群とを弁別できるか実験した。何種類かのAIモデルを試し、最もよい成績のモデルでは感度87.31%、特異度94.57%、正答率92.56%という結果を得られたという。今後は、より多くの顔写真を集めてAIに学習させて、精度を高め実用化をめざす。

■AIで身近なものがスクリーニング法に変わる


世界に目を向けると、アメリカでは、簡便な認知機能スクリーニング検査として長年利用されてきた時計描画テスト(clock drawing test)をデジタル化し、描画結果だけでなく、動きや空間パターンなどの描画プロセスをAI分析することで、認知機能障害の微妙な兆候を明らかにする研究に成功している(Linus Health社の「DCTclock」)。

認知症の早期発見には、誰でも簡単にスクリーニングを受けられる環境を整備することが重要となる。今回紹介した技術は、AIの情報処理能力、深層学習を活かして、従来医療で行われてきたもの(問診やMRI検査、認知機能テスト)だけでなく、身近にあるもの(顔写真)も、精度の高い認知症スクリーニング法になる可能性を示している。

さまざまな情報が集積されるいま、ビッグデータを活用し、より身近で簡便な、ゲーム感覚で日常的に行えるような認知症のスクリーニング法が今後開発される可能性は、十分にある。

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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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