診断
加藤 泰朗 2021.3.11
世界の医療DX事情

遠隔医療、AI画像診断、オンライン薬局、急速に進むインドの医療DX事情

■医師不足、医療関連施設へのアクセス格差、課題山積の医療


中国と並んで、医療のDXを力強く進めるアジアの新興国がある。インドだ。

13億6,641万人の人口を抱えるインド(国連「世界人口推計2019年版」より)では、医師不足が深刻な課題である。日本の経済産業省の調査によると、2019年時点でインドの医師数は108万人。1万人あたりに換算すると、わずか8人である(ちなみに日本は、2018年時点で1万人あたり約25人)。そのほかにも、医療関連施設の都市部への集中、疾病構造の変化(非感染症の増加)、膨らむ医療費など、インドの医療は、さまざまな課題を抱えている。

こうした課題を解決すべく、インドでは医療DXが進められている。以下に、とくに成長分野である遠隔医療を中心に、注目のデジタルサービス、アプリを紹介する。

■急速に成長するオンライン診療アプリ


ヘルステックスタートアップのDocsApp社のアプリは、オンラインで医師の診察を受けられる遠隔診療サービスである。都市部に医療関連施設が集中する一方で、減少傾向にあるとはいえ、農村部に2020年時点で人口の6割以上が居住するといわれるインド。彼らの医療関連施設へのアクセス向上は、大きな課題であった。DocsApp社のアプリは、こうした課題解決に取り組むものである。

DocsApp社の遠隔診療サービスのアプリ(sdx15 / Shutterstock.com)

アプリに症状や性別などの基本情報を入力すると、入力内容に合った専門医師が紹介される。紹介された医師の受診を希望すると、30分以内に医師からコールバックがあり、オンライン診療が開始されるしくみだ。

診療の形式は、チャット、ビデオ通話、電話の3形式。毎日24時間の対応で、診察料をオンラインで決済することも可能だ。5,000人以上所属する医師の専門分野は多彩で、一般内科、婦人科、小児科、皮膚科、精神科のほか、体重管理、ヘア・スカルプ・ケア、性に関する問題など、さまざまな相談を受けられる。診療後は、発行された処方箋をもとにアプリから処方薬の購入とデリバリーを依頼することもできる。

AIを活用したヘルステックを展開するスタートアップmfine社も同様のサービスを展開し、急成長を遂げている。DocsApp社のアプリとの違いは、医師個人ではなく、病院と連携をとっている点だ。550以上の病院と連携し、30の専門分野で、専門医のオンライン診療を受けることができる。

Health Arx Technologies社の「BeatO」は、糖尿病患者の遠隔診療に特化したアプリである。スマートフォンに専用デバイスを接続し、血糖値を測定、アプリで管理する。ほかにも、日々の歩数や摂取カロリーなどを記録できる。血糖値が管理範囲を超えるとアラートで知らせる機能があり、必要時にはアプリから専門医につなげることもできる。

インドでは同様の遠隔診療サービスが急成長を遂げている。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大と、それに伴う全土封鎖が、さらにその傾向を後押ししている。

■AIを活用した注目の診断支援システム


DeepTek社は、放射線科医師向けにAIを活用した診断支援システムと、システムを使った遠隔読影サービスを提供するスタートアップだ。

2018年より日本のNTTデータと連携し、AI画像診断の実証実験を行っており、2020年5月にはインド南西部、ムンバイの南170kmに位置するプネー市の病院でCOVID-19診断の支援を行っている。2021年1月からは、マイクロソフト社とも連携し、インドにおける約10万人の結核診断へのアクセス向上支援を開始した。

Niramai Health Analytix社の「Thermalytix」は、AIを活用した乳がん診断支援技術である。通常、乳がんの検診にはマンモグラフィを用いるが、同社の技術は、サーモカメラで乳房を撮影し、その画像を独自のAIアルゴリズムで解析する点が特徴だ。マンモグラフィよりも簡易にかつ高い検知率で、乳がんの有無の検知が可能だという。

■競争が激化するオンライン薬局・医薬品配送サービス


オンライン薬局も、医療関連施設へのアクセスに格差が大きいインドでは、力強い成長を続けるヘルステックだ。

オンライン薬局サービスを展開するスタートアップ、PharmEasy社の「Healthcare」は、アプリで薬を購入できるサービスだ。アプリで薬を注文すると、1,000以上の都市で、48時間以内に自宅まで配達される。処方箋がなくても、購入時に医師に無料相談を受けることも可能である。

同様のオンライン薬局サービスは、オンライン薬局最大手のMedlife社、処方箋医薬品やジェネリック医薬品などの配送を手がけるNetmeds社なども展開している。

処方箋医薬品やジェネリック医薬品などの配送を手がけるNetmeds社(sdx15 / Shutterstock.com)

また、2020年8月、米・Amazon社がインドでオンライン薬局サービス「Amazon Pharmacy」を開始したことは当サイトでも既報である。さらに2020年12月には、同社がインドの薬局チェーンApollo Pharmacyへの投資を検討していると報じられた。

インドのオンライン薬局の競争は、今後ますます激化していくことが予想される。

■全土共通のデータベース構築で、医療DXがさらに加速


2020年8月15日には、インドのモディ首相は「ナショナル・デジタル・ヘルス・ミッション(NDHM)」の開始を発表した。国民に特異に振られる保健IDを配布し、その番号を使って、個人の疾患、診断、レポート、診療などの情報を共通データベース上で管理しようというものだ。

共通データベースには、インド全土の医師や医療施設の登録情報が紐づけられる計画で、これによりすべての州、病院、薬局などで利用可能な医療デジタル情報の基盤が整備されることになるという。計画が順調に進めば、インドの医療DXが加速する契機になることは間違いない。


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WRITTEN by

加藤 泰朗

1973年生まれ。人文系・建築系・医学看護系の専門出版社を経て、独立。
フリーランスとして、編集・ライティングを行う。
難しいことを楽しく、わかりやすく伝えることを大切にしています。
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